作品タイトル不明
49.オルサガス国 ハーフの騎士3
―オルサガス国 下っ端騎士ナピスラ視点―
ボコッ。
「えっ!」
リーダーと呼ばれたゴーレムの手の中で呪具が粉々になっている。
呪具には、特別な力があり壊す事が出来ない……はずなんだけど。
「あぁ、失礼。ちょっと力加減を忘れてしまいました」
「は、はい」
いや、力加減を忘れたからと言って粉々になる事は。
地面に落ちた、呪具の残骸を見る。
「あっ、呪われませんでしたか?」
呪具には、壊した者を呪う物があり。
確か、その呪具はそうだったはずだ。
「いえ、全く。あぁ、ちょっと何かが纏わりつきましたが、鬱陶しかったので消しました」
えっと、呪いって鬱陶しいという理由で消せるのか?
ゴーレムのリーダーを見る。
……消せるんだな。
さすが、森の神が作られたゴーレムだ。
あれ?
リーダー?
つまり……ゴーレム達のトップ?
そっとリーダーを見る。
ぱんぱんと手を叩いて、粉々になった呪具の残骸を払い落している。
なるほど、リーダーだから凄い力があるんだな。
「お前たちは何をしていた!」
あっ!
あの声は、ガルジャ副隊長だ。
足音から、こちらに向かって来ているのが分かる。
どうしよう。
今の俺を見たら。
「そういえば、家族に迷惑がかかると言っていましたが、なぜですか?」
リーダーは、建物の中から聞こえて来た声を完全に無視するように俺を見る。
「えっと、それは……」
正直に言う事は……出来ないよな。
「きっと、ティナスの態度で中で騒いでいる奴が彼の家族に何かするんじゃない? あぁ、あそこで震えているエルフ達も手を貸しそうだよね。もしかしたら、もっと権力を持った奴も関わっているかも」
もう1体のゴーレムの言葉に、体がビクリと震えてしまう。
あっ、こんな反応をしたら。
「そうみたいですね。ふふふっ、つまりティナスは人質を取られているという事ですね」
「い、いえ」
当たっているけど、認めるわけにはいかない。
でも、家族を助けてくれるなら……。
「人質を取って、反発を抑え込むんだ。すっごくあくどいね」
「貴様ら、ここを守れと言っただろう! なぜ、全ての呪具が壊れている! 誰の仕業だ~!」
えっ、全ての呪具が壊れている?
それって。
傍にいる2体のゴーレムを見る。
「見つかっちゃった! ごめんね。あれが何か分かった瞬間に、イラっとしてグチャってしちゃったんだよね。別に悪気があったわけじゃないんだ」
壊したのは、リーダーではなかったのか。
それにしても、全て?
確か、呪具の数は500個はあったはずだけど。
あれ全てをグチャって?
「なっ、何者だ! 半端? 貴様か~!」
「うわ~。凄い顔。見苦しい」
「そうですね。あれほどに醜いエルフは初めて見ました」
そっとガルジャ副隊長を見る。
確かに、怒りで目が血走っているので見苦しいと言えばそうかな?
でも、ガルジャ副隊長はよくそんな表情をするから、違和感を覚えないな。
鞭を振り上げる時のニヤついた表情より、マシだと思う。
「なんだ、このゴーレムは! おい、何をしている。早く操っている者を捕らえて、俺の前に連れてこい!」
「「「「「えっ」」」」」
エルフ達が、ガルジャ副隊長の言葉に震え始めた。
怒るかと思ったリーダー達は、なぜかジッとガルジャ副隊長を見ている。
「「……」」
俺も、ガルジャ副隊長の言葉に唖然とする。
森の神が操るゴーレムについては、ちゃんと報告がされているはず。
まさか、目の前にいるゴーレムが森の神のゴーレムだと気付いていないのか?
