作品タイトル不明
90.変化。
朝の日課になった魔石に力を注ぐために、地下神殿の地下1階の部屋に入る。
「おぉ、凄いな」
部屋全体のリフォームはまだだが、魔石と魔幸石の置く場所は出来上がったと聞いた。
なので、ちょっとワクワクしてきたのだが、想像以上の物が出来上がっている。
「木で台座を作ったのか。彫刻も細かいな。これは……花? もしかして、蓮の花かな?」
あれ?
この台座、どこかで見たような気がするけど……どこで、だったかな?
ん~、すぐに思い出せないという事は、この世界じゃないのかも。
前の世界で……あっ、お釈迦様が載っている八角台座に似ているんだ。
見た事あるはずだよ。
「本当に見事だな」
彫刻で彫られた蓮の花が、どこか懐かしいな。
……って、思いを馳せている場合ではないな。
今日の魔力を補充しないと。
「ロープ。おはよう」
……あれ?
いないのかな?
そう言えば、用事があると言っていたな。
残念。
台座の感想を聞きたかったんだけど、また今度か。
よしっ。
魔力の補充を始めるか。
「あっ、台座に載せたから少し魔石の位置が高くなったのか。こっちの方が魔力を送りやすいな」
これも、計算して作ってくれたのかな?
たぶん、そうなんだろうな。
魔石に手を翳し魔力を送る。
昨日から、魔力が移動すると魔石から温かな風を感じるようになった。
変化があるっていいよな。
浄化の方は全く手ごたえが無いから、ちょっとホッとするな。
いや、あの気になる音が少しずつ大きくなっているから、何かが起こっているのは確かだ。
ただし、それがいい事なのか、悪い事なのかが分からないんだよな。
もし悪い方だったら……やめ、やめ。
悪い方に考えるのは駄目。
落ち込んだり悩んだりする気持ちを引きずっていくと、呪詛が大きくなるからな。
あれは、つらい。
「よしっ、魔力も元に戻ったし、墓場に行くか」
気持ちを切り替えて、元気な声を出す。
声を出して自分を奮い立たせるのは、結構いい方法だ。
「独り言になるから、周りに誰かがいたら恥ずかしいけどな」
と言うか、独り言が治らなかった。
1年ちょっと、ずっと一人で話していたから仕方ないんだろうな。
ただ、周りに誰がいてもつい独り言を言ってしまうんだよな。
あれだけは、治したい。
ときどき、恥ずかしい事を言ってしまうから。
墓場に着くと、いつものように草原の中心に跪き手を地面に当てる。
呪詛が聞こえてくると、小さく深呼吸をして気持ちを整える。
「よしっ」
今日もやるだけの事はやる!
魔超石を手に持って、魔力を闇の中にゆっくりと流していく。
何度も、体内の魔力を空っぽにする。
「あれ?」
昨日と同じ回数、魔力を空っぽにしたけどいつものように体が重くない。
あと1回、追加で魔力を流せるような気がする。
ん~、試してみるか?
限界を超えるなんて事は……まぁ、大丈夫だろう。
無理だと思ったら、止めたらいい。
「あと1回」
慎重に魔力を流していく。
魔力が空っぽになった感覚がすると、体の限界を感じた。
いつもの感覚だ。
「浄化!」
目の前の闇が広がっている空間に光が一瞬広がる。
そして、ゆっくりゆっくり闇へと戻っていく。
「……マジ? えっ。今、ゆっくりだった」
昨日まで、光が一瞬広がるけど、闇に戻るのも一瞬だった。
なのに、今はゆっくり闇に戻った。
「うわっ、嬉しい」
ずっと不安だった。
闇から聞こえてくる呪詛に、変化があまり無かったから。
だから、自分のやっている浄化は意味がないのではないかと。
「ありがとう。変化してくれて。少しは役に立っているって事だよな。頑張って、その苦しみを少しでも減らしていくな」
地面から手を離し、限界を訴えている体を横たえる。
体は正直つらいが、気分がいい。
まだまだ、頑張れそうだ。
ぽかぽかとした暖かさと、気持ちのいい風。
この場所が墓場だとは忘れてしまいそうになるな。
「眠いな」
おかしいな、いつもは眠くなることは無いのに。
―闇の中―
ふわりと何かが触れ、そして消えて行った。
しばらくすると、またふわりと何かが触れ、そして一瞬で消えて行った。
何度も、何度も、繰り返されるそれに鬱陶しさを感じた。
だから、少し移動する。
この場所にいるから、あれが触れて来るんだ。
移動したらいい。
でも、移動したのにまたそれはふわりと触れてきた。
掴もうとするけど、掴めない。
それにイラっとした。
またしばらくすると、ふわりと触れて来る。
移動をしても、無視をしても、逃げられないそれに諦めた。
もう好きにしたらいい。
少しずつそれを待つようになってきた。
だって、気持ちがいい事を思い出したから。
触れて来るそれを掴みたい。
触れて来る度に頑張るけど、掴めない。
でも、諦めない。
だって、ここには……なんだっけ?
