作品タイトル不明
57.行ってらっしゃい。
「ん?」
静かになったバッチュを不思議に思い視線を向ける。
なぜか、両手をぐっと握ってぷるぷると震えていた。
「バッチュ? どうした――」
「分かった! 主の期待に応えてみせる!」
えっ、期待?
なんの事だ?
俺、「エルフの国の王を助けてきてくれないか?」と言っただけだよな?
「バッチュ。えっと……エルフの王の意見を聞いて動こうな。頼むぞ」
「もちろん!」
うん、それなら良かった。
でも、どうしてだろう?
バッチュを見ていると、不安な気持ちになるんだけど。
大丈夫だよな?
「やり過ぎないようにな。処罰はエルフの王に任せればいいから」
「はい」
不安なのは気のせいだな。
バッチュなら、きっと大丈夫だ。
「さっそく行って来るね」
「そうだな。騎士の中から裏切り者を釣り上げた……じゃなくて、見つけた以上、オップル一族達も動き出すだろうからな」
俺の言葉にバッチュが庭に向かって片手を上げると、様々なサイズの蜘蛛達やアリ達がウッドデッキに集まって来る。
それに首を傾げる。
なぜ、集合をしたんだ?
「彼らも、一緒に行っていい?」
えっ、こんなに?
というか、どうして?
あっ、バッチュの肩に最小サイズの孫蜘蛛達がいる。
あの子も一緒に行くという事か?
「一緒に、オップル一族を調べた仲間だ」
なるほど。
オップル一族を調べるのに、これだけの仲間達が協力をしていたのか。
あっ、あの最小サイズの孫蜘蛛達はきっと情報収集だな。
「そうなのか」
どれくらいの数がいるんだろう?
ん~、50匹はいるよな。
こんな大量の仲間達が押し寄せて大丈夫か?
「こんなに押し寄せたら、エルフの国の人達が驚いたりしないかな?」
俺の言葉に、バッチュが考えるように腕を組む。
「大丈夫だろう。問題を起こしに行くのではなく、協力しに行くのだから」
声に振り向くと、飛びトカゲが集まった仲間達を見て頷く。
「特に、攻撃的な性格を持つ者はいない様だ」
えっ?
攻撃的な性格?
「どちらかといえば、穏やかな性格の者達が集まっているな」
飛びトカゲは、もしかして蜘蛛達やアリ達を見分けられるのか?
えっ、マジで?
「どうしたのだ、主?」
「いや、なんでも。そうか、穏やかな者達が多いなら大丈夫だな。バッチュ、エルフの国に行ったらすぐに王に会いに行って、協力することを伝えて欲しい」
最初に、誤解を受けないように動かないとな。
まぁ、バッチュならこれぐらい考えつくか。
「分かった」
「気を付けて、みんな、怪我などしないようにな」
心配だな。
強力な結界を重ね掛けでもしておくか。
「3重結界」
バッチュや、エルフ国に行く仲間達に向かって結界魔法を掛ける。
3重にしておけば、何かあってもある程度は防げるだろう。
「3重か……神が本気で攻撃しても数発は防げる結界か」
ん?
飛びトカゲが何か言ったようだが、何だ?
視線を向けると、なぜか呆れた雰囲気で首を振られた。
なんなんだ?
「では、行ってきます」
「あぁ、行ってらっしゃい」
今から走って行くのか。
30分ぐらいか?
なんだかちょっと……、
「待った」
嫌な予感がする。
「えっ?」
驚いた表情のバッチュに、庭を指す。
「転移魔法で庭とエルフの国を繋げるよ。その方が早く行けるから」
「いいの?」
嬉しそうな声のバッチュに、笑って頷く。
「もちろん」
庭に出ると、以前行ったエルフの国を思い出しながら転移魔法を発動させる。
バッチュの前に扉が現れたので、おそらくエルフの国の何処かには繋がったはずだ。
「繋がった場所を確かめてから、問題がないなら通ってくれ」
俺の言葉に頷いたバッチュは、扉を開けると顔を出した。
「エルフの国に近い森の中に繋がったみたい」
良かった。
「では、行きます!」
断言をしたバッチュは勢いよく扉を開けると、飛び出していった。
それにぞろぞろと、仲間達が続く。
「うわっ、ゴーレムだ! 早く門を壊せ!」
ん?
扉から聞こえてきた声に、首を傾げる。
門を壊せと聞こえたような気がするんだけど……。
ゴンゴンゴン。
ゴンゴンゴン。
何かがぶつかる音に不安を覚える。
「無理です! 結界のせいで、用意した道具が壊れます!」
もしかして、エルフ国は誰かに襲われていたのか?
仲間達が出ていった扉から、そっと顔を出して何が起きているのか確かめる。
が、扉が繋がったのはバッチュが言うように森の中だったようで、木々が邪魔をして何が起きているのか、全く見えない。
「大丈夫かな? 既に問題が起きているようだけど」
「大丈夫だ」
傍に来た飛びトカゲが、扉から顔を出してエルフの国の方へ視線を向けると、力強く断言した。
「バッチュは強い。そして仲間達が一緒だ。騒いでいるエルフ達も、すぐに大人しくなるだろう」
あれ?
門を壊そうとしているのは、エルフ達なのか?
という事は、もうオップル一族が動き出しているのか。
それにしても、なんでわざわざ壁の外から攻撃をしているんだ?
やるなら中で暴れた方が、効率的だと思うのだが。
「ほら、大人しくなった」
あれ?
そういえば、いつの間にか静かになっているな。
何かがぶつかる音も聞こえてこないし。
「そうだな、静かになったな」
まぁ、大丈夫みたいだし信じて帰って来るのを待つか。
「主、映像は全て見終わったのか?」
扉を閉めると、心配そうに飛びトカゲが聞いてくる。
そういえば、ここのところ周りに気を配る余裕がなかったな。
「あぁ、全て確認できたよ。心配掛けて悪かった」
「そんな事は気にしなくていい。それより、何か問題があるみたいだな」
さすがだな。
俺の態度で気付いたのか?
「どうして分かったんだ?」
飛びトカゲは俺を見ると、小さく息を吐いたようだ。
なんだ?
「気付いていないのか? 主の周りの魔力が荒れているぞ」
魔力?
あっ、本当だ。
俺から出ている魔力が、いつもより荒っぽいみたいだ。
記憶装置のある部屋から出る前に気持ちは落ち着かせたから、魔力も大丈夫だと思ったんだけど違ったみたいだな。
「全然、気付かなかったよ」
意識して、魔力を落ち着かせる。
いつもなら無意識に出来るのに、今日はなんだか難しいな。
「何を見たのだ?」
「何を」か。
核の周辺を覆う呪いと死者の花の原因だろうな。
それと、神々の罪か。
神々の罪については、同じ神に丸投げするつもりだからどうでもいいけど。
問題は呪いの原因だよな。
「それほど深刻なのか?」
飛びトカゲの問いに、肩を竦める。
「アイオン神とオアジュ魔神が、解決策を知っていたらいいんだけどな」
「そうか」
神妙に答える飛びトカゲの頭をそっと撫でる。
「まぁ、なんとかするさ」
必ず。
「分かった。協力できることはやるから、なんでも言ってくれ」
「あぁ。ありがとう」
あっ、魔力が落ち着いた。
仲間がいるっていいな。
『主!』
「ロープか?」
『そう。アイオン神から連絡が来た。明日になれば時間が作れるって。それでいい?』
アイオン神はいつも思うけど、早いよな。
「あぁ、それで頼む」
明日か。
今日はゆっくり休憩して、明日に備えるか。