作品タイトル不明
63.維持した方法
慰労会の2日後、アイオン神から「明日、行きます」と伝言が入ったと、ロープが伝えてきた。
すぐにオアジュ魔神に「明日、来てほしい」とロープに伝えてもらい「大丈夫」と返事をもらえた。
子供達が勉強のために、リビングから出ていく姿を、手を振って見送る。
光とウサとクウヒは、今日は勉強に参加せず森へ行くらしい。
なんでも魔法で試したい事があるのだとか。
3人は、どんどん魔法を極めているように感じる。
何をしてるのかを聞いても内緒にされてしまったが、楽しそうなので応援している。
リビングから、庭とその奥に広がる広場へと視線を向ける。
一昨日とは違い、今日は朝から仲間達の特訓している姿が見えた。
最初は魔法が飛び交う特訓に驚いたし、少し恐怖を感じた。
でも今は、この光景が見られないと寂しく感じるから不思議だ。
「主。今日は何をしますか?」
一つ目のリーダーが、新しい紅茶を入れてくれた。
今日は、風味が少し独特の紅茶らしい。
個性的すぎる香りも味も苦手だけど、これは美味しい。
そういえば、紅茶の種類が少し増えているが今はどれくらいあるんだろう?
リーダーを見ると、首を傾げて俺を見ているのが分かった。
あっ、質問に答えてないや。
と言っても、リーダーは既に俺がどんな答えを言うのか知っている。
「地下神殿に行って来るよ」
数日前から、正確には地下神殿から受け取った映像を見終わってから、俺は朝に地下神殿へ行っている。
「……分かりました」
少し不機嫌な声を出すリーダーに、小さく笑ってしまう。
ここ最近、毎日繰り返される質問と答えだ。
その答えに、リーダーが納得していないのが声から伝わってくる。
でも、こればかりは変更するつもりは無い。
俺はどうしても、あそこに行かなければならないし、やらなければならない。
「心配掛けて、ごめんな」
「主が謝る必要はありません。やらなければならない事を、しているのですから」
俺が地下神殿へ行っている事を仲間達は知っているが、何をしているのかを知っているのはリーダーだけだ。
リーダーの前で倒れてしまったので、隠せなかった。
まぁ、いつかは話さなければならないのだが、アイオン神と話してからにしようと決めている。
「体の方は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。調整が出来るようになったし、休憩を取ったら魔力は元に戻るから」
体の中の魔力を調べる。
今日も魔力は満タンに回復している。
「リーダー。紅茶の種類って今はどれくらいあるんだ?」
紅茶を飲み終えてリーダーを見る。
「今のところ18種類です」
今のところという事は、これからも増えていくという事か。
確か、農業隊の1体が紅茶に興味を持って改良したり、茶葉を森から見つけて来たりしているんだったよな。
「そうなんだ。今日の紅茶は香りが良かった。ありがとう。行って来るな」
「はい。お気をつけて」
今、地下神殿に入れる者は限られている。
俺が、そう制限を掛けた。
今、入ることが出来るのは俺と一つ目のリーダー。
それと、内緒にしているが飛びトカゲとコアだ。
他の者達は、入る事が出来ない。
地下神殿を思い浮かべると、体がふっと浮く感覚がする。
次に目を開けると、目の前に地下神殿が見えた。
イメージするだけで移動できるのは本当に楽。
「おはよう」
「おはようございます」
あっ、地下神殿には妖精も出入り自由だった。
「異常は無いか?」
「無いよ。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
出入りは自由だけど、この子はこの空間から出ようとしない。
なんでも、この空間の居心地が良くなって出ていきたくないらしい。
妖精は地下空間を浄化させる役割があるから、居心地がよくなったのは良かった。
地下神殿から最初は、妖精がいた空間に移動する。
そこにある魔石に手で触れ、魔力を流し込む。
魔石から感じるトクン、トクン、トクンという音に合わせて魔力が魔石に流れていく。
体の中にある大量の魔力が急激に減っていくのを感じる。
「ふぅ。今日はこれで終わり」
魔力を流すのを止めて、魔石から手を離す。
白や青、赤の光を纏った魔石は、今日の分の魔力を受け取り元気そうだ。
ただ、魔石を見る限りまだまだ魔力は足りていない事が分かる。
