作品タイトル不明
89.離れません!
3国の交流は成功に終わったと言っていいのだろう。
最後はいつも通り、大量の酒が振る舞われどんちゃん騒ぎだったが。
途中、神や魔神の姿があったような気がするが、まぁいつもの事なので気にしない事にした。
彼らを初めて見た獣人達が叫ぼうが、数人の人が驚き過ぎて意識を失おうが、エルフ達が祈り出そうが……いや、これはビックリした。
まさか彼らが祈りの対象だとは。
「あっ、神と魔神だった」
と思い出した事を言ってしまったら、俺に向かっても祈りだした。
なので、そこからは退避した。
いや、祈りの対象とか無理。
守る存在なんだと認識したけど、そこまでは無理。
翌日は、ヒールの魔法が使える一つ目や農業隊が走り回っていた。
彼らのお陰で、各国の王と側近、
そして護衛の騎士達は元気に自分達の国に帰っていった。
本当、無事に終わって良かった。
そう言えば、離れで生活している獣人達はオアジュ魔神とかなり仲良くなったようだ。
教師のノミスと騎士のキミールが、オアジュ魔神と肩を組んで飲んでいた。
仲良くなることはいい事だ。
全てが終って、ゆっくりお茶を飲んでいた。
はずなんだけど、目の前で泣いている獣人はなんなんだろう?
「おねがいじまずぅ」
正座をして涙を流し、お願いされている状態に首を傾げる。
彼を連れて来た、親蜘蛛さんを見る。
視線が合うと、親蜘蛛さんも困った様子を見せた。
もしかしたら、この調子でここに来たいと迫られたのかもしれない。
たぶん、いやきっとそうだろう。
想像がついてしまった。
「えっと、あなたは?」
俺の言葉にパッと嬉しそうな表情を見せる獣人。
いや、まだお願いを聞くとは言ってないからな。
「ずびっ。私はエントール国の上位魔術師アマガールと言います」
エントール国の上位魔術師なんだ。
ところで、俺を見てないで一つ目のリーダーから紙を受け取って鼻水を拭いてほしいんだが。
えっ、リーダーも鼻水も無視ですか?
あっ、リーダーが拭いてあげた。
アマガール、それでいいのか?
「あっ、失礼しました。あの、森の神にお願いがあります。私をここに置いて下さい。そして魔石の研究を続けさせて下さい」
魔石?
エントール国に渡した魔石は、俺が力を込めた魔石だよな。
国から許可をもらって、好きなように研究をしたらいいのでは?
なぜ、俺に許可を求めるんだ?
「魔石が森の神の物だという事は知っています。ですが、ずっと見守って来ました。最近では、私の声に反応を返してくれたんです。なので、お願いします」
俺の物?
それに、声に反応?
「アマガール。どの魔石の話をしているんだ?」
「エンペラス国より移動された魔石の事です!」
エンペラス国?
あれ?
彼は、エントール国の魔術師だと言ったよな?
「だめでじょうか? あれが、わたじの生きがいでして」
あぁ、また泣き出した。
「アマガール魔術師、ここで何をしているんですか!」
叫び声に視線を向けると。ダダビスが慌てた表情でこちらに走って来た。
俺の傍に来ると、俺に向かって深々と頭を下げる。
「申し訳ありません。彼は我々の国の上位魔術師です。彼はその魔石に目が無いと言いますか。魔石を目の前にすると理性を失い気狂いになると言いますか。えっと、とにかく魔石を見ると我を忘れるんです!」
なるほど。
酷い言われようだけど、納得できるような気がする。
で、ダダビスの様子から、アマガールはエントール国の魔術師で間違いないな。
「エントール国のアマガールが、なぜエンペラス国に置いてあった魔石と関わっているんだ?」
「研究を続けさせてくれ」と彼は言ったよな。
つまり、ロープの事を研究していたという事になる。
アマガールは、魔幸石について何か知ったのだろうか?
「それは、エンペラス国の王からの依頼でした。魔石の変化を調査してほしいと」
変化?
まぁ、それよりロープがアマガールを知っているのか確かめないと駄目だな。
『ロープ。周りにばれないように答えてくれ』
すぐに反応してくれるかな?
『主? どうしたの?』
あれ?
ロープの声に、いつもの元気が無いな。
『疲れているのか? 大丈夫か?』
『大丈夫だよ。ちょっと色々やっていて、忙しかっただけ』
色々?
何をしているんだろう?
『そうなんだ。急に呼んで悪かった。今は大丈夫か?』
気になるけど、まずはここに呼んだ原因を確かめよう。
『大丈夫だよ。それでどうしたの?』
『ロープを研究したいと、エントール国の上位魔術師アマガールが来ているけど、知っているか?』
『あぁ、彼か。彼は面白い獣人だよ。俺の反応1つ1つに過剰に反応して踊っていた』
踊っていた?
『他にも泣いたり、叫んだり。かなり変な人だったけど、悪意は無かったし傷つけるような事もしてこなかったよ』
なるほど。
本当に魔石の気狂いって感じなのか。
アマガールを見ると、期待を込めた目で見られている事に気付く。
凄く、居心地が悪いな。
『彼がロープの研究を続けたいらしいけど、問題はあるかな?』
『無いよ。研究しても何も分からないだろうから』
『そうなんだ』
何も分からないのか。
それなら研究を続けてもらっても……。
結果が分かっているのに、「どうぞ」と言うのもどうなんだ?
もの凄く性格が悪くなった気がする。
「あ~、あの魔石を研究しても、きっと何も分からないと思うぞ」
「駄目ですか?」
あぁ、落ち込んでいる。
アマガールって、俺が見てきた獣人の中で一番年齢が高いんだよな。
お爺ちゃんに落ち込まれると、ちょっと罪悪感が。
でも、無駄だと知って許可するのも、違う気がするし。
「何も分からなくてもいいんです。ただ、魔石に関われるのなら」
「そうなのか?」
「はい」
魔石と関われればいいのか。
それなら、いいか。
「分かった。あっ、ロープを置いてある場所にはもう1つ魔石があるんだった」
「ロープ?」
「魔石の名前だよ」
「な、名前がついていたのですか! それは素晴らしい。それにもう1つの魔石?」
凄いな、一気にテンションが上がった。
しかも、前のめりになっていて、ちょっと怖いな。
『主。アマガールに話が出来る事を言ってもいいかな?』
『ロープが良いと判断したならいいぞ』
俺より正しい判断が出来るだろうからな。
『ありがとう。それじゃあ、声を掛けてみますね』
『驚かない様に、俺から説明しておくよ』
『お願いします』
「アマガール」
「はい」
うわっ、凄い笑顔だな。
ん?
ダダビスがアマガールの肩を押さえ込んでいる様に見えるんだけど、見間違いか?
「アマガール魔術師、落ち着いて下さい。興奮して走り回ったりしないで下さいね」
ダダビスの言葉に、アマガールを見つめてしまう。
大丈夫なのか?
「えっと、落ち着いて聞いてくれ」
これを言ったら、もっとテンションが上がるのでは?
でも、急に声が掛けられたら驚くよな?
「落ち着け」
「分かりました」
心配しかないな。
「ロープには、意思があって話が出来るんだ。それでロープから、アマガールに話しかけるから驚かないように……」
あ~、天に向かって祈りだしてしまった。
昨日から、祈るポーズをよく見るな。
ん?
俺に向かって祈るな!