あぁ、また来た。
掴めないと知っているのに手を伸ばす。
あっ、掴めた。
わぁ、気持ちがいいな。
でも、すぐに消えてしまった。
残念、ずっと掴んでおくことは無理なのか。
でも、次はもっと長く掴みたいな。
それからも毎回、毎回挑戦する。
今回は、前回より少しだけ長く掴めた……ような気がする。
掴んだ何かの正体は分からない。
でも、気持ちのいいモノだから、そんな事は気にしない。
ん?
何か聞こえる。
何だっけ?
もしかして聞いたらもっと気持ちがいいかな?
聞きたいな。
あっ、これは声だ。
そうそう、声。
誰の声だろう?
あれ?
声だと分かるのに、何を言っているのか分からない。
何を言っているのか、知りたいな。
今日は気持ちがいいのが、ほんの少しだけ強い気がする。
それに……全身が気持ちいい。
そうだ、全身で感じるともっと気持ちいいんだ。
あっ、また声が聞こえる。
「……ごめん…………全てを……も、……落ち着い……ら」
えっ、もしかして分かった?
まだまだ分からない部分が多いけど、分かる部分があった!
「ごめん」か。
あれ?
……どんな意味だったかな?
ん~?
何かとても大切な言葉だった気がする。
ずっと求めていたような。
えっ、嫌な気配を感じる。
いつもは気持ちがいい気配しかしないのに。
きらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらい。
くるしいくるしいくるしいくるしいくるしい。
こわすこわすこわすこわすこわすこわすこわす。
そうだ!
全部壊しちゃう!
ふわりと流れる気持ちのいいモノをとっさに掴む。
あれ?
昨日より今日の方が気持ちいいのが増えている。
それに、掴む時間がいつもより長い。
うん、気持ちがいい。
「……。……いや、…………。きっと……を苦しみから…………から」
また声だ。
今回は「くるしみ」がよく聞こえた。
くるしい……くるしい?
大丈夫。
だって、気持ちがいいのが来てくれるから。
「また、ちょうだい」
ん?
なんだか久々に話したような気がするな。
前に話したのは?
……ずっと、ずっと昔だったような気がする。
あれはいつだったかな?
もう本当にずっと昔。
あれは……なんだっけ?
あっ、きた。
ん~、もっと近くでこの気持ちのいいのを感じたいな。
移動は……出来るのに、気持ちがいい方には行けない。
どうして?
行きたいな。
近付きたいな。
……邪魔をするな!
ん?
少し暗いモノが増えたかな?
まぁ、どうでもいいや。
あっ、駄目だ。
俺は、すぐ消えてしまうけど気持ちがいい方が良い。
あっちに近付きたい。
どうして、気持ちがいい方には近付けないんだろう?
あぁ、何かが体に絡みついているんだ。
これ、いらない。
いらない。
いらない。
あれ?
体が消えた?
あ゛ぁぁぁぁ。
くるしいくるしいくるしいくるしいこわれるこわれるこわれる。
あぁ、あの気持ちいいのを感じたいな。