作品タイトル不明
39.3つの空間
「この地下神殿からは3つの空間に行けるんですよ。もう行きました?」
3つの空間?
妖精を見ると、俺の目の高さでふわりふわりと浮かんでいる。
ただ、よく見るとかなり必死な印象を受ける。
そろそろ飛ぶのは限界なのかもしれない。
妖精の3重に並んだ牙を思い出す。
ちょっと怖いような気もするが……目の前の妖精からは不穏な物は感じない。
だから、問題ないはず。
「ふらふらじゃないか。おいで」
腕を広げると、ふわりふわり。
ふわり、ふわり。
「えっと、抱っこするな」
手を伸ばせば届く距離だから、すぐに傍に来ると思ったが無理だった。
妖精にはこの距離も、移動は大変らしい。
「わぁ、主様の腕の中だ~!」
さっきも思ったけど、落ち着きがないな。
「ちょっと落ち着こうか」
妖精を、落ち着かせるようにゆっくりと撫でる。
「うわわわぁ」
動かしていた手を止める。
何もしないほうがいいな、これ。
よしっ、意識を切り替えよう。
3つの空間が気になるから、聞いてみるか。
と言っても、おそらく1つは古代遺跡で、もう1つは森の中だと思うんだよな。
ただ、最後の1つが全然思いつかない。
「妖精。3つの空間はそれぞれどこに繋がるんだ?」
最後の1つが核に繋がっていたら、呪いが解けるんだけどな。
「えっと、森と古代遺跡と墓場だよ」
2ヶ所は正解したな。
というか、墓場って何?
「墓場って?」
「さぁ、私が一切かかわっていない場所。ここを作った奴らも、最後の方はなぜか怖がっていたような気がする」
見習い達が怖がっていた場所?
墓場?
誰かの遺体でも安置されているのか?
……神様とか天使とか?
止めてくれ。
そんな不穏な物はいらない。
でも、聞いてしまった以上は確認しておかないと駄目だろうな。
「……はぁ」
聞くんじゃなかった。
いや、この世界の事を知る必要があるのは知っている。
俺と光の力でこの世界が回っている以上、知らなかったでは許されない。
それに俺に何かが起こった後、この世界を支えるのは光だ。
光に、この世界の問題を残すわけにはいかない。
まぁ、遠い未来の話なんだろうが。
……俺より光が先に、なんてことは無いよな?
「妖精は墓場への行き方は知っているのか?」
「えっと……確か、古代遺跡の道を開けると、墓場への道が開くんだ。ただし、その時には森への道はしっかりと閉めておく必要があるんだよ」
道を開ける? 閉める?
今の言い方だと、自由に開け閉め出来るという事か?
それだったら、地下神殿を探す手間が省けて楽なんだが。
「この地下神殿は自由に出入りが出来るのか?」
「主導権を掴めば、問題ないと思うよ」
主導権か。
……今は、どうなっているんだ?
誰が主導権を持っているんだ?
「今は、誰が主導権を持っているんだ?」
「えっ、今は誰もいないよ? だってこれを作った奴らの力は完全に消費されてしまったから。だから、自動操縦に切り替わっていると思う。それもそろそろ限界のはずだけど」
つまり、力を与えたらこの地下神殿の主導権は握れるという事になるな。
でも、何に力を与えるんだ?
「もしかして魔石か?」
この空間にある魔石。
確か、コアが力が使い切られていると言っていた。
「妖精、あの魔石に力を籠めればいいのか?」
空間の一番奥に置かれている魔石を指す。
「えっと……たぶん。あいつらが、ここに来る時は視界が塞がれていたから、よく分からないんだけど。でも、この空間で何かしてたのは間違いないから、あれだと思う」
視界を塞がれていた?
見習い達が、そんな面倒な事をするか?
「さっきから妖精が言っている、あいつ等って誰か分かるか?」
「神様の偽物。あいつらがこの世界を作ったけど、その資格はなかった。だから偽物」
妖精は知っていたのか。
見習い達に、この世界を作る資格が無いと。
それを知られたから、視界を塞いだのか?
