作品タイトル不明
86.いらっしゃい。
「大変、申し訳ありませんでした」
これからの関係の為にも、前王の事を謝りたいと言ったガンミルゼ。
宰相を務めるガジーと騎士達がガンミルゼと共に頭を下げるのを見て、真面目だなと苦笑してしまう。
「謝罪を受け取ります。なので、これ以上はいりません」
この言い方でいいのか?
こんな真面目に謝罪を受けた事が無いから、どう返したらいいのかさっぱり分からない。
でもたぶん、こんな感じでいいはず……たぶん。
それに俺としては、前王の事は全く気にしていない。
と言うか、知らない間に色々終わっていたので、特に思い入れが無いというのが正直なところだ。
まぁ、ウサとクウヒの事があるから、倒してくれてありがとうとは思っている。
その倒すのに、俺の力が色々と役立ったらしいけど、全て後から知った事なので実感がない。
なので「そうなんだ。良かったね」という感想だ。
実は各国の歴史を、地下神殿から受け取った映像で確認した。
だからガンミルゼが、何を成し遂げたのかちゃんと理解する事が出来た。
彼は本当に凄い人物だと思う。
仲間を少しずつ増やし、前王から人や獣人を守った。
言うのは簡単だが、その過程は本当に過酷だった。
仲間を集める中、裏切られた事は1度や2度ではなかったし何度も命を狙われていた。
そのせいで全てに疑心暗鬼となり、本当にこれでいいのかと苦しんでいた。
それでも決して諦めなかった精神力は、凄いと思う。
「俺は、ガンミルゼの事を尊敬しているよ」
「えっ?」
俺の言葉に驚いた表情を見せるガンミルゼ。
隣のガジー宰相も驚いたのか、目を見開いている。
そんなに驚く事だろうか?
「あっ、次が来たみたいだな。ガンミルゼ、今日は楽しんでくれ。また後で」
ガンミルゼに声を掛けると、こちらに向かって飛んでくる龍に視線を向ける。
真っ白な龍か。
あれは氷龍のマシュマロだな。
太陽の光を浴びると、真っ白な鱗が綺麗だな。
なんというか、神秘的な光景だ。
「お帰り」
「ただいま、連れて来たよ」
「ありがとう」
えっと、あっ!
エルフだ。
えっと王は……デルオウスだったよな。
うん、バッチュに聞いたから間違いないはず。
彼には、俺から声を掛けよう。
「初めましてデルオウス。これからの事を考えて、気軽に付き合っていこうな。話し方も含めて」
言ったもん勝ちというからね。
この世界で、これが通用するのかは知らないけど。
「えっと。はい、分かりました。オルサガスを治めているデルオウスです。これから宜しくお願いします」
簡単な挨拶にホッとする。
デルオウスは、かなり驚いたみたいだけど。
そう言えば、
「体は、大丈夫なのか?」
デルオウスの体は、長い間毒に侵されていたのを映像から知った。
毒に侵された原因は、彼の兄弟達の頭が悪かったせいだ。
優秀過ぎる幼い弟に脅威を感じて毒殺をしようとするなんて、イカレてる。
しかも、毒を盛ったのが1人や2人じゃなかったからな。
さまざまな毒を一気に盛られたせいで、エルフの知識をしても解毒が難しかった。
まぁ最大の原因は、彼を見ていた専属医師が金で買収されていたからなんだけど。
それを知った時のデルオウスは、ちょっと怖かったな。
あのあと専属医師は……うん、まぁ、あれは自業自得だからしょうがない。
「大丈夫です。テン殿にヒールを掛けて頂いたお陰で、元気になりました」
映像で見た過去の彼は、周りに気付かれないように我慢している表情が多かった。
最近の映像では、部屋で苦しそうに呻く姿が増えていたな。
オップル一族がデルオウスの排除に動いていたせいなんだが、バッチュが間に合って本当に良かったよ。
それにしても、過去の表情を見たからなのか、今の優しそうな笑顔を見るとホッとするな。
「そうか、良かったよ。もし体に違和感を覚えたらすぐに言ってくれ。今度は俺が治癒魔法を掛けるから」
