作品タイトル不明
88.第1位の神
―監視者 第1位の神視点―
創造神から送られてきた報告石に神力を流し、内容を読み取る。
それには、私のために動いていた神が創造神によって消された事が記録されていた。
「くそっ」
手に持っていた報告石が、私の力に負けて粉々になる。
あまりに力を入れ過ぎたのか、粉々になるだけでなく一瞬で灰になった。
だが、そんな事ではこの怒りは抑えられない。
どうして、私の邪魔をするんだ!
「あの世界さえ、ちゃんと処分が出来ていたらこんな事にはならなかったのに!」
魂力を使った実験が失敗だと気付いた時、あの世界も見習い達も処分しようとした。
だが、見習い達が本物の魔幸石を使っている事に気付いて、唖然とした。
魔幸石の力は未知数だ。
もしもの事を考えれば、簡単に処分は出来なかった。
でも、あの世界をあのままにしておくわけにはいかない。
だから、魔幸石を移動させようと考えた。
魔幸石さえなければ、あの世界をすぐに処分できる。
だが、取り戻す前にあちら側の神にあの星の存在を知られてしまった。
もっと早く行動を起こしていれば、後悔せずに済んだのに。
「やはり見習いなど使わずに、神の1柱か2柱を使っておけばよかった」
「言葉には、ご注意を! 今は創造神の目がどこにあるか分かりません。あちら側は、この機会に色々変化をさせたいと思っております。今は、冷静になり時を待つときです」
部下の言葉に、ドンと机を叩く。
「分かっている」
そんな事は、誰よりもこの私が分かっている!
今、ミスを犯せば全てを失うことぐらい。
前の創造神の時は楽だった。
私が何をしても、信じ切った創造神は私を疑う事すらしなかった。
だから発覚した問題の解決に、邪魔な神の仕業に見せかけるのも簡単だった。
しかも私が解決した事にしたので、創造神からの評価が上がり続けた。
本当に面白いぐらい、全てが順調だった。
だから油断してしまったのだ。
まさか創造神が代わってしまうなんて、予想もしていなかった。
しかも替わった原因が、私が使ってやった見習いどものせいだなんて。
「あいつらのせいだ」
全てが狂いだしたのは、見習い達が私の指示に逆らい勇者召喚を行ってからだ。
召喚で来た者は、全員が狂っていくと説明してやったのに。
「まさか、あれほど馬鹿だったなんて」
力がある程度あって扱いやすい者を選んだが、もう少し賢い奴を選ぶべきだったな。
「ですが、なぜあの召喚した者は狂わなかったのでしょうか?」
部下の言葉に、あの世界に落ちた者を思い出す。
顔は知らない。
どんなに探っても、奴の情報は出てこなかった。
ただ、「普通」に生活をしているという事だけは掴んだ。
召喚した者が「普通」に生きている事に驚いた。
なぜなら、ある実験以降は召喚する力に関係なく、召喚した者はすぐに狂ってしまうからだ。
「分からない。何が奴を『正常』にさせたのか」
私は、魔神を殺す道具として勇者が使えると思った。
召喚すれば幾らでも勇者は作り出せるし、失敗しても神に実害は出ない。
だが今の勇者達の強さでは、魔神にかすり傷すら負わせられない。
だから、ひたすら勇者の力を上げる方法を探した。
そして見つけたのが、世界を利用する方法だ。
世界には無数の魂がある。
それだけ魂力があるという事だ。
その力を勇者が全て受け止められれば、どれだけの力となるか。
そして、長い研究を経てその実験は成功した。
実際に世界を利用したのは、その実験だけだ。
さすがに世界がどんどん消えれば、創造神に不信感を持たれるからな。
成功した勇者には、驚くほどの力が宿っていた。
これで魔神を一掃できると、歓喜に震えた。
だが、利用した世界があった場所に「何か」が生まれた。
それが何だったのか、いまだにわかっていない。