でも、視界を塞ぐという事は、姿を見られたくないからだと思うんだが、どうしてだ?
今は外にいるが、妖精は結界箱から本来は出られない。
姿を見られたところで、恐れる必要は無いと思うんだが。
「妖精には、空間を浄化する以外に何か力があるのか?」
「……さぁ? 知らない」
知らないって、自分の事なのに?
あっ、この妖精は本来の妖精とは異なる存在になっている可能性があるんだったな。
俺の力が原因という事は、俺の責任?
いやいや、責任は負わないからな。
「とりあえず、魔石に力を送り込んでみるか。魔石に力を籠めるのは、いつもしてるから問題ないけど、問題は魔石の大きさだよな」
目の前にある魔石を見る。
魔物から取れる魔石は掌サイズ。
これは……何倍になるんだ?
「妖精、ちょっと地面に置くな」
丸いから転がりそうだよな。
そっと。
「うわわぁ、あぁぁ」
転がってしまった。
「大丈――」
「主様に転がしてもらえた~!」
無視だな。
いつもは魔石を握り込んでいるけど今日は魔石に手を当てて、後は魔力が俺から魔石に流れるイメージを作れば自然と流れるからな。
おっ、流れ出した。
さすがに毎日やってるから、慣れたな。
「うわっ、凄い勢いで俺から魔力が流れているな」
あれ?
流れているのは魔力だけじゃないみたいだな。
俺が持っている魔力以外の力も流れているな。
……これって、大丈夫かな?
まぁ、もう流れてしまっているから手遅れだけど。
「困ったな。魔石に力が溜まっている気配を感じない」
おかしいな。
この魔石には力が溜まらないのか?
それにしても、俺の力も途切れないもんだな。
魔石に流れるスピードと同じスピードで作られているのが分かる。
いきなり魔力切れになったりしないだろうな。
このまま流していいのか、不安になって来た。
「……、……よしっ、いったん止めよう」
うん、本気で怖くなった。
「主、大丈夫なのか? 見てて、恐ろしかったんだが」
コアを見ると、表情が強張っているのが分かった。
チャイや子蜘蛛や親蜘蛛達を見る。
どうやら俺より、恐怖に駆られていたみたいだ。
「大丈夫だ」
たぶん。
「本当に? 我々には凄い量の力が魔石に移動したように感じたんだが」
「あぁ、かなり凄い量だったな。俺も途中からビビってた」
胸に手を当て、体内にある力を探る。
まだ十分な力を感じる。
つまり、もう少しぐらいなら魔力の移動は可能だろう。
ただし、限界を知らないので急に力の枯渇で死ぬ可能性もあるが。
「魔石が光りだしたぞ」
チャイの言葉で魔石を見ると、確かに白や青、赤い色で光りだした。
魔石に俺の力が溜まった気配を感じなかったけど、ちゃんと溜まってくれてたみたいだな。
もしかしてこの魔石、かなりの量の力を溜めこむことが出来るのか?
そっと魔石に触ってみる。
「えっ?」
微かに感じる振動に、魔石に顔を近付ける。
トクン、トクン、トクン。
「なんだか、生きてるみたいな音だな」
トクン、トクン、トクン。
ぽんぽんと魔石を叩く。
今まで見てきた魔石とは、ちょっと違う。
「ところで妖精」
「どうしたの!」
「力を与えたが、これからどうすればいいんだ?」
主導権は俺になったのか?
それとも、力を魔石に与えた後に何かしないと駄目なんだろうか?
「ん~」
地面に転がっている妖精を見る。
……どうやら、これ以上の事は知らないみたいだな。
「魔石、力を与えたのは俺だ。だから俺に従ってくれ」
まぁ、これで主導権が握れたら、凄いよな。
というか、何とか主導権を取りたいんだが。
あれ?
視界に入った自分の手に違和感を覚える。
なんだ?
「腕時計?」
いつの間に?
いや待って、俺はこんなのをした覚えはないし、よく見ると腕時計じゃない!
「なんだこれ」
腕に巻き付く……3㎝ほどの黒い、何これ。