作品タイトル不明
60.オップル一族 2人の当主
―アリャンテ当主視点―
「報告はまだか!」
そろそろ王城を落とし、王弟のデルフォスを捕まえたはず。
大丈夫だ。
王城に向かわせた部隊は、オップル一族でも腕の立つ精鋭を揃えた。
王城を守る騎士では、太刀打ちできないだろう。
なのに、なぜこの不安感が消えない?
「アリャンテ当主、今報告が……失敗したと」
「はっ? 失敗? 何があった?」
「アルメアレニエとアビルフールミが現れたようです」
くそっ。
森の神を、甘く見てしまった。
今まで全く動きが無かったから、この国の事に興味が無いと判断してしまった。
まさか、ずっと調べられていたなんて。
「付いてこい! この場所は危険だ」
なんとしても、オップル一族を存続させる方法を考え出さなければ。
「なんでこんな事に」
狂いだしたのは、森の神が国全体に結界を張った日からだ。
あの日から全てが狂いだした。
問題が発覚した者達は、森にある洞窟に一時的に避難させていた。
生贄を差し出し問題を終わらせたら、すぐに帰って来られるように。
まさか、結界に阻まれて入って来られなくなるなんて考えもしなかった。
「もしかしたら森の神は、あの時から既に我々の事に気付いていたのか?」
だからあんな結界を?
「アリャンテ当主、どちらに行かれますか?」
王都の近くは危険だ。
少し離れた町にある隠れ家で、情報を集めるか。
「グンガ町の隠れ屋だ」
ドゴッ……パラパラパラ。
「うわっ」
地面が揺れた?
「どうした?」
「穴が! この先に、大きな穴が現れました!」
穴?
地面が揺れたせいで、陥没したのか?
視線を先に向けると、確かに庭に大きな穴が見えた。
まるで行く手を阻むように開いた穴。
その穴を見ていると、なぜか言いようのない恐怖を感じ体が震えるのが分かった。
ただの穴なのに、なぜだ?
「……見つけた」
恐怖に目をつぶり、穴を迂回しようとすると、ガサリという音と共に大きなアビルフールミが姿をみせた。
「ひっ」
穴からゆっくり出てくるアビルフールミに、恐怖で全身が震え上がる。
アビルフールミは周りを見回し、私を見るとゆっくりと近付いて来た。
「来るな、く、くるなぁ」
ドサッ。
近付くアビルフールミから逃げようとするが、足が縺れて倒れてしまう。
それでも逃げようと必死に足を動かすが、地面を蹴るだけで一向に逃げられない。
傍にいた、護衛に手を伸ばす。
それをみたアビルフールミの視線が、護衛達に向く。
「「「うわぁぁ」」」
彼らは、アビルフールミに見られた瞬間に逃げ出した。
「待て! 私を守れ! 戻れ!」
逃げる護衛に手を伸ばすが、その手は届かない。
逃げ出す護衛達を呆然と見送る。
私はオップル一族の当主。
守られて当然の立場で、人に傅かれるのが当然で。
「皆、逃げちゃったね。誰も守ってくれなかったね。かわいそうに」
声に視線を向けると、40㎝ほどのアビルフールミが私を見ていた。
全身が、恐怖でガタガタと震える。
「なぜ、こんな」
どうして私がこんな目に遭わなければならない?
「なぜ? ん~、因果応報かな?」
「いんがおうほう?」
アビルフールミの言葉を、ただ繰り返す。
「悪い行いをすれば、悪い報いがある。当然だよね。これまで好き勝手して、多くのエルフ達を苦しめてきたんだから、これからはアリャンテの番だよ。我が主は、引き返すチャンスをあげた。なのに、引き返す事は無かった。だから、これは当然の報いだよ」
引き返すチャンス?
いつ?
「さぁ、行こうか」
どこへ?
「大丈夫、皆も一緒だから」
アビルフールミの視線が横を向くので、つられて横に視線を向ける。
そこには、逃げ出した護衛達とこの屋敷で働く者達の姿があった。
なんだ、彼らは逃げ切れなかったのか。
「ははっ。私を見捨てたくせに捕まったのか」
乾いた笑いが口から零れる。
「挨拶は済んだ? それならもういいね。バッチュも待っているだろうし、行こう」
体が何かに掴まれた次の瞬間、目の前に大きな穴があった。
その穴の底を見た瞬間、底知れぬ恐怖に目を見開いた。
「いやだ……やめっ……」
体をよじっても、拘束は緩むことがなくそのまま穴の中に引きずり込まれた。
ただ私は、家の教えを守っただけだ。
確かにおかしいと感じた時もあった。
でも、国を裏から動かせるならそんな事は些細な事だった。
権力と金。
あと少しで全てが手に入るはずだったのに!
