作品タイトル不明
06.異なる魔神力
結界の出来がたぶんではちょっと不安だったので、力の流れを見て確かめる。
空間を覆うように2つの力が感じられる。
うん、大丈夫。
「えっと、次は……」
この空間に、魔神力を溜めればいいんだよな。
あれ?
そういえば、俺の中の魔神力はどれくらいあるんだろう?
この空間に溜めればいいと思ったけど、溜めるほどあるのか?
「主、どうかしましたか?」
リーダーを見ると、どこからか小さなバッグを取り出していた。
そのバッグを不思議に思いながら、肩を竦める。
「いや。この空間を満たすほど、俺の中に魔神力があるのか分からない事に気付いたんだ」
俺の言葉に、驚いた表情をするオアジュ魔神。
「出来ると確信しているわけでは無いのか?」
ん?
「確信なんてあるわけないだろう。だから試してみると言ったんだ」
「あっ、そうだったな。でも、態度に迷いが無かったからある程度の勝算はあるのだと思っていた」
「ははっ。全くないな」
今まで、勝算を考えて行動したことは無い。
いつも思い付きで行動している。
そういえば、この性格だけは勇者ギフトの効果が切れても、元に戻らなかったな。
そのお陰で助かっているけど。
「まぁ、とりあえず魔神力を溜めてみるか。今日だけで無理なら数日かけて溜めればいいし」
そうだよな。
別に今日中に結果を求める必要はない。
というか、すぐに魔珠宝が作られる可能性は少ないだろうし。
「主、こちらをお使いください」
リーダーが、バッグから魔石を1つ取り出す。
その魔石を受け取って、首を傾げる。
手に持って分かったが、表面が凸凹している。
いつもの魔石はつるつるなのに。
「これ表面に何かしてあるけど、なんなんだ?」
「それは力を倍増させる術式を刻んだ、空の魔石です」
……えっ?
力を倍増させる術式?
術式とは何だろう?
「術式とは、魔導師達が使う物の1つです。それを魔石の表面に刻みました」
魔石の表面に刻まれているから、凸凹なんだ。
……駄目だ。
細かすぎて何が刻まれているのか、全く見えない。
「でもどうして、力を倍増させる魔石なんて作ったんだ? あれ? 魔石は元々力を増やしてくれる物だよな?」
「そうです。魔石は魔法の威力を強めてくれる物です。でも、そのままでは最大2倍ほどしか強化されません。我々はもっと力を増やす物が欲しかったので、研究をしています」
力を増やす物なんて、必要なんだろうか?
「神が襲ってきた時に、我々の力では主を手助けする事が出来ませんでした。その原因は、力が足りなかったからです。なので、次に何か起こった時には、手助け出来るように我々の力を数十倍に増やせる魔石を作る予定です」
俺の為なのか。
確かに、あの時は俺も力が足りなかったよな。
あと少し力があれば、もっと簡単にあの神を排除出来たはずだ。
「なるほどね。力を増やす魔石か」
あれ?
どうしてオアジュ魔神の顔色が悪くなっているんだ?
「オアジュ魔神、結界に不備でもあったのか?」
結界の不備で臭いを感じるんだろうか?
「いや、結界は大丈夫だ。その力を増やす魔石は既にあるのか?」
「いえ、今はまだ6倍ほどにする魔石が限界です。それに、30分ほどすると割れてしまうのでまだまだ研究が必要です」
「そ、そうか。凄い物を作ろうとしているな」
凄い物?
「そうなのか?」
「当たり前だろう! 自分の力を10倍以上に増やせるなんて事になれば、愚かな事を考える者も出て来るはずだ」
あぁ、確かに。
神の世界も、魔神の世界も力の強さで全てが決まるみたいだからな。
「リーダー。その魔石の管理は徹底してくれ。何があっても、神や魔神の手に渡らないように」
研究を止める方が良いのかもしれないが、神のこれまでの行動を考えると……必要な物に感じるんだよな。
また襲って来ないとも限らないし。
「分かりました。手にした者の使い方によっては、世界を揺るがす事になりそうですからね。特に神が手にした場合は」
「はははっ」
どうやらリーダーは、神をまだ許していないみたいだな。
もしかしたら、他のゴーレム達も同じ気持ちなのかな?
