作品タイトル不明
84.聞こえた音。
子供達を見送り、地下神殿に向かう。
いつものように、魔石に力を送るため地下1階に向かうと、一つ目達に出迎えられた。
「おはよう。あまり無理はしないようにな」
今、地下神殿の地下1階は、一つ目達の手によって大きく変貌しようとしている。
魔幸石であるロープと、この世界に力を与える魔石を置くのにふさわしい場所にするために。
その原因となったのはバッチュだ。
ロープを持って帰って来たバッチュを地下1階に連れて来たら、「こんな殺風景な場所に、この世界を左右する存在を置くのは可哀想だ」と、嘆かれた。
そして怒涛の勢いでリフォームの許可を求められ、あまりの勢いに頷いてしまった。
正直、目の前まで迫るバッチュは怖かった。
「「「おはようございます。問題ありません」」」
3体の一つ目達は挨拶が終ると、すぐに地上へと戻っていく。
なぜなら、俺が魔石に力を送る時は出ていって欲しいとお願いしたからだ。
魔石に力を送る時は、自分の中にある力を根こそぎ送る。
そうすると、どうしてもふらついてしまったり顔色が悪くなってしまったりする。
俺としては、力はすぐに回復するので問題ないのだが、そんな状態の俺を見た一つ目達は焦った。
そして、魔石を壊そうとしてしまったのだ。
もちろんすぐに止めて、「大丈夫だ」と説得した。
だが、一つ目達は心配から、なかなか納得をしてくれなった。
それでも説得を続け、なんとかその日もいつも通り魔石に力を送る事が出来た。
お互いに、その方が良いと思ったからだ。
「おはよう。今日も力を送るな」
魔石に手を翳し、俺の中から力を送る。
最近気付いたのだが、俺の中の力が変化したようだ。
今までバラバラに感じていた力が、1つになったような気がする。
オアジュ魔神に相談したが、世界にも森にも問題が起きていないから大丈夫だろうという事になった。
コアや飛びトカゲも同じ意見だったので、特に気にしない事にした。
この世界で生活するようになって、このぐらいの変化を気にしていたら疲れてしまう。
それに1つになった力を、別々に分ける事が出来ると知った事も大きいと思う。
「ふぅ~、今日は此処までだな」
魔石をぽんぽんと軽く叩く。
まだまだ空っぽに近い魔石だが、少しずつ力を蓄えてくれている。
これからもずっと力を送り続ければ、この魔石ももっと綺麗に輝くだろう。
「ロープみたいに意思があったら、便利なのにな。何が欲しいのか、どうやったら力を効率的に集められるとか、分かるのに」
一度「魔石にも意思があれば」とオアジュ魔神に話したら「無理だろう」と言われた。
でも、魔石とは違うがロープという前例がある。
だから、絶対に無理だとは思えないんだよな。
「さて、次へ行こうか」
地下神殿の1階にいる、一つ目に念話で言葉を届ける。
「終わったから、どうぞ。忙しいのにごめんね」と。
すぐに「大丈夫です」と頭に声が届く。
念話とはとっても便利な機能だ。
「見守りを頼むな」
妖精を見ると、にっと笑みを見せる。
相変わらず、凄い牙が並んでいるよ。
「任せて!」
何かを任される事が嬉しいのか、ふわふわと飛び回る妖精はなんとも楽しそうだ。
目を閉じ墓場を思い出すと、ふっと体が移動する。
目を開けると、草原が広がっている。
ここは、何も変わらない。
「さてと、頑張るか」
草原の中心に跪き、手を地面に当てる。
スッと地面が消え、足元に暗闇が広がる。
そして聞こえだす、大量の呪詛。
ただこの呪詛の中に、何か音が聞こえだした。
まだその音が何を言っているのか分からない。
だが、呪詛とは違うという事は何となく理解出来た。
そして、その音が日々大きくなっている気がするのだ。
まぁ、これに関しては俺の希望も影響しているかもしれないが。
「今日は聞こえないな」
少し残念に思いながら、魔超石を手に呪詛が響く暗闇に力を流していく。
体の限界を感じると、息を吸い込み最後の力を振り絞る。
「浄化!」
いつものように空間に光が一瞬広がる。
そして、次の瞬間には元の暗闇が広がっていた。
まだまだだな。
「疲れた」
体をその場に横たえる。
目を閉じて、力が戻ってくるのをゆっくりと待つ。
手はまだ地面に触れた状態だ。
少しでも、呪詛と異なるあの音を確かめたくて。
ほんの少しでも変化しているのだと、信じたい。
「………………」
今日は聞こえないな。
『…………』
あっ!
地面から手が離れないように気を付けながら、体を起こす。
まだ少し頭がふらふらするが、無理をしなければ大丈夫だろう。
「こんにちは、今日もあまり役には立てなかったみたいだ。ごめんな」
音の正体は、分からない。
ただ元々呪いは、人など意思のある存在だったはず。
それが人なのか獣人なのか、エルフやもっと別の存在だったかもしれないが、元は俺と同じように意思があり生きていた存在だ。
だから、この音の正体は「意思を持つ存在」ではないかと考えた。
多分それは、俺の願望だ。
そうあって欲しいと。
意思があり話も出来るなら、お願いが出来る。
少しでいい、時間が欲しいと。
その間に、出来るだけ浄化をして皆を助けたいと。
あの呪詛を叫ぶ存在の苦しみを減らすには、時間が必要だから。
『……』
やはり、音が聞こえるだけで言葉とは認識できないか。
そう言えば、この世界で言葉が通じない時と似ているな。
あの時も音としては聞こえていたのに、それが言葉だと認識できなかった。
もしかして、制約みたいなものが俺と呪いの間にあるのか?
『…………』
「ごめんな。今は、何を言っているのか分からないや。せっかく言ってくれているのに」
……何も言ってくれないか。
「また、明日」
地面から手を離すと、暗闇が閉ざされる。
完全に土に戻ると、大きく息を吐き出す。
「戻るか」
力も、話している間にある程度は戻って来た。
途中でふらついて、周りに心配をかける事も無いだろう。
立ち上がって、ゆっくり背伸びをする。
緊張して体が硬くなっていたのか、気持ちがいい。
「さて、戻ろう」
あまり長くこの場所にいると、リーダーや飛びトカゲ達に心配をかけてしまう。
目を閉じて地下神殿を思い出すと、この場所に来た時と同じように体が移動する感覚がした。
「お帰りなさい」
えっ?
目を開けると、地下神殿にバッチュがいた。
地下1階のリフォームに伴い、一つ目達の出入りを自由にしているから問題ないが、ちょっと驚いた。
「どうしたんだ?」
今日は確か、各国に用事があると朝早くから出掛けたと聞いていたけど、何かあったのか?
「今日の3時に、各国の王が主に会いに来ますのでお知らせしに来ました」
「そうなんだ。各国の……えっ?」
待て!
えっ、本当に待って。
各国の王?
つまり人と獣人とエルフの国の王達という事だよな。
「えっと、なんでそう言う話になったんだ?」
「『鉄は熱いうちに打て』と言いますから」
ごめん、何を言いたいのかさっぱり分からない。
と言うか、ロープが関わった事については事前に相談があったのに、今日は事後報告?
いや、まだ王達は来ていないからってそうではなくて。
「用意は?」
「リーダーが、完璧に終えています」
リーダーが動いているなら大丈夫だろう。
王か。
……逃げて良いかな?
「さぁ主、準備があるので行きましょう」
なんでだろう?
もの凄く嫌な予感がするんだけど。