―バチュテ当主視点―
「武器を取りに行く。俺を守れ!」
周りを部下に守らせながら、呪いの剣を取りに行く。
「ハーフ共に呪具を付けて、用意させておけ」
呪具を付ければ、こちらの言う事を確実に実行させられる。
その状態で、呪いの剣を持たせ王都で暴れさせればハーフの危険性を訴える事が出来るはずだ。
「どうするおつもりですか?」
「アリャンテに虐げられていたハーフ達が、狂った事にする。いや、アリャンテが行った実験で、狂った事にしてもいいな」
全てをアリャンテとハーフのせいにする。
アリャンテも、オップル一族を守るためだ。
喜んで死んでくれるだろう。
「ハーフがある程度暴れたら、ハーフを始末しろ。俺とお前達は、この国を守った英雄だ」
ハーフから国を守った一族として、オップル一族を存続させる。
国民から支持されている一族を、無暗に潰す事は出来ない。
「まさか、森の神とデルオウス王が繋がっていたなんて! クソッ!」
森の神と王の接触が、全て失敗に終わっているから安心していた。
森の神は、エルフ国に興味が無いと。
まさか、知らない間に関係を築いていたなんて。
だが、いくら森の神でも俺の事は知らないはずだ。
一族に当主は1人。
これが常識だからな。
周りを警戒しながら、隠れ屋に馬で向かう。
あと少しで着く辺りまで来ると、馬から下りて周りを見回す。
「この場所は、ばれてはいなかったな」
いつものように静寂に包まれている事に、ホッと体から力が抜ける。
まぁ、この隠れ屋の持ち主はオップル一族とは完全に無関係。
我々側に付いている者達とも、全く関係ない者だから。
ばれるはずがないのだが。
建物の鍵を開け、扉を開ける。
この奥には、我々オップル一族が抱える研究者達が作りあげた最高傑作の剣がある。
その剣は、持った者の魔力を数十倍にしてくれる。
極限にまで引き上げた魔力を使用した攻撃は、どれほどの破壊力か。
ハーフが王都を壊せば壊すほど、彼らを討伐する我々が英雄になれる。
ガラリ。
「いらっしゃい。遅かったですね」
……えっ?
目の前には、片脚を上げ俺を見ている大きなアルメアレニエがいた。
あまりの事態に、何が起こったのかすぐには理解が出来なかった。
ただアルメアレニエの6つの目に、俺が映っているのが見えた。
「なぜ……」
俺の存在がバレているんだ?
俺はずっと、オップル一族の影として生きてきた。
オップル一族でも俺の存在を知っているのは、ほんの一握りの者達だけだ。
確かに他にも知っている者達はいる。
だが奴らは、こちら側に完全に落ちていて利用価値があると判断した中でも有能な者達だけだ。
いくら森の神でも、俺の存在を知っているはずはない。
……ない、はずなんだ。
「オップル一族の影の当主、バチュテ。もちろん知っていますよ。当然でしょう? オップル一族は2人の当主がいる珍しい一族、そして、エルフ国に害を及ぼす一族。主は、争いごとが好きではないのです。なので、証拠も揃いましたのでそろそろ退場をして下さい」
退場……駄目だ!
絶対に、終わるわけにはいかない。
「やれ!」
「「「「「えっ?」」」」」
俺の命令に戸惑う部下達。
「何をしている、そこに武器があるのだから戦え!」
青い顔をした部下達に、部屋にある剣を指す。
そうだ、いくらアルメアレニエとはいえ、あの武器を使えば間違いなく殺せる。
「くそっ」
部下の1人が剣を持ち、アルメアレニエに向かって攻撃をした。
アルメアレニエは防御することもなく、ただ攻撃を見ている。
それに笑みが浮かぶ。
あの剣を普通の剣だと思っているのだろう。
愚かな。
バチッ。
ビシッ……バラバラバラバラ。
「えっ? なぜだ? なぜ剣が……砕けたんだ!」
確かに剣は、アルメアレニエに当たった。
だが次に目に入った物は、俺が考えていた結果とは全く違った。
攻撃されたはずのアルメアレニエには、一切傷が無く。
攻撃したはずの剣にはヒビが入り、そしてバラバラと砕けて地面に落ちた。
「この剣は、前に見つけた物より攻撃性が増しているようだったけど。やっぱりこの程度か」
「というより、主の結界は神の攻撃も防ぐんだよ? エルフが作った武器程度なら、結果は予想できるでしょ?」
大きなアルメアレニエと、それより小型のアルメアレニエの会話に力が抜ける。
神の攻撃を防ぐ結界?
つまり、彼らは森の神が施した結界で守られているのか。
ははっ、俺はなんて馬鹿なんだ。
神が認めた者達を倒せると思うなんて……ははっ。
「あれ? もう終わり? 満足したなら、行こうか」
気付くと細い紐が体に巻き付き、大きなアルメアレニエが目の前にいた。