軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

69.エントール国国王 エスマルイート王

-エントール国 エスマルイート王視点-

「エスマルイート王、初めまして」

…………えっ、いつの間に?

外から聞こえた音に警戒をしていたら、気付いた時には目の前に森の神が作ったゴーレムがいた。

その傍には、気まずそうな表情の第3騎士団団長のダダビスの姿もある。

「あれ? 聞こえてないのかな? 耳が悪いなんて情報は無かったけど」

ゴーレムが首を傾げて、1歩こちらに近付いて来る。

それにビクリと体が震えてしまう。

特に敵意を向けられたわけでは無いが、この現状に警戒心が働いたようだ。

「いえ、おそらく驚いて固まっているだけなので、あと少し待てば問題ないと思います」

ダダビスの説明に、自然と頷いてしまう。

……いや、何も考えずに反応するのは王として駄目だろう。

とりあえず、この混乱している頭を落ち着かせよう。

「驚かせちゃったのか。ダダビス、驚かせないためにはどうしたらいいのかな?」

先触れがあったら、驚かないだろうな。

いや、待てよ。

ゴーレムがこれから来ると分かって、落ち着いていられるか?

「なぜここに来るのか」と、疑問と恐怖に襲われないか?

「そうですね。通常は先触れを出しておきます」

ダダビス。

通常はそうだが、先触れを貰った者の気持ちを考えてあげてくれ。

「なるほど。予告しておけばいいのか……あっ、それならこれから会いに行く予定の人達に、先触れを出して驚かないようにしておこうかな」

きっと先触れに驚くだろうな。

いや、ゴーレムからの先触れだと信じないかもしれないな。

ん?

あれは?

黒い体に6つの目……ははっ、アルメアレニエか。

傍で見るのは今回で2回目だが、やはり迫力があるな。

ん? アルメアレニエが持っているのは……紙?

あぁ、先触れの為の紙をアルメアレニエがゴーレムに渡したのか。

というか、アルメアレニエは何処から、この部屋に入ったんだろう?

あぁ、窓を壊して入ってきたのか。

壊した時の音がしなかったのが不思議だが。

あっ、凄いな。

アビルフールミが、窓の修理をしてくれている。

ありがとう。

「えっと、先触れなら『今から行きます。首を洗って待っていろ』でいいよね? 子蜘蛛さん、お使い宜しく!」

随分と恐ろしい先触れだな。

「誰に届けるのか、分かるようにしておいてくれ」

そういえば、誰に渡しに行くんだ?

「もちろんだよ。宛名をちゃんと書いておいたから、これで分かるだろう?」

折りたたんだ紙の一部をゴーレムが、アルメアレニエに見せる。

「あぁ、彼らにか。見張り役についているのは我々の仲間だったな。居場所は把握しているから、すぐに届けられるだろう」

残念だな。

此処からでは宛名が見えない。

あれ?

今、見張りと言ったか?

国内に、森の神に警戒されている者がいるという事か?

「ありがとう」

ゴーレムからアルメアレニエに先触れが渡され、窓まで行くと外にいるアルメアレニエに渡された。

あれ?

修理をしてくれている窓だけど、元のサイズより大きくないか?

あぁ、アルメアレニエが通れる大きさの窓に変えたのか。

まぁいいけど……いいのか?

注意する?

誰が? ……俺?

「まぁ、いいか。どんな大きさでも窓は窓だ」

「どうしたの?」

「あっ。いえ」

そういえば、挨拶をされていたんだった。

「初めまして。エントール国の王エスマルイートです」

時間が掛ったが何とか返せたな。

混乱も少し落ち着いたようだ。

「初めまして、森の神の使いバッチュです」

このゴーレムはバッチュ殿というのか。

「今日は先触れも無く急に訪ねてごめんね。お願いがあるんだけど」

先触れが無くて、本当に良かった。

「首を洗って待っていろ」なんて内容の先触れをアルメアレニエから受け取ったら……逃げだしそうだ。

あっ、バッチュ殿からの先触れを受け取った者達は、逃げ出すのではないか?

「あの、先触れを受け取った者達が逃げる可能性がありますが」

「逃げる? どこに?」

「えっ?」

ゴーレムのバッチュ殿が不思議そうに首を傾げる。

その態度に、俺も首を傾げてしまう。

何処って、見つからない場所だと思うのだが。

ん?

