作品タイトル不明
45.リーダーが不機嫌だ。
ー三つ目の視点ー
主が、今日も記憶装置がある部屋に籠ってしまった。
地下神殿から受け取った情報を確かめるためらしいが、今日で3日目。
昨日は、戻ってきた主を見て驚いた。
これまでの主からは感じた事が無いほどの怒りを感じたから。
飛びトカゲが話を聞こうとしたが、最後まで話してくれる事は無かった。
「リーダー」
先を走る我々のリーダーに声を掛ける。
リーダーなら、何か知っているかもしれない。
「なんですか?」
あっ、失敗した。
主がリーダーさえ入れない空間に籠っているんだから、機嫌が悪くなっていて当然だった。
すっかり忘れて声を掛けてしまった。
この状態のリーダーに主の事を聞いたら……駄目だ。
主以外の話を、何か……。
「あっ、獣人達から受け取った壊れた装置は直ったんですか?」
確か獣人の国にある同じ装置と連絡が取れる物だったよね。
主の濃い魔力に壊れてしまったらしく、直してほしいと主にお願いされたんだ。
「えぇ。今日、獣人国にある装置に繋がるかテストするそうです」
怖い。
平坦な声で淡々と話すと、こんなに怖い印象になるんだ。
というか、リーダーはこんなテンションにもなれるんだね。
主の前では、いつもハイテンション気味だから知らなかった。
「そっか。それは良かった。ある……」
「主も喜ぶだろうね」なんて今は駄目!
え~っと、
「明日には結果が出るんですね。直っていたらいいですね」
焦った。
ん?
リーダーみたいな話し方になったような?
「そうですね」
怖いよ~。
今日の仕事は無事に終われるんだろうか?
不安だ。
「そろそろ、エルフの国ですね」
リーダーの平坦な声に、体がブルリと震える。
いや、元は岩だから震えないか。
でも、震えた気がしたんだけど。
「どうしました?」
「いえ! なんでもないです」
「そうですか」
汗をかく事は無いんだけど、手が濡れている気がする。
手汗?
いや、そんな事が岩の体を持つ俺に起こるはずがない。
そっと、自分の手を見る。
うん、気のせいだ。
「さて」
ひっ!
いやいや、リーダーにこんなにビビってどうするんだ?
ちょっと機嫌が、かなり……すこぶる…… 甚(はなは) だしく悪いだけじゃないか!
お家に帰りたい。
家に戻って、今年の冬のコートを縫いたい。
そうだ、革を組み合わせてかっこいいデザインにしたいな。
ん?
あっ、リーダーに見られてる。
「エルフは、気配に敏感です。気を付けてくださいね」
「はい」
うん、しっかりしないと。
今日はエルフの国に侵入、ではなくちょっとお邪魔して色々探って……いえ、調べていく予定。
今は、主が過ごしやすくするために、各国の事を調べる必要があるのです!
前に、主の事を知るために平凡という物を調べて回りました。
が、断念。
人、獣人、エルフ。
この3つの種族には違いがあり過ぎた!
そのため、探れば探るほど求める答えが遠のき諦める結果に。
でも、諦めません!
いつかきっと、主の言う平凡を理解してみせます!
「三つ目。そういえば、名前は決めたんですか?」
あぁ、そうでした。
個々で動くことが増えてきたので、名前を決めるように言われたんだよね。
今全員に名前があるのは農業隊だけですからね。
ただ、あれは番号だと思うのですが……彼らが満足そうなので、反対はしないけど。
「えっと、『あんちゃん』にしました」
家族に頼られる人はあんちゃんと呼ばれるらしいです。
俺は、周りから「もう少ししっかり」と言われるので、頼られる存在になるためにあんちゃんになる!
「あんちゃんですか……まぁ、そうですね。分かりました」
あのリーダーが少し戸惑ったような?
別におかしな名前じゃないと思うけど、変だっただろうか?
「変ですか?」
「いいえ、良いと思います。その名を付けた理由も想像できましたし、理想は高い方が良いと言いますから」
ん?
