作品タイトル不明
34.……これは?
―オアジュ魔神の子供 魔族オアイス視点―
魔界の洞窟と思えないほど生活感に溢れた部屋の中に入り、足を止めた。
視線の先には「おめでとう! 魔珠宝・祝安定!」と書かれた大きな布。
そして、部屋の中央に置かれたテーブルには沢山の食べ物。
「オアイス、これは?」
恋人であるマイスが戸惑った表情で俺を見るが、俺も戸惑っているので何も言えない。
今までも色々戸惑う事があったけど、これは……なんなんだ?
少し前から、父であるオアジュ魔神が変わった。
何が変わったのかと聞かれると少し困るのだが、とにかく何かが変わった。
その事に、オアジュ魔神の子供である俺は「とうとうその時が来た」と思った。
魔界は強くなければ、子供でも簡単に殺す場所だ。
そして俺も含め、子供全員が魔族だ。
魔神の父からすれば、弱すぎる存在だと言える。
そのため俺は、いつか父に殺されるのだと思っていた。
だから、父が変わった時に「排除される」のだと覚悟した。
でも、違った。
父は、俺達を殺すのではなく生きられる場所を探してくれていた。
俺は、魔族の中でも弱い存在だ。
そのため、魔神や強い魔族からは遊びで狩られる存在と言える。
多くの兄や姉、弟や妹は狩られていなくなった。
その時の父は、興味なさそうにただ傍観していた。
だから、父を変えた「もの」に興味があった。
とはいえ、それを魔神である父に聞くなど出来なかったが。
父を変えた「もの」について教えてくれたのは、母だった。
そしてその話を聞いて、俺は衝撃を受けた。
きっと兄弟達も同じだっただろう。
だってまさか、魔神である父が神々の作った者と親交を持っているなど考えた事も無かったから。
しかも、その者が管理する世界に家族全員で移動しようとしているなんて。
「正気ですか?」
話を聞いて俺の第一声はこれだ。
母は笑って頷いたが、それでも信じられなかった。
でも、父は本気だった。
なぜなら、子供達を集め「一緒に来るか?」と尋ねたから。
まさか弱い立場の俺達に命令ではなく、尋ねるなんて。
初めて父が、本当に変わったのだと実感した。
そして、俺はどうすればいいのか迷った。
俺の恋人は、かつては俺と同じぐらいの力を持っていた。
だが、彼女の父が彼女を襲った。
そして背中に大きな傷を負ってから、変わってしまった。
最初は、すぐに傷は癒えると思った。
でも、背中に出来た大きな傷はいつまでたっても癒えず、今も彼女を苦しめ続けている。
剣で切られた傷が、なぜ今も癒えないのかは不明。
ただ、その傷のせいで力が安定せず、彼女は最弱と言われる存在になってしまった。
力が安定しない彼女は、魔界ではすぐに殺されてしまう立場だ。
傷が癒えないと分かった時、俺も彼女を捨てようと思った。
でも、なぜか「それは違う」と感じた。
なぜ、あの時にそんな事を思ったのか分からない。
それまでの俺だったら、自分を守るために弱くなった彼女を見捨てたはずだ。
でも、その手を離せなかった。
自分の行動に戸惑っている間に、世界は大きく変化した。
詳しくは分からないが、魔界と神々の世界の他にもう1つ新たな世界が誕生したらしい。
そして、その新しい世界の王は、父を変えた者がなったらしい。
当初は、新しい世界がもう少し安定してから、皆で移動するはずだった。
だが、ある魔神が母の娘であるカーシャに目を付けてしまった。
だから父と母は慌ててカーシャを連れて、新しい世界に向かった。
残された俺達は、隠れながら移動する準備をする事になった。
後は魔珠宝だけとなった時、問題が起こった。
魔界を統治していた魔界王が弱くなったため、あちこちで争いが起こったのだ。
そして、そのせいで魔珠宝が出来なくなり、俺達は魔界から出られなくなった。
魔珠宝が無ければ、恋人とは一緒にいられない。
でも、離れたくなかった。
だから、魔珠宝が出来るまで身を潜めて待つ事にした。
兄弟とその恋人達が集まって情報交換をしていると、不意にゴーレムが現れた。
あの時は全員が大混乱し、敵か味方かも確かめる間もなく攻撃を仕掛けてしまった。
まぁ、その攻撃は全く効かなかったけど。