「あ゛ぁ~、なぜ、誰も動かん。このっ!」
いつも通り、ガルジャ副隊長は腰に下げていた鞭を取りだしゴーレムに向かって振り下ろした。
「やめっ」
バシッ。
リーダーが、ガルジャ副隊長が振り下ろした鞭を片手で掴む。
「なっ! この、離せ! ゴーレムごときが俺に逆らうのか! おい、早く操っている者をどうにかしろ、殺しても構わん!」
「「「「「ひっ」」」」」
何処からか、悲鳴が聞こえた。
だが、俺はそれを確かめる事が出来ない。
目の前にいる2体のゴーレムから感じる殺気で。
ごくりと唾を飲み込む。
「操る者を捕らえると言いましたか? しかも、殺す?」
リーダーが鞭を両手で持つと、左右に引っ張る。
ブチッ、ブチッ、ブチッ。
音を立てて引き千切られていく鞭に、顔が引きつる。
あの鞭は、魔物の革を使用し強化魔法が施されているため、通常の鞭より強度がある。
それが。
ブチッ、ブチッ、ブチッ。
ブチッ、ブチッ、ブチッ。
ブチッ、ブチッ、ブチッ。
ゆっくりと引き千切られる鞭に、恐怖で体が震える。
「なっ! ひっ!」
ガルジャ副隊長が、ここにきてようやく目の前のゴーレムが通常のゴーレムとは異なると気付いたようだ。
「ふふっ。ふふふふふっ」
リーダーが掴んでいた鞭を地面に落とす。
怖い。
ガルジャ副隊長を見ると、真っ青な表情で震えあがっている。
どうして、もっと早くに気付かなかったんだ!
「エルフ達は、主……森の神を殺すつもりなのですか?」
「違います! 王は森の神の意思を尊重し、森と共に生きると言っています!」
幼い時から半端と呼ばれ、苦しい事が沢山あった。
だから、こんな国はどうなってもいいと思ってきた。
なのに、どうしてだろう?
とっさに庇ってしまった。
自分の取った行動に、首を傾げる。
「ティナスは、エルフの国が好きですか?」
好きなんだろうか?
この国は、母の生まれた国で俺が生まれた国。
でも、俺はずっとエルフとして認められてこなかった。
「……分かりません」
「た、助け……たすけて……」
ガルジャ副隊長が、無様に腰を抜かしガタガタ震えながら俺を見る。
それを俺は、ただ見返す。
なんだか、馬鹿らしくなってきた。
こんな奴を俺は怖がっていたんだろうか?
「凄く無様な姿だね」
「そうですね。俺は、こんな奴に脅されていたんですね」
「家族を人質に取られていたのなら仕方ないですよ。ティナスは良く耐えました」
ティナス……違う!
「俺の名前ですが、ティナスでは無いです。母と父が付けてくれた名前はナピスラです」
ずっと名乗る事さえ許されなかった名前。
「そうなの? なのにどうしてティナスって?」
「こいつの上にオップル総隊長という者がいるんです。そいつが半端は全員ティナスと名乗れと。ティナスは昔の罪人の名前なんです」
俺達のような半端は、表の舞台に立つ事は無い。
だから、ティナスと呼ばれている事を王や王が信頼している者達は知らない。
時々、俺達のような存在が蔑ろにされていないか調べに来るが、調べる者が既にオップル総隊長に買収されていたり、脅されていたり。
ずっとティナスという名前は嫌だった。
でも、自然と自分の名前として答えるようになっていった。
どう頑張っても、何も変わらないと諦めたから。
「名前はとても大切なものです。それをオップル総隊長という者が奪った。許せませんね」
リーダーが、上空を見上げるのが見えた。
つられて見上げると、綺麗な青空が広がっていた。
そういえば、久々に空なんて見たな。
「そうだ。皆で王に会いに行きましょう!」
「えっ?」
今、なんて?
「あっ。それいいね。主に報告する前に、王に報告しておこう」
「えぇ、この国の王の意見も聞きたいですからね」
ちょっと待って。
王ってデルオウス王の事?
いや、どうして?
「そうと決まれば。仲間を呼びますね」
えっ、既に決定したの?
それに仲間?
リーダーが上に向かって手を振っている。
いや、上には何もいなかった。
というか、待って。
混乱してるから。
落ち着くまで。
ドン。
「えっ?」
上から下りてきた存在に、腰が抜けてその場に座り込む。
目の前には赤いボディに大きな顎を持つアビルフールミがいた。
しかも、かなり大きい。
「ひっ!」
「ぎゃぁ」
バタバタバタバタ。
あっ、震えていたエルフ達が逃げ出した。
「駄目ですよ。皆で王に会いに行くのですから」
「大丈夫。ほら」
逃げ出したエルフ達が、なぜか必死な形相で戻ってくる。
その後ろには黒いボディと6つの目を持つアルメアレニエ。
「親アリさん、親蜘蛛さん。ありがとうございます」
リーダーが、アビルフールミとアルメアレニエに向かって小さく頭を下げると、2匹は前脚をぴょんとあげて応えた。
仲がいいんだな。
あっ、ガルジャ副隊長が倒れた。