作品タイトル不明
83.エンペラス国 ガンミルゼ王
―エンペラス国 ガンミルゼ王視点―
謁見の間に多くのアルメアレニエが現れた瞬間、悲鳴を上げそうになった。
意地と根性で耐え、なんとか王としての威厳を守れたが、心臓に悪い。
まったく、ガジーの奴。
確かにアルメアレニエが後から参加するとは聞いた。
聞いたが、天井から一斉に参加するとは聞いていない。
頼むから、驚くような登場の仕方をするなら言っておいてくれ!
周りに気付かれないように深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせる。
しばらくすると、謁見の間を見回す余裕が生まれた。
なんというか、凄い光景だな。
えっと、アルメアレニエが出した糸……あっ、あれが糸か。
昔の文献や書物には、糸を出すアルメアレニエは登場しない。
だから、森の神が新たに作り出した新種のアルメアレニエだと言われている。
その新種のアルメアレニエが、少し離れた所にぶら下がっている。
まさか、こんな近くで見る事が出来るとは思わなかったな。
こんな時だが、少し嬉しい。
今朝、執務室でナルアン侯爵についての報告書を読んでいると、いつもより少し遅れてガジーが入って来た。
その瞬間、執務室にいた俺と補佐3人の動きが止まった。
なぜなら、ガジーが笑顔で「おはよう」と言ったからだ。
正直、ビビった。
なぜならガジーは、ここ1月ほどナルアン侯爵の事で苛立っていて笑顔など見せなかったからだ。
ナルアン侯爵家は、エンペラス国を支えてきた古参の貴族だ。
そのため支持する貴族が多く、問題があると分かっていてもなかなか調べる事すらできなかった。
だが部下の頑張りで、奴が違法薬物を取引しているという証拠を掴む事が出来た。
しかし、その証拠だけでは奴には手が出せなかった。
ナルアン侯爵を潰すには、支持している貴族達を黙らせるだけの力のある証拠が必要だったからだ。
すぐにガジーをリーダーにチームが組まれ、ナルアン侯爵を徹底的に調べる事になった。
だが、その調査は思うように進まなかった。
理由は、人手が足りないからだ。
元奴隷だった獣人達が騎士になってくれたお陰で、村や町の警護は問題なかった。
だが、調査となると別だ。
調べている人物に気付かれないように調査をするには、それなりの技術が必要となる。
今、急いで人材を育てているが、すぐに育つわけではない。
そのため、今この国は慢性的な人手不足だった。
ナルアン侯爵は、人手不足の事も自分に貴族からの支持が集まっている事も理解していた。
そのため、犯罪が少しぐらい露見しても、捕まる事は無いと思ったのだろう。
慎重さが欠けてきた。
それにも拘わらず、奴を潰すだけの証拠は集まらなかった。
悔しい事に、奴の側近達はとても優秀だった。
こちらが証拠を掴もうとすると、彼らが先回りして処理してしまう。
何度もそういう事が続き、ここ最近のガジーの表情は恐ろしかった。
それなのに、ガジーが笑顔で執務室に現れたのだ。
正直、ストレスを溜め過ぎて壊れたのかと焦った。
まぁ、ガジーの後ろから入って来たバッチュ殿の存在で、ガジーが見せた笑顔の衝撃は吹き飛んだが。
呆然としているナルアン侯爵が糸でぐるぐる巻きにされ、羽をもつアルメアレニエに抱えられて、謁見の間から出ていった。
彼はこれから、地下牢に入れられる。
側近達の証拠も揃っていたので、今頃彼らも捕まって地下牢に運ばれている頃だろう。
そしてそこで、第1騎士団とバッチュ殿の仲間から尋問される予定だ。
尋問か。
バッチュ殿が連れて来た、森の神の部下達を思い出す。
そう時間を掛けなくても、すぐに話し出すだろう。
それにしても、バッチュ殿の調査能力には脱帽だな。
重要な証拠を一切掴ませなかったナルアン侯爵の証拠が、見事に揃っていたのだから。
それを見た時のガジーの表情は、当分の間忘れる事が出来ないだろうな。
今思い出しても、恐ろしい。
本当に、彼が味方で本当に良かったよ。
「私は何もしていない! 証拠があるのか!」
ん?