テンでも問題ないと思うが、ずっと毒に侵されていた体だ。
1回のヒールで完全に治療が出来たのか分からない。
もしもの事があるからな。
「森の神が自らですか? いえ、本当に大丈夫です。医師にも確認しましたが、動かなくなっていた臓器も問題なく動いているそうです。本当に完全に治ったと言われていますので」
「そうなんだ。まぁ、それならいいけど」
少し焦った様子のデルオウスに、笑ってしまう。
隣にいる宰相のグルアが、何度も頭を下げるのも面白いな。
と言うか、そんなに何度も頭を下げる必要は無いんだけどな。
「今日はゆっくり楽しんでくれ。また後で」
遠くから、こちらに向かって来る龍の姿を捉えた。
最後は獣人の王、エスマルイートだな。
彼は火龍の毛糸玉に乗って来たようだ。
「大丈夫か? 毛糸玉はちょっとスピード狂なところがあるんだけど」
ここから見た限りでは、それほどスピードは出ていない。
これぐらいなら問題ないか。
「エスマルイート、いらっしゃい」
「お久しぶりです」
話し方が硬いな。
それに、毛糸玉から下りたエスマルイートはちょっと顔色が悪いように見える。
チラリと毛糸玉を見ると、スッと視線が逸らされた。
ん?
もしかして、来る途中でスピードを上げたな。
「悪かったな。ちょっと移動が乱暴だったかもしれない」
俺の言葉に、エスマルイートは慌てて首を横に振る。
「え? あっ、違うんだ。空の移動が楽しくて、ちょっとスピードを上げてもらったのは、俺なんだ」
あっ、話し方を変えてくれた。
やっぱりこの方が楽だな。
「えっ。そうなのか?」
「あぁ。まぁ結果は……まさか、騎士達が気絶するとは思わなかった」
毛糸玉から下ろされた意識の無い、騎士達。
この結果が、彼らの王が原因だったとは、可哀想に。
「何をしているんだよ」
呆れた表情でエスマルイートを見ると、彼は楽しそうに笑った。
「ははっ。空の移動なんて今まで経験したことが無かったから、楽しくて。まぁ、どんどん上がる速度に最後はちょっと怖かったけど、それでも楽しかった」
あぁ、彼もスピード狂か。
「そうだ。片付けは終わったのか?」
俺の言葉に笑顔で頷くエスマルイート。
その笑顔に何か不穏な物を感じるのだが、触れないほうがいいだろうな。
「本当にありがとう。森の神のお陰で長きにわたり暗躍していた者達を一網打尽に出来た。それに俺が把握していない者達まで捕まえてくれて。本当に助かったよ」
「そうか」
「そうだ。アンフェールフールミのシュリ殿にお礼を言いたいのだが、良いだろうか?」
「シュリに?」
不思議そうな俺に、笑顔で頷くエスマルイート。
「捕まえた者達が多すぎて、収容する場所が無くて困っていたら、シュリ殿が助けてくれたんだ」
「そうなんだ。シュリは何をしたんだ?」
収容場所でも作ったのか?
「地下に収容所を作ってくれたんだ」
地下?
シュリの巣穴を見た事があるが、どこか恐ろしい物を感じたよな。
特に出入り口を見ていると、飲み込まれそうな印象を受けた。
あれの収容所バージョン?
……なんでだろう?
とてつもなく恐ろしい収容所がイメージ出来てしまったんだが。
「えっとシュリは……あっ、ガンミルゼと一緒にいるみたいだ」
エスマルイートもシュリの姿を確認したのか、頷いた。
「失礼いたします」
ん?
「リーダーか、どうした?」
「各国の王が全員揃いましたので、話し合いを始めたいと思います」
「分かった」
俺の返事を聞くと、リーダーがエスマルイートをウッドデッキに誘導する。
ガンミルゼとデルオウスも一つ目達が、対応してくれているみたいだ。
「それにしても、どんな話し合いになるんだろうな。俺って必要なんだろうか?」
各国のこれからの関係について話をする予定らしい。
正直、俺はいらないと思うんだよな。