いったい、どれだけの魔力を注げば満足してくれるのか。
映像で知ったのだが、この魔石は地下神殿の主導権を取れるだけでなく、世界を回す役目も持っていた。
そのため、力が枯渇すると世界は滅びへと向かう。
滅ぶ前に、間に合って良かった。
「いや、間に合っていないか」
一度地下神殿に戻り、墓場へと移動する。
地下神殿4階の棺桶が並んでいる場所ではなく、地下神殿から繋がっている一見何もない草原。
最初は、なぜこの場所が墓場と呼ばれているのか分からなかった。
だが、映像を見て分かった。
この場所から、核のある空間へ繋がる事が出来るようになっているのだ。
そして、この場所は見習い達やこの世界に関わった神達が罪を犯した場所なのだ。
草原の真ん中に移動して、地面に両手をつく。
草と土の感触がスーッと消えて、真っ黒な世界が見えた。
この見えているのが、核のある空間だ。
そして真っ黒なのは、全て呪いだ。
「相変わらずきついな」
空間に直接触れている状態になるため、伝わってくる怒り、悲しみ、呪い、嘆き。
それらが、俺の頭に大量に叩きこまれる。
初日、これに耐えられず家に戻った瞬間に倒れてしまった。
それをリーダーに見つかったのだ。
あの時のリーダーの混乱は凄かった。
あまりの混乱ぶりに、全て話してしまったんだよな。
「さて、ごめんな。今の俺には全てを浄化することは出来ないんだ。でも、少しでも落ち着いて欲しいから」
魔力を核の空間に流し込む。
体の中の魔力が何度か空っぽになるのを感じる。
息が上がってくるのを感じると、空間に流した魔力に指示を出す。
「浄化!」
空間に光が一瞬広がるが、すぐに真っ暗な空間へと戻る。
その光景を見ると、空しく感じる。
圧倒的に呪いが深く濃い。
俺の浄化は全く意味を成していないかもしれない。
それでも、ほんの少しでも苦しみから解放されるならと毎日行っている。
地面から手を離すと、見えている真っ黒な空間が草原へと戻る。
何度見ても、不思議な光景だ。
草原に寝転がると、荒い息を整える。
いつもならすぐに戻る魔力が、今はゆっくりと戻ってくるのを感じる。
「今日も何とかなりそうだな」
映像から分かった事は、見習いでは全く魔力も神力も足りなかったという事だ。
この世界を半分しか作れなかったのだから、この世界を回すために必要な力が足りるはずがない。
だから、地下神殿にある魔石は空っぽになってしまった。
あの魔石が空になると、世界はゆっくりと滅びへと向かう。
それを見習い達と、協力した神達は止めようとした。
その方法は多岐にわたったが、どれも上手くいかなかった。
そして追い詰められた彼らは、おそらく禁忌に手を出した。
それが、協力している神々が管理している世界から魂を持ってくる事。
そして持ってきた魂から 魂力(こんりょく) を奪い、世界を回す力にする方法だった。
その方法は上手くいったらしく、見習い達が喜んでいる映像があった。
そうこの世界は、魂力で維持されてきたのだ。
魂力を奪われた魂を、ちゃんと弔っていたらここまで呪いは深く濃くならなかったかもしれない。
でも、見習い達は魂力を奪う事しか考えず、残った魂を力もない不要な物として捨てた。
この草原は、魂から魂力を奪った場所で、残った残骸を核の空間に捨てた場所なのだ。
なぜ、核の周辺に捨てたのかは映像からは分からなかったが、魂から魂力を奪うのはかなり痛みを伴うらしく、魂が叫ぶ声が映像から聞こえた。
「最悪な事をするよな」
映像で見たが、魂力を奪われて残った物は本当に小さな粒のような物だった。
きっとあの粒が百個集まったとしても、何も起こらなかっただろう。
でも、長い間に核の空間には膨大な数の魂の残骸が集まった。
しかも、無理やり魂力を奪われた痛みや苦しみを味わった者達の残骸が。
例え1つでは無理でも、その数が増えれば大きな力となる。
見習い達は、この世界に死者の花が大量に咲いた事でそれに気付いたようだ。
映像には、慌てて核の周辺を確かめている見習い達の姿が映っていた。
そして、すぐに浄化を行ったようだ。
だが、既に手遅れの状態だったのだろう。
数ヵ月は頑張ったようだが、いつからか映像に見習い達がまったく映らなくなった。
たぶん、彼らはこの世界を捨てたんだ。
「明日、ちゃんと話をしないとな」
起き上がって地面をぽんぽんと叩く。
「あなた達を、苦しみから解放できる方法が見つかればいいのだけど」