作品タイトル不明
68.自分の事は見えにくい、らしい
ー一つ目バッチュ視点ー
リーダーに、獣人のヌースル魔導師とその護衛についていた元騎士達が結界を通れるようにお願いしたけど、まさか100枚の結界を重ね掛けするとは考えもしなかった。
「大丈夫?」
さすがのリーダーも、かなり疲れるみたい。
「大丈夫です。出来ましたよ」
「ありがとう」
でも、困ったな。
あと50人ほど結界を通してもらおうと思っていたんだけど。
リーダーの様子から、止めた方がよさそうだ。
「あれ? 新しい獣人だ。どうしたの、彼らは?」
主の声!
パッと後ろを振り返ると、いつもの様子で歩いてくる主の姿があった。
ただ、その顔色はかなり悪い。
その事を言いたくなるけど、ぐっと我慢する。
リーダーから、この世界の状態と主が何を行っているのか聞いている。
そして我々がそれについては手助け出来ない事も。
正直、悔しい。
我々の存在意義は主を助ける事にあるのに!
肝心な時に何も出来ないなんて。
この世界をこんな風にした神達を、ぶっ飛ばしたくなる。
「どうした?」
主の手がポンと頭に載る。
そこからじんわり伝わってくる主の魔力。
いつもよりその魔力が弱々しい事に、本当に悲しい気持ちになる。
「なんでもないよ。彼らを今から、獣人の国王にプレゼントしてくるんだ」
「プレゼント?」
主は眠っている獣人達を見ると、少し考える様子を見せた後に俺を見た。
「彼らは獣人の国に悪さを行ったか、行おうとした者達なのかな?」
「うん。獣人の国を混乱させようとしていたんだ。でも、結界があって国に入れなかったんだけどね。間抜けだよね。ふふっ」
森で魔物の準備を調えて、あとは操った魔物を国の中に放すだけと思ったら結界があって入れない。
ふふっ、凄く焦っただろうな。
ちょっと、その場面を見たかったかも。
あっ、もしかしたらトレント達が見ていたかも。
あの子達は、森のどこにでもいるし、少しでも異変がある場所には絶対に姿を見せるからね。
よしっ、あとで話を聞きに行こう。
「結界があって、国に入れない?」
ん?
主を見ると、俺の言葉を繰り返して首を傾げている。
リーダーを見るが、彼も主が疑問に思っている事が分からないみたいだ。
ちょっと悔しそうな雰囲気を出している。
「もしかして、『敵意を持っている者を入れない結界』にしたからか?」
主が俺とリーダーを見るので、同時に頷く。
「そっか。ちゃんと機能しているんだな。あれ? 彼らを獣人の国王にプレゼントするって……もしかして結界が邪魔になっているんじゃないか? あっ、だからこの異様な数の結界が張ってあるのか」
主が口元を手で隠して、小さく唸りだす。
な、何があったんだろう?
リーダーを見ると、主以上に混乱した様子で動きがおかしい。
主以外の事には有能なのに、どうしてこう主が関わると一気におかしくなるんだろう?
ある意味、ここまで極めるとすごい。
「よしっ、結界を変更するのは防衛力を弱めそうだから、捕まった者達が結界を通れるようにしよう」
しようって……普通は、そんなに簡単には出来ない事なんだけど。
でも、主は簡単にやってのけるんだろうな。
「えっと、結界を変更せずに通れない者達を通す方法は……」
ヌースル魔導師をじっと見る主。
何かいい方法を思いついてくれるかな?