これって、褒められてないような気がするけど。
「では、あんちゃん。行きましょう」
まぁ、いいか。
「はい」
目の前にあるエルフの国を守る結界を、いつものように通り抜ける。
そして、姿が見えないように阻害魔法を掛けると、調査準備は完了。
ただし、この阻害魔法はまだまだ不安定。
ちょっとした衝撃で、解けてしまう。
だから、魔法が解けた時の事を考えて、物陰に隠れてエルフの国を調査。
まぁ、何度もエルフの国にはお邪魔してるけど、今まで見つかった事は無いから、大丈夫でしょ。
で、エルフの国に入りましたが……なんだか重苦しい雰囲気です。
視線の先には4人のエルフ。
全員が建物の前で剣を持って、周りを警戒しています。
「あんちゃん、どう思いますか?」
「あの建物の中を調べるべきだと思う。きっと、何かあるよ」
「ちょっと近付いてみますか」
リーダーが物陰から、そっと傍にある建物影に走り抜ける。
流石の速さ。
一瞬だ。
あれ?
エルフの1人がこちらを見てるけど、まさか気付いた?
あっ、リーダーが呼んでる。
行かないと。
足に力を入れて、エルフ達の視線が逸れた一瞬の隙をついて、リーダーの下へ。
エルフ達の様子を窺うが、バレてない。
けど、1人だけ様子が変。
「あのエルフですが、様子がおかしいですね」
リーダーも気付いているみたい。
「うん。気付いたのかなって思ったけど、見てる方向は此処じゃないから別の事だね」
「えぇ、そうですね」
リーダーと俺は、エルフが見ている方を見る。
俺達が元々いた方向だけど、特に気を引くようなものは無い。
一体、何が気になっているんだ?
「なんだ?」
エルフの声に視線を戻す。
1人だけ、建物から離れてこちらに近付いてくる。
「おい、何をしてるんだ! 持ち場を離れるな!」
他のエルフが、こちらに向かって来ていたエルフに怒鳴る。
「今、そこに!」
そこに?
エルフが指す方を見るが、やっぱり何もない。
リーダーを見るが、リーダーも不思議そうに首を傾げている。
「はっ?」
1人のエルフ以外も、不思議そうな表情を見せる。
「だから、何かいただろう?」
エルフの質問に、3人のエルフが首を横に振る。
「気になるので、森の中を見てきます」
リーダーの言葉に頷くと、目の前からリーダーの姿が消える。
速い。
俺も、もう少し鍛えよう。
カチャッ。
「んっ?」
金属音が聞こえたので見ると、先ほど森を見ていたエルフが剣を鞘から出して森に向けていた。
残りの3人も戸惑いながら、剣を抜いて森へ向ける。
「なんだよ。なにかいるのか?」
エルフの叫び声が周りに響く。
「いただろ! 今!」
今?
エルフ4人と俺とリーダー以外に、誰もいなかったけど?
「本当か? 俺には見えてない!」
「俺だって見えてないけど、何かいる気配がするんだよ。風だって変な起き方をしただろうが!」
エルフは4人とも見えてないのか。
でも、気配がすると。
俺とリーダーが分からない気配。
きっと只者では無い。
そして、それを察知するあのエルフの1人も。
「風ってなんだよ」
「今、風が吹き抜けただろうが!」
エルフ2人の会話に首を傾げる。
「風?」
そういえば、リーダーが森へ駆けて行った時に風が吹き抜けた。
でも、それはしょうがないんだ。
走り抜けると、どうしても風が動いてしまう。
あっ、まさか!
あのエルフの感じている気配って、
「あっ、帰って来た」
ふわりと風が通り過ぎると、森から戻って来たリーダーが傍にいた。
「異変は何もなかったです」
リーダーの言葉に頷いて、気配を感じていたエルフを見る。
「ひっ。また」
うん、これは間違いなく俺たちが動く時に起こす風に反応してる。
「どうしました?」
「あのエルフですが、俺達が動く時に起きる風に反応してるみたい」
俺の言葉に、リーダーの視線が指したエルフに向く。
そして、エルフの隣を駆け抜け戻って来た。
「ひっ!」
エルフの怯えた声に、リーダーの気配が少し楽し気なものに変わる。
「確かに風に何かを感じてますね。ほ~、初めてです」
俺も初めてだな。
「何をしている!」
新たにエルフが3人、こちらに来ていたのには気付いていたけど、まさか急に怒鳴るなんて。
あぁ、ビビっていたエルフが飛びあがってる。
「「「「すみません」」」」
頭を下げる4人のエルフから、新たに現れた3人のエルフを見る。
「品が無い」
新しく現れた3人の中で、先頭に立つエルフを見てつい言ってしまう。
だって、きらきらとした装飾まみれの服は、無駄が多く美しくないしカッコよくもない。
ゴテゴテが好きでも限度がある。
全くもって品が無い!