あれは、ホルースミ男爵か。
「禁止されている薬草を育てているよね。畑を、第2騎士団が確認したよ」
バッチュ殿が、バタバタ暴れているホルースミ男爵の前に立った。
馬鹿だな、大人しく捕まっておけばいいのに。
「えっ?」
「しかもその薬草をクスリにして、売っているよね。売買記録は没収したし、取引した者達は既に第3騎士団が捕縛したから、言い逃れは無理だと思うけど……ホルースミ男爵はどう思う?」
「あっいや」
「しかもホルースミ男爵は、このクスリを使って最低な事をしていたよね。ちなみに、被害者達は既に保護しているからね。皆、証人になってくれるって。あっ、被害者の1人から『絶対に許さない』と伝言を預かっていたんだった。ねぇ、これ以上の証拠が必要かな? どう思う? ホルースミ男爵?」
楽しそうなバッチュ殿に、ホルースミ男爵が顔色を悪くしていく。
本当に愚かだな。
引き際をしっかりと見極めないと、無様な姿をさらすだけだ。
しかしホルースミ男爵がこうなったのは、俺のせいでもある。
領地を治める貴族も数が足りなかったため、小さな事に目をつむってしまった。
それが一部の貴族達に、何をしても許される存在なのだと思わせてしまった。
ホルースミ男爵はそのうちの1人だ。
「ガジー、本当に大丈夫か?」
ガジーとバッチュ殿は、人材が育つまで軽犯罪の場合は現状維持だと言っていた。
捕まらなかった事を、ホルースミ男爵のように「自分が特別だから」だと、誤解するかもしれない。
「大丈夫です。バッチュ殿が監視を付けてくれますし、この場で脅しも掛けると言っていたので」
脅しか。
それなら、大丈夫かもしれないな。
「離せ。私が何をした!」
ん?
あれは、救護院を作って国民から支持を受けていたイーバス子爵か。
まさかその救護院が、家族を失った者達を集めるために用意された罠だったとはな。
奴がオークションを開催する前に、捕まえる事が出来て良かった。
「じゃーん」
「えっ。なぜそれがここに? ちゃんと隠して……」
バッチュ殿が手にしているのは、オークションへの招待状。
「残念だったね。この招待状は、永遠に出す事は無いね」
バッチュ殿の言葉に、項垂れるイーバス子爵。
アルメアレニエが、そんなイーバス子爵を連れて行った。
残ったのは、イーバスの協力者だったアンリュス男爵とサタシス子爵。
なぜ自分達は助かったのかと、困惑している様子だ。
許されたわけではない。
その事を理解し、大人しく過ごしてくれればいいが。
ん?
小型のアルメアレニエが、彼らの肩に――。
「「ひっ!」」
あっ、失神した。
「そろそろ、掃除が終わりそうですね」
「そうだな」
ガジーの言葉通り、謁見の間を見回す。
ここから連れ出されたのは全員で14名。
残っている貴族達の中で、期限付きが18名。
まぁ、自分達が期限付きでここに残されたとは思っていないだろうが。
問題の18人の顔を確認したいが、半分が床に倒れているので顔が見えない。
後で、彼らが何をしたのか確認しておこう。
「ガンミルゼ王」
名を呼ばれ視線を向けると、アルメアレニエに乗ったバッチュ殿と視線が合う。
「掃除もあらかた終わりましたので、魔石を持って帰ります」
さっきみせた、楽しげな雰囲気ではなく落ち着いた雰囲気のバッチュ殿。
板についているが、こっちは演技なんだよな。
「はい。これまでありがとうございました」
バッチュ殿の後ろに、アルメアレニエに載せた魔石がある。
この存在のお陰で、他国からこの国を守る事が出来た。
その魔石が、本来の持ち主の元へ帰る。
いつかはそうなると分かっていたが、少し寂しいな。
バッチュ殿は一礼すると、魔石を載せたアルメアレニエと共に謁見の間を出ていった。
彼らの姿が見えなくなると、謁見の間のあちこちから安堵の声が広がった。
まぁ、気持ちはわかるな。
パンパン。
ガジーが手を叩き、全員の視線を集める。
「犯罪に手を染めながら、ここに残された者達がいます。そんな者達は誤解しないように。あなた達は『許された』わけではない。ほんの少しだけ、やり直す時間を貰っただけです。誤解しないように自らの行いをしっかり正してください。では、本日はこれで解散です」
ガジーが俺に視線を向けるので、頷く。
終わった。
まぁ、執務室に戻れば大量の書類が待っているが、今は最高の気分だ。
あの憎々しいナルアン侯爵と、彼を支持する奴らを潰す事が出来たのだから。