ただ、その「何か」に全てが飲み込まれてしまった。
成功体の勇者さえも。
そして、その時から召喚は全て失敗するようになった。
召喚する力を変えて行っても、召喚した者は数日、場合によっては数分後には狂ってしまうのだ。
まさか召喚自体に影響を及ぼしてしまうなんて、思いもしなかった。
しかもそのせいで、私の実験は諦めるしかなかったのだから。
あれが成功していたら、魔神が消えた「綺麗な世界」が作れたのに。
「奴の情報は、やはり掴めないか?」
「はい。おそらく創造神が拒否しているのだと思います」
部下の言葉にため息が出る。
創造神の力は厄介だ。
創造神が開示を拒否した情報を、神が掴む事は出来ない。
つまり、奴の情報を見せないと創造神が判断したため、どんな手を使っても情報が出てこないのだ。
「しかしフィオ神が動くとはな」
創造神が情報の開示を拒否したのは、フィオ神の働きかけだろう。
「はい。全くノーマークでした。アイオン神は、かなり注意していたのですが」
フィオ神は面倒事を嫌い、いつも数歩離れた所から見ているだけだった。
だから今まで奴を気にした事は無かった。
実力はあるが、ただそれだけ。
敵でもないし、味方でもない。
気にするだけ、時間の無駄になる神。
私の中で、そう判断していた。
なのに、今回の事では率先して動いている。
「予想外の事が多すぎるな」
こちら側の神が少しずつ、削られている。
証拠を上手く処理できなかった神達だから、いずれ切り捨てたと思う。
でも、それは今ではない。
まだ、奴らは使い道があったのだから。
何か手を打たないと。
これ以上、アイオン神達に好き勝手される訳にはいかない。
「失礼します」
慌てた様子で部屋に入ってくる部下に、眉間に皺が寄る。
こいつは、入室の許可を取らずに入って来たのか?
部屋にいた部下が慌てているのが分かる。
だが、そんな事はどうでもいい。
私を疎かに扱う者を許すつもりは無い!
「貴様――」
「申し訳ありません。オルティアス神達の記憶装置に覗かれた痕跡が見つかったとの報告が届いたため、気が動転してしまいました。本当に申し訳ありません」
土下座をする部下の言葉に、息を吞む。
今、こいつは何と言った?
記憶装置に覗かれた痕跡だと?
「オルティアス神以外は、誰の記憶装置に痕跡が残っていたんだ?」
声が、少し震えているのが自分でも分かった。
「ディスカル神、ワピキュア神の記憶装置からも痕跡を確認できたそうです。3柱とも、痕跡を詳しく調べていますが、かなり慎重に消されているようで、痕跡から追う事は出来ないそうです」
上がった神達の名前に、視界がぐらりと揺れた気がした。
オルティアス神、ディスカル神、ワピキュア神は、私が支える神達だ。
そんな彼らが狙われた。
彼らの記憶装置には、見られては不味い物が多数ある。
誰が、覗いたのだ?
「覗いた者が誰か分かっているのか?」
「いえ、痕跡からは相手の情報が一切見つからなかったようです」
おかしい。
創造神でも、記憶装置に触れれば必ず痕跡が残るし持ち主に知らせが来る。
これは絶対だ。
創造神ですら自由に出来ないのが、神達が管理する記憶装置だ。
「ディスカル神をすぐに呼べ」
まずは詳しい話を聞かなければ。
「あっ、バシュリ神に連絡を取り、記憶装置を確認するように言え」
彼は裏の協力者。
私の事を全て知っていると言っていい。
オルティアス神、ディスカル神、ワピキュア神も私の大切な仲間だが、換えはいる。
だが、バシュリ神は違う。
彼の代りはいない。
「分かりました」
部下が部屋から出ていくのを見送る。
「どこまで覗かれたかが、問題だな」
3柱の記憶装置には、私が関わった実験の情報もあるはずだ。
それらの情報が、見つかっていないといいが。
もし、見つかっていた場合は、誰であろうと始末しなければ。