作品タイトル不明
62.ほどほどが大事。
バッチュの衝撃的な報告のあと、慰労会と称して酒乱会が開催された。
いつもの酒乱会より、ワインの樽が多く空になるが今回は「いいか」と一緒に楽しんだ。
気付くとオアジュ魔神が、酒乱会に参加していた。
どうやら、親蜘蛛さん達に絡まれて魔界に帰れなかったらしい。
最初は不思議そうにワインを飲んでいたオアジュ魔神だが、エルフ国の話を聞くと魔界から大量に酒を差し入れしてくれた。
ありがたいが、飲み過ぎてしまうから大量は止めて欲しい。
まぁ、水を差すような事は言わないけどね。
…………
「でも、言った方が良かったかな?」
朝、広場に折り重なって寝ている仲間達の姿を見て、後悔してしまう。
いつもより酒の量が多かったからなのか、いつにも増して酷い状態だ。
しかも、本来の大きさに戻った火龍の毛糸玉まで寝てしまっている。
「毛糸玉が、ここで寝込むのは珍しいよな」
寝るのは仕方ない。
ただ気になるのは、毛糸玉の口から時々火が噴き出している事だ。
まぁ、それほど大きな火ではないが、前で寝ている親蜘蛛達を間違いなく火で炙っているように見える。
ちょっと心配になるが、丸焦げになっていないから大丈夫なんだろう。
というか、親蜘蛛達は気にせず寝ているし。
……普通は起きないかな?
バフッ。
あっ、毛糸玉がくしゃみを。
ボウッ。
へぇ、火の勢いが増すんだ。
パタパタパタ。
いやいや親蜘蛛さん、足が燃えているんだから起きようよ。
まぁ、火はすぐに消えたけど。
「主、凄いね。燃えても起きなかったよ」
太陽の言葉に、肩を竦める。
「私達もいつか、あの酒乱会に参加してもいいんだよね?」
えっ?
桜の言葉に、驚いてしまう。
今の言い方は、参加したいと聞こえるんだけど。
気のせいだよね?
「早く皆と飲みたいね」
月の言葉に大きなため息が出る。
気のせいじゃなかった。
「参加したいの?」
聞くまでもないけど、聞いてしまう。
あ~、酒乱会はやっぱり止めれば……いや、止められないけど!
「もちろん。皆、楽しそうだもん」
楽しそうか?
まぁ、楽しそうだけど。
寝ている仲間達の中に、獣人の姿がある。
きっと、逃げられなかったんだろうな。
一つ目達が起こして水を飲ませているが、二日酔いなのだろう。
かなり辛そうだ。
「二日酔いになって、つらいかもよ」
「大丈夫。ヒールがあるから治せるもん!」
……そうだけど。
月の言う事は正しいんだけど。
「楽しむ程度に、ほどほどにね」
俺もかなり飲むようになっているから、強く言えないんだよね。
二日酔いになったら、ヒールで治すし。
あれ?
俺のせいでもあるのか?
「朝ごはん食べて、今日は……のんびりしようか」
子供達の勉強を見ている先生達が、二日酔いで潰れているから今日は休みだろう。
あっ、一つ目達がヒールで治してあげている。
「治してもらったみたいだから、今日はどうするのか聞いてくるね。先生!」
紅葉が、元気に獣人達の下へ駆けよると、二日酔いをまだ治してもらっていない獣人達が頭を押さえた。
あははっ、ちょっと早かったか。
あれ?
獣人の1人が紅葉に頭を下げているけどあれは……語学を教えているノミスだな。
なぜ、紅葉に謝っているんだ?
「今日はお休みだって~」
休む事になったから謝っていたのか。
「そうか。今日は特訓も、この状態では無理だな」
広場は、仲間達が寝ているので使えないし。
「そうだね」
「おはよう。うわぁ、体がギシギシといっている。あれ? 肩が痛いような気がするけど、何かしたのかな?」
髪になぜか大量の葉っぱをつけたオアジュ魔神が、眠そうな表情で起きてくる。
肩も痛いと言っているし、いったい何をしたんだ?