攻撃が全く効かない事に唖然としていると、「こんにちは。あなた方を保護するために来た、主に命を吹き込まれたゴーレムのサブリーダーです。オアジュ魔神の子供たちとそのパートナーですよね。あっ、魔界では恋人というのだったかな? ……神国と言い方が違うと面倒ですね。うん、これからは恋人も妻も旦那も全てパートナーで纏めますね。で、オアジュ魔神の子供達とパートナーで間違いないですか?」と聞かれた。
攻撃したことを怒る事もなくただ普通に話しかけられた事に驚いて、俺は無言で頷いた。
その後は、凄い勢いで日常が変わっていった。
まず、俺達はどこに行くのかもわからない状態で移動をさせられた。
その理由は後で知ったのだが、カーシャに目を付けた魔神が俺達を探していたそうだ。
カーシャを、魔界に連れ戻すための道具として。
そして魔神の配下が、俺達の居場所を特定していたそうだ。
あと少し遅かったら、魔神に捕まっていたのかと思うと怖かった。
サブリーダー殿が、「捕まっても、助け出すので問題ないです」と言っていたが、それは無理だ。
魔神の強さを、俺は知っている。
でも、そんな風に言ってくれて嬉しかった。
サブリーダーに連れてこられたのは、オウ魔神様の家だった。
正直、オウ魔神様を前に意識を失いかけた。
オウ魔神様は、なぜか机に突っ伏していたが。
その理由は、今も分からない。
それから、オウ魔神様も交えて話し合いが行われた。
いや、話し合いというよりただ決まった事をサブリーダー殿から聞いただけだったような気がする。
まぁ色々あって、オウ魔神様が見つけてくれた洞窟で身を隠す事になった。
真っ暗な冷たい洞窟。
魔界が落ち着くまで、何年かかるか分からない。
でも、何年かかろうとこの洞窟に身を隠すのだと覚悟した。
が、翌日からそんな気持ちは吹っ飛んだ。
サブリーダー殿が次から次へと、いろいろと持って来るのだ。
まずは、洞窟の見た目が気にいらないと、どこからか大量の木を持って来て洞窟内を改装し始めた。
翌日には冷たい岩ではなく、床の上での生活が始まった。
「美味しい物を食べると幸せになる」という事で、サブリーダー殿が下げていたバッグから大量の食べ物が出て来た時は、たまたま様子を見に来ていたオウ魔神様も固まっていた。
サブリーダー殿が持って来てくれた物は、どれも美味しかった。
今まで感じた事が無い、ふわっとした温かさを感じた。
そして次にサブリーダー殿は、仲間を連れて洞窟に来た。
洞窟全体に張られた結界のお陰で、俺や兄弟たちの力は洞窟の外からは全く感じられなくなった。
そのお陰で、魔神とその配下は俺達が死んだものと判断したらしい。
でも、まだ心配だという事で紹介されたのが、アリ殿と蜘蛛殿だ。
サブリーダー殿の話ではアリ達殿はアビルフールミ。
蜘蛛達殿はアルメアレニエという種類の生き物らしい。
なぜ、「アリ」と「蜘蛛」なのか聞くと、主がそう呼ぶからだそうだ。
それでいいのかちょっと疑問に思ったが、本人達が嬉しそうだったので、良い事なんだろう。
そして彼らには、サブリーダー殿以上に驚かされた。
なぜなら、アリ達は毎日洞窟を巨大化させているし、蜘蛛達はわざわざ魔神力の暴走に突撃しに行くから。
それぞれに理由を聞いたが、アリ達は自由な行動を確保するため、蜘蛛達は努力が実っていると実感するため、らしい。
……とりあえず、洞窟生活が楽しそうで良かった。
そんな日々を過ごしたので、ある程度の事は慣れたと思った。
でもまだまだ甘かったみたいだ。
今回のこれ……俺達はどう反応したらいいのか分からない。
部屋を見回すと、色々な物で飾り付けられ今までにない雰囲気になっていた。
そして一番目立つ大きな布。
「あれは横断幕という物です」
不意に聞こえた声に、体がビクリと揺れる。
そっと隣を見ると、サブリーダーがいた。
いつも気付くといる。
「横断幕ですか?」
「はい。今日は、魔珠宝が無事にお二人に馴染んだのでお祝いです」
おいわい?
……あぁ、お祝い。
「さて、主役の2人がいないと始まりません。行きましょう」
お祝いなんて初めての事で、マイスと一緒に困ってしまう。
でも、部屋を覆う温かな雰囲気に、気持ちが落ち着いて来る。
「サブリーダー殿、俺達は何をすればいいんでしょうか?」
「簡単です。食べて遊んで楽しんだらいいんです」
それだけ?
サブリーダー殿を見ると、頷かれた。
なるほど、楽しむのか。
「オアイス、楽しもう」
「そうだな」
マイスの言葉に頷く。
この洞窟にいるのもあと少し。
今日は、楽しむことが大切みたいだから、思う存分楽しもう。