作品タイトル不明
20.ちょっと考えないとな。
「あっ、これは駄目だ」
ミスリルを使用した剣で魔物を切ったが、もの凄く後悔した。
原因は、目の前の血の海。
「そうだよな。こうなるのは考えればわかった事だよな」
洞窟の保管場所で見つけた、ミスリルの剣やオリハルコンの剣。
壁一面の剣を見て、テンションが上がった。
と同時に、子供の頃にしたチャンバラごっこを懐かしく感じた。
そこで終わっていればよかったんだけど、カッコいい剣を使いたくなった。
リーダーに聞けば、問題ないと言うし。
だから今回の、大量発生した魔物の討伐にミスリルの剣で参加しようと思った。
魔物を切ったらどうなるかなど、全く考えずに。
「はぁ、慣れたと思ったんだけどな」
家の周辺で行われる訓練や特訓。
体から血が流れるのは日常茶飯事。
時には、脚が無くなっていたり大やけどでただれていたり。
体の一部が抉れていたりする。
それを治療するのだが、最初の頃は正直つらかった。
でも、回数を重ねれば慣れるというもの。
今では、「はいはい、治療するよ~」という軽いノリで治療している。
だから、血や肉片には慣れたと思った。
「うわぁ。切った時の感覚が」
剣を持っていた手をグーパーと動かす。
切れ味抜群のミスリルの剣。
その剣が、魔物の肉に食い込む感覚や骨を切る感覚が手から伝わった時、もの凄い不快感に襲われた。
目の前で上がった血しぶきと魔物の体から溢れた内臓に、思わず数歩後ずさってしまった。
これまでにも、魔物を殺した事はある。
でも今までは魔法で、しかも少し遠い場所で対処していた。
しかも血を見るのが嫌だなっと、雷で感電させていた。
この世界に来た頃、魔物の解体をしたけど今日ほど不快感に襲われた事は無い。
もしかして、勇者のギフトが切れたせいだろうか?
まぁ、それは今考える事ではないか。
まだまだ魔物はいる。
参加すると言った以上は、やらないと駄目だ。
手に持っているミスリルの剣を見る。
「これは、二度と使えないな」
切った感覚が手に伝わる剣は、俺には無理だ。
ミスリルに付いた血を布で拭いて、鞘に入れる。
それを肩から下げてきたバッグに入れた。
「これで良し。さてと、気を取り直して魔法で頑張るか」
魔物の数を減らさないとな。
森を駆けると、すぐに魔物の大群に遭遇する。
その大群が近づく前に、魔法で感電させていく。
「うん、やっぱりこっちだな」
護衛に当たっているダイアウルフ達が、俺の周りを一緒に駆ける。
彼等の狩る分を残しながら次々と魔法を繰り出す。
ププ~。
魔法で大きなヘビ。
魔物の名前を忘れてしまったが、食べたらうまいヘビを感電させた直後に気の抜けた音が森に響いた。
これは討伐終了の合図。
森の中から魔物が全ていなくなっては駄目なので、リーダーとサブリーダーが監視していた。
そして、魔物の数が適度になったら、終わりの合図を送る事になっていたのだ。
「終わった~」
近くにいるダイアウルフ達を見る。
全身血まみれで喜んでいる。
思いっきり狩りが出来て嬉しいんだろう。
「剣を使い続けると、全身血まみれになるんだろうな」
早々に魔法に切り替えて正解だったな。
まぁ、あの1回で俺のズボンには魔物の血がべっとり付いているけど。
二度と、かっこいいという理由で武器は使わない。
「クリーン」
ズボンに付いていた魔物の血が、スーッと消える。
森で着いた木々の汚れや土汚れも。
「……お風呂に入りたいな」
見た目は綺麗になった。
でも、なんとなくお風呂で全身を洗いたい。
「主、どうしますか?」
ダイアウルフの1匹が、俺の傍に来る。
討伐した魔物は、親蜘蛛達や親アリ達が既に移動を始めているので、問題なし。
森にいる魔物達の様子は、ウッズが確認する。
俺がここで出来る事は、無い。
「帰ろうか。それとも、どこかに寄りたいか?」
俺の言葉に首を横に振るダイアウルフ。
まだ血まみれだ。
「体の傷を治さないのか?」
血まみれでいるわけでもあるのか?
