作品タイトル不明
40.認められたらしい。
深呼吸をして気合を入れてから、腕に巻き付いている物に触る。
触った瞬間、爆発とかしないだろうな。
びくびくしながら、そっと指で確認していく。
とりあえず、早く外そう。
あれ?
金具も切れ目も、ない?
「嘘だろ」
どうやって、着けたんだ?
腕に巻き付いている物を、くるりと1周させる。
「無い。金具も切れ目も無い! はぁ、本当に何なんだよ」
「主、魔石と関係があるのではないか?」
確かに、コアの言う通りだな。
魔石に力を注いだ後で、これに気付いたんだから。
妖精なら、これが何か分かるんじゃないか?
「これが何か分かるか?」
妖精に見えやすいように移動すると、妖精がじっと腕に巻き付いている物を見る。
「形が違うんだけど……あれかな?」
形が違う?
「うん、間違いない。それは、魔石から主として認められたから、証として贈られたんだよ。まぁ、あれだけ大量に力を注ぎ込んだんだから、当然だけどね」
魔石から送られた証?
「つまり、主導権を取れたのか?」
「そう」
もう一度、腕に巻き付いている黒い物を見る。
主導権は取れたのは嬉しいが、もう少しデザインは無かったのか?
どう見ても、真っ黒な3㎝ほどの板が手首に巻き付いているようにしか見えない。
素材は、見た感じは光沢があって金属みたいだけど、触った感じはプラスチックなんだよな。
コンコン。
軽い音だな。
「これは、外せないのか?」
「認められた証だから、無理じゃないかな」
くそっ、無理か。
「それなら、デザインを変える事は出来ないか?」
この黒い板はちょっと嫌だ。
「それは出来ると思うよ。前に着けていた奴らは、ペンダントにしたりブレスレットにしたり、形を変えていたから」
そうか。
変えられるのは、良かった。
「あれ? 妖精は視界が塞がれていたんだよな? どうして形が変わった事とか、知っているんだ?」
視界が塞がれて見えていないはずなんだけど……。
「目の前で、奴らが自慢してたから知ってるんだ。馬鹿みたいに形を変えた時も、見せられた」
ん?
「自慢?」
「そう、奴らがこの空間を作って魔石を起動させたのに、魔石からはなかなか主として認められなかったんだ」
えっ、見習いの奴ら、すぐに認められなかったの?
うわぁ、可哀そう。
ん?
「コア、何だ?」
「主、顔が笑っておるぞ」
「あはははっ。それは仕方ないよ」
面白い話を聞けたから。
「それで?」
「何とか認められて証を手に入れた時に、自慢気に見せてきたんだ」
自慢気にって、やる事が小さいな。
「証をもらうのは、そんなに大変なのか?」
すぐ貰えたけど。
手首に巻き付いている黒い板を見る。
証と言われても、黒い板にしか見えない。
このデザイン、凄さが伝わってこないんだよな。
「主様の力なら当然」
力か。
なるほど。
「教えてくれてありがとう。よしっ、とりあえずデザインを変えよう!」
「主様、まだ無理だと思うよ」
妖精の言葉に、視線を向ける。
なんで?
「主導権を完全に掌握しないと。今は、まだ主様の力がこの空間に行き渡っていないから」
妖精の言葉に、空間を見回す。
そういう事ならしょうがないけど、残念。
「どれくらいの時間がかかるか分かるか?」
この空間、どうも力が掴みにくいんだよな。
「ごめん。それは分からないけど、その腕の装置で指示が出来るようになったら、終わったという事だよ」
指示が出来るようになったら、か。
「指示はどうやって出したらいいんだ?」
「言葉で命令してたよ」
「分かった、ありがとう。少し様子を見るよ」
「うん。主様、役に立った?」
「ん? もちろん」
「うほぉ~」
無視だ、無視。
足元でころころ転がる妖精から視線を逸らす。
コアがじっと、腕に着いている黒い物を見ている事に気付く。
見やすいように目の前に持ってくると、香りを嗅いで首を傾げた。
「何か匂うのか?」
腕を鼻に近付け、香りを嗅ぐ。
……無臭だよな?
まぁ、コアと俺の鼻では嗅ぎ分ける能力に雲泥の差があるけどな。
「懐かしい香りが微かにする」
懐かしい香り?