「オアジュ魔神。髪に葉っぱがいっぱいついているけど、何をしたんだ?」
翼の言葉に、髪に手を伸ばすオアジュ魔神。
「葉っぱ? 本当だ。何かあったっけ?」
パラパラと、頭から落ちていく葉っぱを見て首を傾げるオアジュ魔神。
翼が手を伸ばしてオアジュ魔神の髪から葉っぱを落とすのを手伝いだした。
それにしても、本当に葉っぱだらけだな。
「あっ、思い出した! 昨日、子蜘蛛と力比べしていたら森に吹っ飛ばされて、落ち葉が溜まっていた場所に落ちたんだった」
力比べで、森に吹っ飛ばされた?
広場の周辺は広大な畑が広がっているので、森まではかなり距離がある。
それなのに、森に吹っ飛ばされた?
「魔法を使って?」
じゃないと森まで飛ばないと思うんだけど。
「いや、魔法を一切使用しない、純粋に力だけの勝負だった」
オアジュ魔神は自慢げに言っているけど、負けているから。
「あの子蜘蛛、異常なほど力が強かったよな」
オアジュ魔神の言う子蜘蛛に、思い当たる子がいない。
「どの子だ?」
「ん? あれ? どの子だろう?」
広場で寝ている子蜘蛛達を見て、首を傾げるオアジュ魔神。
「えっと……無理。区別がつかない」
残念。
どれぐらい力が強いのか、ちょっと興味があったんだけどな。
あとで蜘蛛達に聞いてみるか。
ただ蜘蛛達は、酔っている時の事を忘れる子が多いんだよな。
オアジュ魔神と勝負した事を、覚えているかな?
「そろそろ魔界に戻るよ。昨日、戻るはずだったのが戻れてないし……怒られそうだな」
それは奥さんにだろうな。
ごめん、親蜘蛛さん達を止めなくて。
「そうだ、オアジュ魔神。アイオン神が来たら話したい事があるのだけど、時間を取ってもらえないか?」
「ん? 分かった」
俺の表情を見て、何か感じたのだろう。
真剣な表情で頷いてくれた。
「アイオン神が来たら、ロープに連絡してもらうよ」
「了解。じゃっ、またな」
魔界に帰るオアジュ魔神を見送ってから、ロープに声を掛ける。
『主! どうしたの?』
『今、大丈夫か?』
『うん』
『アイオン神が来たら、オアジュ魔神に連絡をしてほしいんだけどお願いできるか?』
『もちろん! 任せて』
良かった。
これで、あとはアイオン神からの返信が来るのを待つだけだな。
『アイオン神から返信はあった?』
『それがまだなんだ。催促する?』
『いや、止めておくよ。彼女も忙しいのだろうし』
「主、ご飯食べよう」
太陽か。
「分かった。食べようか」
『ロープ、ありがとう。また連絡するな』
『わかった。主、またね』
太陽と手を繋いでリビングに行く。
子供達は既に、いつもの椅子に座って待っていてくれたようだ。
「待たせてごめん。食べようか」
朝食を食べ始めながら、部屋の中を見回す。
なんだかいつもと違う気がする。
……あぁ、皆がいないんだ。
飛びトカゲも、コア達も広場で寝ていたからな。
「そうだ、主! バッチュが『次は獣人の国だぁ』と、朝から元気に出かけたけど獣人の国にはどんな問題があるの?」
えっ?
次は獣人の国?
興味津々の表情で、俺を見ている桜を見る。
「ごめんね。知らないんだ。後で獣人の騎士達に聞きに行こうか。何か知っているだろうから」
「うん」
子供達の元気な声に、笑みを見せる。
とりあえず、獣人の国にも問題があると。
……まぁ、バッチュだし。
大丈夫だろう。