「100枚の結界? ……なるほど、俺の張っている結界に彼を触れさせないように、こんな100枚もの結界を張っているのか。つまり、俺の張った結界に感知させない事が重要なんだな」
凄いな、すぐに結界の数が分かるなんて。
リーダーの張った結界は1枚1枚が薄いから、俺では何重なのか見ても分からないのに。
「なんだ。各国に張った結界より強い結界で守れば、普通に通れるじゃないか」
ははっ、各国に張った結界よりも強い結界かぁ。
それは、主にしか作れない結界だね。
「俺がすぐに協力出来る時はいいけど、俺がいない時でも通れないと意味がないよな。魔石を使うか。魔石は万能だから問題ないだろう」
それは違う。
確かに魔石には色々な使い道があるけど、主ほど魔石を自由に使いこなしている者はいない。
多くの魔石は、魔法の威力を強くしたり、発動時間を伸ばしたりするのに使われている。
そもそも、この家にある魔石ほど強い魔力が込もった魔石は存在しないし、魔石自体が探している力を求めて森の中を飛び回ったりもしない。
主が力を込めた魔石は、全て規格外の能力だ。
「岩人形だけに反応するようにして、前の結界より強い結界をイメージして……魔石に命令したら発動するようにして……増やすのも簡単にして……よしっ、完成。バッチュ、発動させてみてくれ」
相変わらず、簡単に魔石を書き変えちゃった。
これって実は、凄く大変な事なんだけどね。
「ありがとう」
主から透明な魔石を受け取る。
これをどうしたらいいんだろう?
確か、「命令したら発動する」と、言ったよね。
「倒れている獣人の体の一部に触れて、『結界』と声に出してみてくれ」
凄く、簡単だ。
ヌースル魔導師の肩に手を置く。
「結界」
あっ、凄い。
俺とヌースル魔導師を包むように結界が発動した。
……えっ!
この結界は何を防ぐつもりなんだろう。
結界に、凄く濃くて強力な魔力を感じるんだけど。
「凄いです。さすがです、主」
結界の威力に気付いて、興奮するリーダーを見て苦笑する。
この結界の中は、きっとこの世界で一番安全かもしれない。
「バッチュ。結界は『 止(や) め』と言うまで発動し続けるから。あと、その状態で他の者達に触れると、彼らも結界の中に入れる事が出来るから」
つまり1人1人、結界を通す必要はないという事か。
それは、嬉しい。
「ありがとう」
これで50人近くの大移動も出来るな。
まぁ、まずはヌースル魔導師とその護衛達だけで試してみるけど。
「何か不具合があったら、すぐに教えてくれ。直すから」
「うん。本当にありがとう」
そういえば、ダダビス達が静かだな。
いつもなら、主が来たらすぐに声を掛けるのに。
あれっ?
どうしてダダビス達は、顔色を悪くして直立不動なんだ?
「あの、主様」
ダダビスの緊張した声に、主が視線を向ける。
「どうしたんだ?」
「すみません。我々の国の問題にバッチュ殿を駆り出してしまって」
そんな事?
別に気にしなくてもいいのに。
楽しんで……いやいや、主の今後の生活の安定のためにしているんだから。
まぁ、ちょっとだけ楽しんでいるけど。
本当にちょっとだけだよ。
「気にしなくていいよ。バッチュも楽し……えっと、この世界のためだから」
ははっ、バレてる。
「バッチュ?」
ちょっとリーダー、睨まないで。
もちろん、主のためが一番重要なのはわかっているから!
「主の為だよ、もちろん」
その上で、楽しんでいるだけ!
もう、リーダーは主の事に関しては、心が狭いんだから。
「バッチュ。今から獣人の国へ行くのか?」
「はい」
獣人の国王に会って、国内で動く許可をもらって、奴らの隠れ家と拠点を1つ1つ……ふふっ、ぶっ壊す。
主が世界を守るために毎日、毎日頑張っているのに、混乱を起こすだと?
ありえない。
本当に、ありえない!
どうしてやろうか、あいつ等。
「バッチュはリーダーの事を『主が絡むと』とよく言うけど、バッチュも『主が絡む』と過激になるよな」
「そうそう。気付いてないみたいだけどね」
ん?
小さな声に視線を向けると、いつの間にか獣人の国を一緒に調べていた子蜘蛛と子アリがいた。
あれ?
いつの間に来たんだろう?
「準備は終わったよ。証拠書類もばっちり、証拠品も十分揃った。獣人の国に入れるようには、主がしてくれたんだろう? 行こうか?」
子蜘蛛の前脚が、ポンと肩に乗る。
なんだろう。
ちょっと残念な子を見るような視線を感じる。
……気のせいか?
「そうだね。行こうか」