ダダビスが首を横に振っている。

「エスマルイート王。バッチュ殿から、逃げ切るのは絶対に不可能です」

そうなのか。

何だろう、ダダビスの真剣な表情が凄く怖く感じるのだが。

「エスマルイート王? 話をしていいかな?」

「はい。どうぞ」

何を言われるのだろうか。

それにしても、1つ気になる事がある。

バッチュ殿は、この場所はどうやって見つけたのだろうか?

此処は密会をするために、エントール国の名だたる魔術師達に認識阻害魔法を掛けてもらっている。

だから、知らない者がこの場所を探せるはず無いのだが、普通は。

「我々が獣人の国で自由に動き回る許可が欲しいんだ。あっ、許可をもらう前に先触れを出しちゃった……まぁそれはもういいか。で、自由に動き回ってもいいかな?」

もう既に、自由に動き回っているので許可は必要ないと思うが。

ダダビスと視線が合うと、彼は1回頷いた。

それは、許可を出した方がいいという事なんだろうな。

「分かりました。許可を出します」

「ありがとう。じゃあ、許可しましたと言う書類にサインをお願い」

準備万端だな。

アルメアレニエが持って来た紙を受け取り、内容を読む。

「えっと、『獣人の国を、害する者達の捕縛を許可します。そのために、国内を自由に動く事を許可します』」

獣人の国に害?

傍に立っている、今日の密会相手アルピアリ公爵を見る。

彼は元宰相ヴィスルイの片腕をしていた者で、今も不穏な動きを見せる者達を密かに集めている。

まぁ本当は俺の命令で動いていた間諜なのだが、それは俺とあと2人しか知らない。

「すみません、この者の事なのですが」

アルピアリ公爵がこの国を害する事は無いと、言っておこう。

「アルピアリ公爵が昔から王の指示で動いている事は知っているから、捕縛対象にはなってないよ」

まさか、知っていたとは。

「ご存知だったのですね、失礼しました。すぐにサインします」

名前を記入した紙がバッチュ殿に渡ると、満足そうに頷いたのが見えた。

それにしても、どうやってアルピアリ公爵がこちら側だと知ったのだろう?

会うのは数ヵ月に1回、会う場所はこのような密会に適した場所だ。

まぁ、この場所に普通に入ってきたという事は、我々が用意している隠れ屋や隠れ場所も調べ上げているんだろうな。

「では、先触れを出した相手を捕獲してきます。あっ忘れるところだった。先に、彼らをおいて行きますね?」

彼ら?

ダダビスに視線を向けると、首を横に振られた。

ダダビスでは無いというなら、誰だ?

バッチュ殿が修理中の窓に近付くと、外に向かって手を上げた。

すぐに、今までより一回り大きなアルメアレニエが姿を見せたので少し驚いてしまった。

「ありがとう。彼らをこっちに渡して」

バッチュ殿の言葉に、窓の外から何かがゆっくりと入ってくる。

部屋の中にいたアルメアレニエがそれを受け取ると、私の足元に向かって転がした。

「獣人か?」

少し離れた場所で止まった者達の顔を、確かめる。

なんだか随分と痩せている者達だな?

「あれ? ……ヌースル魔導師? それに元宰相ヴィスルイと消えた元騎士達か?」

あまりの変わりようにすぐには分からなかったが、間違いない。

エントール国から逃げたヌースル魔導師と騎士達だ。

まさか、こんな形で再会するとはびっくりだな。

「彼らは、どうしたんだ?」

傍にいたダダビスに視線を向ける。

「ヌースル魔導師は、操った魔物を国内で暴れさせる予定だったようです。ですが、準備を終えて国に戻ろうとしたら、森の神が張った結界で入れず、森の中に潜伏していた所をバッチュ殿が捕獲しました」

操った魔物?

それを国で暴れさせる?

「エスマルイート王、これが彼らの証拠だよ」

バッチュ殿の言葉に視線を向けると、その手には大量の紙。

おそらくそれが証拠なのだろう。

「ありがとうございます」

まさか、魔物を使おうとするなんて。

森の神の結界が無ければ、どうなっていたか。

「いつまでここにいる予定? 捕縛した者達とその仲間達の事を任せたいんだけど」

どうやら、数日はかなり忙しくなるようだな。

「王城で待機しております。どうぞ、よろしくお願いいたします」

「任せて、心をぐしゃってしてから連れて行くから」

ぐしゃっ?

擁護するつもりは全くないが、バッチュ殿が向かう先の獣人が少し可哀想かもな。

まぁ、国内を混乱させようとする奴らだ。

自業自得か。