作品タイトル不明
87.呪文と道具。
やっぱり俺は、全く必要ないな。
と言うか、さすが国を導いて来た人達だよ。
どんどん話が進んでいく。
まぁ、主に交流をどうするかという話し合いみたいだけど。
それにしても、魔術師と魔導師がいるんだな。
初めて知った。
魔術師は高い知識と技能で魔法を使用する者達で、魔導師は呪文を唱えたり道具を必要としたりする者達らしい。
魔法を使うのに呪文や道具か。
……俺も魔法を使う時に「浄化」と口に出しているよな。
あれも、呪文になるのか?
「何か悩み事ですか?」
えっ?
不思議そうに俺を見るリーダー。
そんなに分かりやすい表情をしていたのだろうか?
まぁ、いいや聞いてみよう。
「魔法を発動させる呪文が気になったんだ」
「呪文ですか? 確か『風よ、我にその力を授けたまえ。我は命ずる。風よ、嵐となって吹け』と言うのを聞いた事があります。そのあと、そこそこの風が吹いていました」
本当に呪文だ。
しかも、ちょっと恥ずかしい感じだ。
「そこそこの風ってどれくらいなんだ?」
嵐の魔法でそこそこの風?
「木々が大きく揺れる程度です」
なるほど、そこそこの風か。
「僕も知っているよ」
ん?
頭上に視線を向けると、糸にぶら下がっている子蜘蛛の姿があった。
「どんな呪文だったんだ?」
「『大地よ。我に今こそ、力を。我を襲う全ての者に死を!』って、叫んでいたよ」
えっ、「死を」と叫んでた?
誰かを殺そうとする呪文だよな。
「結果は?」
誰かが殺されたのか?
「そんな魔法は捻り潰したよ。弱っちいもん」
捻り潰した?
……つまりこの子蜘蛛に向かって魔法を使ったのか。
今の会話から、そういう事だよな。
「どうして攻撃なんてされたんだ?」
何か悪い事でもしたのか?
「捕まっている奴隷達を、保護するために動いている時だよ」
あぁ、なるほど。
悪い事ではなく、いい事をしている最中に犯罪者に攻撃されたという事か。
「大変だったな。お疲れ様」
手を伸ばして、少し離れた場所で揺れていた子蜘蛛の頭を撫でる。
「大丈夫だったよ。驚くほど弱かったから」
「そんなに、弱いんだ」
子蜘蛛の言い方に、笑ってしまう。
魔法を使うのだから、それほど弱くはないと思うのだけど。
「魔導師は魔力の少ない者が多く、魔法の威力はそれほどありません。だから、道具を使って威力をプラスするんです。まぁ、道具を使って威力を足しても、我々からすればあまり変わりませんが」
道具で魔力を足す?
道具を使えば、浄化の威力を強められるのかな?
「そうなんだ。俺が道具を使ったらどうなるか分かるか?」
リーダーを見ると、不思議そうに首を傾げられた。
「主の魔力量だと道具は必要ないと思いますが」
「もし使ったとしてだよ」
俺の魔力量は多い。
でも、墓場にいるあの者達の呪いを浄化するには、全然足りない。
「主が道具を使用したら、道具の方が耐えきれず壊れるでしょう」
えっ、壊れるの?
「道具は、魔力が足りない者が使用する前提で作られています。過分に魔力がある者に、合わせて作られていませんから」
あっ、そうか。
でも俺に合わせて作られた道具だったら、壊れる事なく魔力を増やせるのだろうか?
試してみる価値はあるだろうか?
「俺に合わせた道具を作れるかな?」
「主、魔力が足りないのですか? あ、墓場……」
リーダーは、俺が魔力を増やしたい理由に気付いたのか、頷いた。
「いい考えかもしれません。作れるかは分かりませんが、他の者達と相談してみます」
「ありがとう」
もしかしたら、凄く厄介なお願いをしてしまったかもしれない。
でも、もし作る事が出来たら、浄化がもう少し広範囲で出来るようになるはずだ。
あの苦しみから、1日でも早く解放したいからな。
「森の神。申し訳ないが、何か知らないだろうか?」
デルオウスの言葉に、3人の王に視線を向ける。
えっと彼らは何を話していたかな?