まぁ、そう思われてもしょうがない事をしたからな。
皆の気持ちが落ち着くまで、俺も神の事に関わらないほうがよさそうだな。
……いや、神の面倒ごとに関わるつもりは全くないけどな。
「主、この魔石は恐らく5倍ほどに力を増やしてくれるはずです」
「分かった。ところで、この魔石の使い方は?」
「魔石に、魔神力を溜めて下さるだけで大丈夫です」
魔石に魔神力を込めればいいのか。
「了解」
魔石を左手に持って魔神力のみを魔石に流していく。
力を分けて使った事はないので心配だったけど、思ったより簡単に魔神力だけを取り出せたな。
「魔石の色が変わってきたな」
灰色に濁っていた魔石が、魔神力を溜めていくとどんどん濃い青色に変わっていく。
しばらく溜めると、魔石が掌から離れ空中に浮かんだ。
空中に浮かんだ魔石は、くるくると回り出す。
「リーダー、まだ力を溜めた方が良いのか?」
「はい。出来るだけ多くの魔神力を、魔石に溜めて下さい」
魔石に溜める力は、多い方が良いという事か。
まぁ、元の力が多い方が5倍にした時の結果が変わってくるからな。
それにしても、魔神力がどんどんと溢れてくる。
これには俺も、ちょっと驚いたな。
すぐに枯渇すると思ったのに。
「主、大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫」
魔神力を魔石に溜めだして、おそらく20分ぐらいか?
その間、ずっと魔神力を魔石に溜めているけど特に体調の変化は感じない。
ただ、何か少しずつ……なんだろう。
何かを感じるんだけど、正体が掴めない。
「あっ、切れた」
体内に感じていた魔神力を、不意に感じなくなった。
どうやら、完全に使いきってしまったみたいだ。
その瞬間、全身に微かな重みを感じた。
魔神力が、無くなったからか?
「大丈夫か?」
オアジュ魔神が焦った様子で聞いてくる。
それに頷く。
「大丈夫だ」
「本当に? 魔神や魔族だと魔神力が無くなると、死ぬんだが」
「俺には魔神力以外の力もあるから、死ぬ事は無いんだろう」
あっ、魔神力が戻って来た。
という事は、魔神力も他の力と同じようにすぐに溜まりだすのか。
ちょっとだけ、他の力より元に戻り出す時間が長かったような気もするけど、使い切っても問題なさそうだな。
「うまく動きだしました」
リーダーの言葉に魔石を見ると、空中でくるくる回っていた魔石から魔神力が溢れ出していた。
溢れ出した魔神力が、上空に溜まっていくのを肌で感じる。
ジッと上空を見る。
魔神力が溜まっていくのは分かるが、黒く淀んだ空気とは異なり、どこか空気が綺麗になっているような気がする。
この洞窟に入って感じた臭い。
それ以外にも、ほんの少し肌を刺すような刺激があった。
でもその刺激が、魔神力が溜まっていくと減っていく。
というか、刺激を感じなくなってしまった。
「もしかして」
この空間に充満していた臭いも消えていたりして……。
「臭いの結界解除」
やっぱり、臭いはするが薄くなっている。
魔界の魔神力と、この世界の魔神力は完全に異なる物みたいだな。
「どうしたんだ? 臭いは、大丈夫なのか?」
オアジュ魔神とリーダーの臭いの結界を解除する。
「あれ? 臭いがほとんど消えたのか?」
「そうなんだよ」
オアジュ魔神が首を傾げるが、ハッとして俺を見る。
「魔神力が魔界の物とは全く違うからか」
オアジュ魔神の言葉に頷くと、彼が苦笑した。
「考えれば当たり前だな。この世界の魔神力は、不安を煽ったりはしないもんな」
その通り。
でもまさか、空気を綺麗にしてしまうとは思わなかった。
「どうしようか?」
魔珠宝を作るのは、いいアイデアだと思うんだけどな。