「いえ、その……」
んっ。
恥ずかしがっているみたいだけど、どうしたんだ?
「力をかなり使ってしまって……ヒール魔法を発動する力が残っていないんです」
ヒール魔法には、それほど多くの力は必要ないんだけど。
「そうなのか? そんなに力が減っているなら、つらいんじゃないか?」
俺の言葉に、頷くダイアウルフ。
んっ?
血まみれのダイアウルフが2匹。
残りの1匹は、大丈夫みたいだな。
「帰るための力はあるのか?」
血まみれの2匹を見る。
「「……」」
残っていないんだな。
俺のようにすぐに力が戻ってくるわけでは無いから、どうしようかな?
力が戻るまで、オアジュ魔神に預けようかな。
「どれくらいで力は戻ってくるんだ?」
俺は光の魔力が主だった時もすぐに戻ったから、普通はどれくらいの日数が必要なのか分からないんだよな。
今の混ざった力になってからは、空っぽになるほど使っていないし。
魔神力だけを使いきった事はあるけど、他の力で体の維持は出来るし魔法も使える。
そもそも数秒後には、魔神力も溜まり始めていた。
「この状態だと1週間ぐらいは掛かります」
「えっ、そんなに?」
「……はい」
あれ?
2匹とも、凄く落ち込んだ?
「主、彼等の失敗なので気にする事は無いです。先輩たちに、逃げる力と移動する力は残して戦う事と教えられているのに。忘れるなんて」
全身が綺麗になったダイアウルフが仲間の2匹を睨む。
あぁ、2匹が縮こまっている。
「逃げる力と移動する力か」
確かに、俺のようにすぐ力が戻って来るなら大丈夫だけど、1週間も掛かるのなら考えないと駄目だよな。
「気を付けないとな」
「「クゥ~ン」」
ははっ、凄い情けない表情だな。
それにしても、どうするかな?
そういえば、龍達がおかしな姿だったのは、体を維持するだけの魔力が無かったからだよな。
で、俺の周りにいたら、俺から溢れる魔力で想像以上の速さで元に戻れたと聞いた。
「俺の傍にいれば、力はもっと早く戻るんじゃないか?」
「「えっ!」」
「なっ!」
嬉しそうな2匹に、驚いた表情で俺を見る1匹。
そんなに驚くような事を言っただろうか?
「駄目だ!」
あれ?
「チャイ? どうしたんだ?」
チャイは、コアと一緒に俺の家がある森で、討伐に参加していたはずだ。
どうして新しい森にいるんだ?
「戻りが遅いので、様子を見に来たんだ。主、彼等はこちらで対応するから、大丈夫だ」
「そうか?」
2匹がものすごくビビっているけど、大丈夫か?
まぁ、種によっていろいろ決まりがあるみたいだから、俺が口出す事ではないか。
「良かったな。お前たちのリーダーが対応してくれるって」
俺の言葉に、項垂れた2匹。
その様子に苦笑する。
チャイは、何かやる気になっている。
「チャイ。今日はみんな頑張ったんだから、休ませるように。明日も」
「分かった」
チャイは血まみれのダイアウルフの首を噛むと、ぐんと放り投げる。
「えっ?」
慌てて、放り投げた方を見ると親蜘蛛さんが前脚でキャッチ。
そのまま糸でくるくると巻くと自分の体に固定した。
もう1匹もチャイによって放り投げられ、糸で親蜘蛛さんの体に固定された。
まぁ、安全に運ぶならこれが一番だな。
「帰ろうか」
親蜘蛛さんの上で情けない声で鳴く2匹に苦笑しながら、チャイ達に声を掛ける。
「「「「「はい」」」」」
んっ?
返事の数が多くないか?
あっ、いつの間にか新しい森で頑張っていた仲間達が集まっていたのか。
「みんな、お疲れ様。帰るぞ~」
ふわりと体を浮かせ、家の方へ飛ぶ。
それぞれが、得意の方法で家に向かう。
「あっ、さっきの2匹以外にも親蜘蛛さんに運ばれている子達がいる」
どうやら、はしゃぎ過ぎた子達がそれなりの数いたみたいだな。
明日はゆっくり休むように言ってあげよう。
その次からは、それぞれの訓練を頑張れ!