俺には無臭だけど、コアには分かるのか。
「どこかで嗅いだことがある香りなのだが。どこだったか」
コアが眉間に皺を寄せて考え込み始める。
チャイも、俺の腕に顔を近付け香りを嗅ぐ。
だが、チャイには分からないのか首を傾げた。
「俺には何も匂わないけどな」
そうなのか?
フェンリルだけに分かる香りとかあるんだろうか?
「あっ、思い出した。死者の花の香りだ」
また物騒な名前の花だな。
しかも何、その死者の花の香りがする物を俺は腕に巻き付けているのか?
腕を振り回してみる。
当然、取れるわけが無いんだが。
「コア、その死者の花というのは、何だ?」
チャイは知らないのか?
「死者の花は、森の奥にある洞窟の中で咲く花だ。森が魔眼に襲われたせいで全て枯れてしまったが。なぜそれから死者の花の香りがするのか、不思議だ」
洞窟の中に咲く花か。
ちょっと見たかったかも。
「どんな花が咲くんだ?」
「赤い花弁は細く、真ん中の白い石を囲んでいるんだ。葉っぱは花が咲いている時は無くて、花が咲き終わったら、白い葉っぱをつける。それも美しいんだ。そして、何より香りが良い」
もう一度腕に鼻を近付け、匂いを嗅ぐ。
やっぱり匂わない。
「全て枯れてしまったなら、もう見られないな」
「そう思っていたが、それから香りがする。地下神殿のどこかに死者の花があるのかもしれない」
この空間に?
と、その前に。
「どうして死者の花と呼ばれているんだ?」
綺麗な花に、いい香り。
死者という言葉が、似合わないと思うんだが。
「香りに誘われて洞窟に入り、花に魅入られ気付いたら花の栄養になっているからだ」
死者の花という名前がぴったりだった。
気付いたら栄養って、誘われたら駄目じゃん。
「コアは詳しく知っているけど、見た事があるのか? ここにいるから、魅入られたわけではないみたいだけど」
「見た事はある。花を見てクラっとしたが、大丈夫だったな」
クラっとしたなら、大丈夫とは言わないと思うが。
「チャイ達やアイ達は、気を付けた方が良いだろう」
それは、花に魅入られる可能性があるという事か?
「チャイ、気を付けろよ」
「分かった」
よし。
でも、そんな危険な花がこの地下神殿にあるかもしれないのか?
「妖精」
「なに、なに」
嬉しそうに転がるな。
「この地下神殿で、花が咲いている場所はあるのか?」
この神殿の周りに木々はあったが、花らしき物は無かった。
「あるよ。地下3階は、花畑だから」
地下3階?
ここは地上から階段で下りてすぐだから、地下1階だな。
「この地下神殿は何階建てなんだ?」
「地上1階、地下4階だよ」
4階まであるんだ。
あの、イラっとする通路で階段を探す必要があるのか?
「ここより下には、どうやったらいけるんだ?」
「この空間の隅に階段があるから、そこから」
良かった。
でも、隅?
妖精が視線を向ける方を見る。
地下に続く階段は見当たらない。
見えるのは壁と床だけ。
「隠し階段か」
「そう。主様が持っている証が、鍵だよ」
妖精が俺の腕にある黒い板を見る。
「これが鍵?」
「そう。鍵としての機能は、既に使えると思うよ」
「分かった」
妖精が教えてくれた空間の隅に行き、腕に着いている物を……板に力を籠める?
それとも、どこかに翳すのか?
「主様、壁に証を近付けて」
妖精の指示に従って、傍の壁に黒い板を近付ける。
ピッ。
シュッ。
「あった」
ちゃんと鍵の機能が使えたようで、壁から音が聞こえると床の一部が消え、階段が姿を見せた。
「これが地下に続く階段、地下2階は何も無くて、地下3階は花畑。地下4階は変な空間だった」
妖精の言葉に首を傾げる。
地下2階には何もないのか?
見習い達の考える事は、さっぱり分からないな。
「とりあえず、行ってみるか。妖精はこの地下1階の空間から出ても問題ないか?」
色々聞けるので、一緒に行って欲しいんだけど。
「大丈夫」
「それなら行くか」
あっ、死者の花の香りはするんだろうか?
「コア、花の香りはするか?」
「……いや、しないな」
それならチャイも一緒に行けるな。