作品タイトル不明
65.順調です。
洞窟の中で順調に成長を続ける野菜たちを見る。
少しずつ環境を魔界に近付けているが、今のところ成長は止まっていない。
「問題はないか?」
野菜の成長記録を書き込んでいる農業隊のファーストに声を掛ける。
「はい。成長は少しゆっくりですが、問題のない範囲です」
あれ?
ゆっくり、なのか?
全然気付かなかった。
「野菜に流れる力ですが、上手くコントロールできています。今の状態が続くと、予想通りの時期に収穫できるでしょう」
「そうか、良かったよ」
「ただ、洞窟の隅に移した野菜なんですが……」
ファーストの視線が洞窟の隅に向く。
そこは周りとは異なり、鬱蒼と葉が茂っている。
「あれは葉野菜だったよな?」
「はい。通常はもっとゆっくり育つ野菜です。今までは他の野菜と変わらなかったのですが、この洞窟で育てるようになってから、成長が通常の3倍になりました。大きさも今の段階で2倍ほどです」
成長が早くて、大きいか。
成長が止まるのは聞いていたけど、まさか速まってデカくなるとは。
「野菜自体に問題は無いのか?」
「はい。野菜が内包している力は、この洞窟の中に流れている力の配分と一緒です。野菜の栄養にも、問題は見られませんでした」
つまり、成長速度と大きさだけが問題?
野菜自体に問題が無いなら、このまま成長させて種を採ってもいいかもしれない。
でも、本当に問題は無いのか?
あっ、食べたら凄く苦いとか渋いとか?
「食べてみるか」
「えっ!」
俺の言葉にファーストが驚いた声を出した。
だって、味は食べないと確かめようがないだろう?
うん、ちょっと食べてみよう。
「それは、駄目です」
「毒でもありそうなのか?」
でもそれなら既に報告しているよな。
「ありません」
「それならいいだろう。ちょっと食べるだけだから」
苦かったり渋かったりしたら嫌だから、ほんの少しにしよう。
鬱蒼と育っている葉野菜のもとに行き、葉っぱを一枚ちぎる。
「ですが、何か問題が起きたら」
「ファーストが調べて野菜自体には問題が無いんだろう? それなら大丈夫だって」
ファーストの調査結果を信じる。
香りは、特におかしくはない。
葉っぱを口に入れて食いちぎる。
うん、苦くないし渋くもない。
「これ……うまいな」
味はレタスに似てるな。
というか、元々この野菜はレタスに似た味の野菜だったな。
でも……こっちの方がうまく感じるのはどうしてだろう?
「大丈夫ですか? 味に違和感はないですか? ヒールが必要ですか?」
俺の様子を心配そうに見るファーストに笑みが浮かぶ。
というかヒールって、苦しんでもいないのに必要ないだろう。
「問題ないよ。通常の物より、こっちの方がうまい。あぁ、コクがあるんだ」
「本当ですか?」
「うん」
残っている葉っぱを食べる。
やっぱり、こっちの方がうまいな。
そういえば、魔神力と闇の魔力の方が多く含まれる野菜を食べたのは初めてだな。
体内の力を調べてみるけど、変化は……なし。
まぁ、食べた量が少ないから変化なんて起こるわけがないよな。
「良かったです。では、この野菜もこのまま成長させて種を採ります」
「うん。宜しく」
って、宜しくではない。
この野菜が今の成長を続けると、すぐに種が出来てしまう。
次の洞窟は……えっと、アリ達が洞窟を作ってくれていたよな。
確か、完成したと……いや、連絡はまだきていない。
そうだ、まだ成長には時間が掛るから、魔界の農園づくりの方を優先してもらったんだ。
サブリーダーに連絡を取ってもらって、洞窟を完成させないと。
間に合うかな?
鬱蒼と育つ野菜を見る。
まだ花は付けていない。
だから、きっと大丈夫の……はず。
とりあえず今日中に、サブリーダーと連絡を取ろう。
「今日はここまでです」
ファーストの仕事が終わったみたいだな。
「帰ろうか」
「はい」
洞窟から出ると、コアとその子供達が待ってくれていた。
その隣には、見たことが無い魔物。
「今日の獲物か? 随分と……不思議な色合いだな」
真っ青な毛をした魔物なんて初めて見た。
奇抜な色だけど、綺麗だな。
「新しい大地に現れた新種だ。走るのが本当に速かった。あと尻尾にトゲがある」
コアの説明に、魔物に近付く。
尻尾の先には、確かにトゲが見えた。
しかもかなり鋭いトゲの様だ。
ぶつけられたら、大怪我間違いなしだな。
「脚が速くて、尻尾の攻撃が特徴か?」
あれ?
速く走る魔物にしては、足の裏が綺麗だな。
地面を蹴る力が大きい魔物は、もっと凸凹している事が多いのに。
これで本当に速く走れるのか?
「風魔法を使う魔物のようだ」
コアの言葉に、驚いてもう一度魔物を見る。
「魔法?」
「あぁ、風魔法を使って速く走っていた」
それって、俺達が使っている方法だな。
同じ事が出来る魔物が現れるとは思わなかったな。
「そうか。倒せない事は無いんだな?」
「全く問題ない。動きが速いが、それだけだ」
倒せるなら問題ないな。
「分かった。脚が速かったのなら、疲れていないか?」
あとこの魔物で気になるのは、うまいかどうかだな。
前に新しい大地で見つけた新種は、もの凄く不味かった。
あれには、皆でビックリしたよな。
それまで色々な魔物を食べて来たけど、不味かった事が無かったから。
「全く問題ない。ところで野菜は順調なのか?」
コアの言葉に頷く。
「あぁ、植えた野菜は全て順調に育っている。中には、予想外に早く成長する野菜もあるんだ」
「そうか。心配していたからよかったな」
コアの言葉に、手をぐっと上に伸ばして頭を撫でる。
コアの成長は止まってくれたけど、デカいよな。
「よしっ、家に帰ろうか」
狩った魔物もいるし、転移魔法で帰ろうかな。
「転移魔法を使うよ。皆近付いて」
俺の言葉に、離れて警護していたコアの子供達が集まってくる。
それを確認しながら、転移魔法を発動させる。
すぐに目の前に黒い枠が現れ、家の広場が見えた。
広場にいる蜘蛛達が転移門に気付いたのか、手を振ってくれた。
それに振り返すと、コアを見た。
既に、魔物は空中に浮かし、そのまま転移門を通れる状態だ。
「順番に通って……」
と言っても、俺が通らないと通らないんだよな。
先頭で転移門をくぐると、仲間達が迎えてくれる。
「「「「「おかえり」」」」」
「ただいま。コア、どうぞ」
転移門から離れて、コアが戻ってくるのを待つ。
コアと同時に魔物が現れると、皆興味津々で魔物を取り囲んだ。
「あっ小鬼達が来たな」
いつも思うけど、狩った魔物がいる気配を察知するのが早いよな。
「真っ青な毛! これは、最高です!」
小鬼達の1体が、真っ青な毛を見て興奮し始めた。
あれは4体目の子だな。
あの子は、皮を使った小物づくりに嵌っている。
おそらくこの色の皮も、上手に使ってくれるだろう。
小鬼達に、担がれ移動する魔物を見送る。
あっ、小鬼の後を一つ目達が追っていった。
あれはきっと肉が目的だな。
今日の夕飯は、うまいか、不味いか。
……うまいといいなぁ。