作品タイトル不明
48.まさか、それだけ?
ー三つ目の視点ー
木の根元で意識を失っているエルフを見る。
足がちょっとおかしな方向を向いている。
まぁ、あれ位では死なないだろうから、大丈夫。
胸もちゃんと上下してるから。
それにしても驚いた。
建物から出たら、あんな不愉快な場面を見る事になるなんて。
「酷い傷ですね。治さないんですか?」
リーダーの言葉に視線を向けると、肩を怪我しているエルフがいる。
かなり酷い怪我なのか、肩が血で染まっている。
ん?
後で治療?
それは駄目だろう。
今すぐ治療した方が良い。
なぜ今、治療しないんだ?
あっ、リーダーが治療するみたいだ。
なら、もう大丈夫だね。
それにしても、どうして彼は剣で叩かれていたんだ?
他のエルフ達も、笑って見ていて助ける様子は無かったし。
彼に問題があるんだろうか?
怪我を治してもらったエルフを見るが、問題があるようには見えない。
まぁ、この短時間で、このエルフの事が全てわかるわけではないので何とも言えないが。
ただ、なんとなく彼には問題が無いと思う。
「半端のくせに」
ん?
はんぱ?
微かに聞こえた言葉に、視線を向ける。
少し離れた場所にいるエルフ達の声が、聞こえたようだ。
それにしても「はんぱ」とは何だろう?
話が続くかとエルフ達を見ていると、なぜかばつが悪そうな表情をして視線を逸らした。
そんな表情をすると言う事は「はんぱ」という言葉に、やはり意味があるんだろうな。
「はんぱ」か?
ん~、あっもしかして「半端」かな?
完全な状態ではないという意味だけど。
叩かれていたエルフは完全じゃないという事か?
少し離れた場所にいるエルフ達と、怪我を負っていたエルフと見比べる。
特に違いは無いよな。
ん?
耳の形が違うか?
怪我を負ったエルフは髪で耳が隠れているので見にくいが、他のエルフのように尖ってはいないな。
あの形は、人と同じだな。
ん~、見た目の違いは耳だけだな。
まぁ、あんな些細な違いではないだろう。
もしそうなら、心が狭すぎる。
もっと大きな違いがあるはずだ。
となると、魔力か?
人と獣人とエルフは、それぞれ魔力が少し異なる。
まぁ、かなり詳しく調べないと違いは分からないが。
エルフの中には、その違いが分かる者がいるのかもしれない。
ちょっと調べてみるか。
誰に協力してもらおうかな。
体内に他人の魔力を流すから、弱っている者は駄目なんだよな。
「彼でいいか」
怪我を負ったエルフを、無言で睨みつけているエルフを見る。
それだけ元気なら、問題ないだろう。
では、協力よろしく。
「うわっ」
あははっ、ごめん。
他人の魔力が体の中で動き回るから、ちょっと気持ち悪くなるんだよな。
でも、一瞬だから。
「どうしたんだ?」
「分からないが……目が回る」
そんな大げさな。
大丈夫だよ、すぐに収まるから。
ドサッ。
「えっ?」
倒れた。
え~、なんで?
「何をしたんですか?」
俺のせい?
「魔力の質を調べようと思って魔力を流したら、倒れた」
「あのエルフに合わせて加減しましたか?」
えっ、加減?
「忘れてましたね。加減をしないと、あのエルフにとっては体内で魔力が暴走したのと同じですよ」
そう言われれば、そうだったような。
親玉さんにも飛びトカゲにも「我々だからいいが、気を付けた方が良い」と言われていたっけ。
でも、今まで実験させてもらった仲間達は、加減しなくても大丈夫だったから忘れてた。
「まぁ、数日寝込むぐらいだから」
「そうですね」
怪我を負っていたエルフを見る。
「悪いんだけど、ちょっと体内に俺の魔力を流していい? 今度はちゃんと加減するし」
俺の言葉に、戸惑った表情を見せるエルフ。
そういえば、名前はなんていうんだろう?
「名前は何?」
「ティナスです。えっと、魔力……」
ティナスの視線が、倒れて……痙攣しているエルフに向く。
まさか痙攣まで引き起こすとは思わなかった。
まぁ、……きっと大丈夫だ。
「大丈夫。彼のようにはならないよ。ちゃんと加減出来るから」
「分かりました。では、どうぞ」
そんな、覚悟を決めたような表情をしなくても大丈夫なのに。
「やるよ」
「いつでもどうぞ」
ティナスがギュッと目を閉じるのを見て苦笑してしまう。
本当に加減するから大丈夫だって。
そっと細くした魔力をティナスの中に入れていく。
うん。
これぐらいで大丈夫のはず。
では、とっとと調べよう。
「ありがとう。でも、違いは無かったな」
魔力の違いかと思ったのに。
だったら、何が半端なんだ?
もしかして、半端という意味では無かったのかな?
「違いですか?」
「そう。ティナスと他のエルフ達に違いがあるのか調べたんだけど、特に違いは無いんだよな」
ん~、見た目や魔力以外だと何だろう?
「あっ、そうか。ティナスに直接聞いたらよかったんだ。半端と呼ばれている理由は何?」
俺の言葉が聞こえたのか、倒れたエルフを介抱していたエルフ達から息を飲む音が聞こえた。
不思議に思って見ると、全員の顔色が悪くなっている。
半端という言葉は禁句だったのだろうか?
「俺はハーフなんです」
「へぇ」
「「…………」」
えっ、終わり?
つまり、ハーフという事に意味があるって事だよな。
ハーフは、エルフと人か獣人の間に生まれた子供という事でいいはず。
耳の形から考えると、ティナスはエルフと人の間に生まれたのかな?
……で?
「ごめん。ハーフだから何?」
「その、エルフは自分達の血に他の種の血が混ざる事を嫌っていて、それで俺は見た目が……あの、耳が人と同じ形なので。それが気に入らないと」
「ふっ、なるほど。くだらない理由ですね」
リーダーがエルフ達を見て、小馬鹿にしたように笑う。
「自らの種を誇りに思う事は悪い事ではありません。ですが、だからと言ってハーフというたったそれだけの理由で、他者を蔑むなんて。エルフという種を 貶(おとし) めているのは、あなた方の意識と行動ですね」
あらら、エルフ達の顔色がもっと悪くなっちゃった。
「反論は無いのですか?」
エルフ達を見るが、誰も声をあげない。
「エルフは、愚かな者が多いようですね。まぁ、こんな物を隠し持っていただけでも、それは証明されていますね」
ティナスがリーダーが手に持っている物を見て、息を飲んだ。
「あれが何か知ってるんだ」
「はい」
「ふ~ん。何?」
「あの……その道具を着けた者を、支配できます」
「奴隷を作る道具ですよね」
「はい」
リーダーの背後に何か見える。
黒いドロドロした何かが。
いや、目の錯覚なんだけど。
というか、殺気が!
「リーダー、落ち着こう」
「ウサやクウヒのような子供を作る道具なんですよね、これ」
うん、わかってる。
どんな道具なのか分かった瞬間、俺とリーダーは建物を吹っ飛ばしそうになったから。
でも、とりあえず話を聞こうという事になって、なんとか気持ちを落ち着けて来た。
まぁ、ティナスから「奴隷を作る」と聞いたら、落ち着かせた気持ちが吹っ飛びそうになったけど。
でも、もう少し話を聞いた方が良い。
誰がこれを集め、守るように指示を出したのか。
それに、ティナスが言った「家族に迷惑が」という言葉も気になる。