確か、魔力を持った子供が生まれにくくなっているが、他国はどうかとエスマルイートが聞いたよな。
で、ガンミルゼが人も同じだって言って、魔力量が少ないせいで治療などに支障が出てきているという話だったはずだ。
「魔力の事だよな?」
俺の言葉に頷く3人。
「魔力はこのまま、この世界から無くなっていくのですか? 俺の魔力も年々弱まっています。いずれ魔法が使えなくなるのではないかと、心配する声が上がっているんです」
ガンミルゼの言葉に、首を傾げる。
「悪いが、そうなっている原因は分からない。エコの状態はかなりいい。だから魔力を持つ子が増えたり、魔力量が増えたりするはずなんだけど」
魔力の循環を行っているのはユグドラシルのエコ。
たった1年で巨木へと成長し、傍に寄るだけでその強い魔力を感じる事が出来るほどだ。
そのエコが、毎日順調に魔力を循環してくれている。
だから、魔力が弱まるなんてありえないんだけど。
「あっ、それは時間が解決してくれます」
リーダーは何か知っているのか?
「時間が?」
デルオウスの言葉にリーダーが頷く。
「はい。森が攻撃されていたため、ユグドラシルの力が弱まり魔力の循環が滞っていました。ですが、主が力を与えた事で、ユグドラシルは生まれ変わり、今では問題なく魔力は循環されています。ただ、まずは森の修復から入りましたので、森の外の者達が変わったと実感するには、少し時間を要します。ですが、そろそろ生まれてくる子供達に魔力持ちが多くなってくる頃だと思います。あなた達の魔力にも少しずつ変化が訪れるでしょう」
弱っていた時の影響がまだ残っているのか。
長い間、森はその役目を負えてなかったからな。
「魔力のことは、少し待っていてくれ」
3人に視線を向けると、かなり驚いた表情をしていた。
なぜ、そんな表情をしているんだ?
「さすが森の神ですね。ユグドラシルを生まれ変わらせるなんて」
エスマルイートが感心した様子を見せる。
そんなにすごい事なのかな?
まぁ、あの時はビビったよな。
触っただけで、目の前の木が一気に枯れてしまうんだから。
ナナフシ達の様子で、やばい事になった事は分かったし。
生まれ変わるために必要だった事なんだろうけど、あれは心臓に悪かった。
二度と経験はしたくない。
もしくは、結果を教えてから実行してもらいたい。
「力は戻るのか」
ん?
デルオウスを見ると、嬉しそうに微笑んでいる姿があった。
そう言えば、エルフは人や獣人より魔法に長けていたんだっけ?
「あとは、森を害した時の罰だが、3か国で揃えないか?」
「そうだな」
へぇ、同じ罰則を作るんだ。
凄い挑戦だな。
3人がそれぞれ今の罰則を口にする。
森から持ち出してはいけない物を持ち出した場合は、死罪。
ん?
森の中に、不要な物を捨てた場合は死罪。
待て、ゴミを捨てただけで死罪なのか?
ちょっと重くないか?
あれ?
どの王も、当然と言う表情だ。
あぁ、そうか。
森は、この世界の中心だ。
そのせいで、罰も重くなるのか。
死罪は重いから、軽い罪にしてもらおうと思ったけど、やっぱり口を挟むのは止めよう。
この世界のルールは、彼らが作ればいい。
3人の王を見る。
随分と楽しそうだな。
「彼らも、俺が守る者達なんだよな」
彼らだけではない。
3人の王を守る、それぞれの護衛騎士達。
少し離れた所で待機している騎士達を見る。
彼らも、俺が守る存在。
「神か。守るモノが多すぎるよな」