作品タイトル不明
38.ふわり、ふわり
結界箱に妖精がぶつかる音を聞きながら、魔石が置いてある空間を隅々まで調べる。
特に、怪しい所は見つからない。
「あんなに体当たりされても、潰れないんだな」
コアに聞いたところ、絶対に壊れないように出来ているらしい。
それなら安心と空間を調べたのだが、鳴り続けるぶつかる音に少しずつ怖さが増してしまう。
とっとと調べて、この空間から出よう。
「あれは、妖精を永遠に捕まえておくために作られている。あれ位では、壊れない」
永遠に?
それはそれで、ちょっと可哀想な気がする。
そういえば、どうして捕まえておくんだ?
「コア、妖精には何か力があるのか?」
「空間を浄化する力がある」
あの妖怪にしか見えない見た目で?
「本当に?」
「あぁ。長時間放置されていたこの空間に入った時に、ほんの少しでも不快を感じたか?」
不快?
……そんな印象は受けなかったな。
「全く不快感は無かったな。魔力を含んだ風を感じたぐらいだ」
「それが妖精の力だ」
なるほど。
地下神殿の柱にも妖精がいたのも、地下空間を浄化させるためか。
「それと、妖精のいる空間に負の感情を抱かせない力があるとも聞いた」
負の感情?
結界箱に体当たりをしている妖精を見る。
「それは、あまり力を発揮していないんじゃないか?」
さっきからあの音が、不快でしょうがないんだが。
「ん~、妖精にはそれほど強い自我は無いと言われている。だから、なぜあんな行動をとっているのか分からない」
コアが分からないなら、仕方ない。
それにしても、あの妖精は絶対に俺の事が嫌いだよな。
俺に威嚇しては、結界箱に体当たりしてるんだから。
この空間に入ったからか?
いやそれなら、他の仲間達を威嚇しないのは変だよな。
他に原因として考えられるのは……。
「見習い達か?」
見習い達は、俺を巻き込んだせいで色々な悪事が発覚した。
最終的には、身分を奪われて……どうなったんだっけ?
えっと、この世界とは関われないようになったんだよな。
あの妖精が、見習い達を大好きだったとしたら俺が憎いかもしれない。
もしそうなら、理不尽だ。
勝手に巻き込んだのは、見習い達なんだから。
あっ、イラっとした。
「コア、とっととこの空間から出よう」
俺の精神的な平穏のためにも。
「そうだな。何もないようだし」
「皆、ここから出よう」
それにしても、地下神殿を作った理由は何なんだ?
作りたかっただけ?
ん~、見習い達が作った洞窟を見てきたが、それぞれに役割があった。
それを考えると、この地下神殿には重要な役割があるような気がするんだが。
見習い達が作った物の中で、断トツで力が入っている事が分かるからな。
バチン…………バチン…………バチッ。
ん?
今、これまでと異なる音が聞こえたような気がする。
気のせいだよな?
「主! 結界箱が!」
やっぱり、嫌な予感はしたんだよ!
結界箱を見ると、小さなヒビが広がっているのが見えた。
やばい、これは非常にやばい!
襲って来るって言ってたよな。
「5重結界!」
俺と仲間達の周りがふわりと光る。
これで襲われても怪我はしないだろう。
バキバキバキバキッ。
バラバラバラ……ドン。
結界箱の大きな欠片が落下した音に、仲間達がすっと攻撃態勢になった。
「出られました~」
緊張感が漂う空間に、やたら元気な声が不意に響く。
それに全員が固まる
「「「「「……えっ?」」」」」
今の声は……まさか、妖精?
「よっと、あれ? うわぁ」
コロコロコロ。
目の前で、結界箱から転がり落ちる妖精。
結界箱の中ではふわふわ浮いていたから、飛べると思ったんだが飛べないのか?
「失敗した! はっ、お会いしたかったです、主様~」
ふわりと浮いた妖精が、きらきらした目でこちらに向かってこようとする。
一気に距離を詰められる可能性を考え構えたが……上に下にふわり、ふわり。
ん?
ふわり、ふわり、ふわり。
ふわり、ふわり、ふわり。
結界箱の前で上下に動く妖精。
多分、妖精は必死に俺の元に飛んで来ようとしているんだろう。
ただ、なかなか前に進まないだけで。
どうも、目の前の妖精の飛び方に問題があるようだ。
上に下にふわりと飛ぶが、前にはほとんど進まない。
なのでいつまでたっても同じような場所でふわり、ふわりと浮いている。
正直、肩透かしを食らった気分だ。
「ずっと、ずっとお会いしたかったのです! あの時、私は主様に命を救われて。はぁ、はぁ。ちょっとお待ちくださいね」
あの時? 命?
詳しく聞きたいが、全身で呼吸している妖精には聞きづらいな。
「あぁ、ゆっくり休憩していいぞ」
結界箱から俺の所まで、5メートルぐらいかな?
一気に飛んでくるかと思ったが、1メートルほど飛ぶと床に下りて休憩を始めてしまった。
妖精は想像以上に体力が無いらしい。
いや、飛び方に無駄が多すぎるからか?
どちらにせよ、辿り着くまでに時間がかかりそうなので迎えに行こう。
「襲って来るんじゃなかったか?」
「そう、聞いている。というか、妖精が話すとは聞いた事が無い」
コアにそっと話しかけると、コアもかなり困惑しているのが分かった。
さて、予想外の事が起きているようだが、これはどうしよう。
妖精の様子を見る限り、襲い掛かってくる様子は無い。
というか、こんなに遅くてどうやって襲い掛かるんだ?
「大丈夫か?」
「大丈夫です! 我々妖精は……えっと……あれ?」
どうしたんだ?
我々妖精はの続きはなんだ?
「妖精ってこんな感じでしたっけ?」
いや、それを俺に聞くのか?
「悪い、妖精という存在に今日初めて出会ったから分からない」
「そうですか」
残念そうに落ち込む妖精。
いや、俺は悪くないよな?
えっ、知らないと駄目なのか?
「お主は本当に妖精か? 我が聞いた妖精とはかなり異なるようだが」
コアが鼻先で妖精を突く。
それに「きゃっ、きゃっ!」と言いながら床を転がる妖精。
どうしてだろうな、ちょっと可愛く見えてきた。
「転がさないで! それと私は妖精です! ちょっと本来の妖精とは違うようですが、本当に妖精です!」
「やっぱり違うのか」
妖精本人が、本来とは違うと言ってしまったな。
コアもそれで納得しちゃったし。
「変わるきっかけがあるのか?」
そうだ、何があったんだ?
「おそらく、命を救ってくれた主様に『絶対に会ってお礼を言う!』と強く心に刻んだら、いつの間にか意識がはっきりしていき、気付いたら今のように話せるようになってました」
えっとつまり、この妖精の思いが自我を強くしたという事でいいんだよな?
そういう事だよな?
「主の魔力が、妖精の自我を強くしたのか?」
えっ?
コアの言葉に、首を傾げる。
俺の魔力が原因?
いや、妖精はそんな説明をしていないよな?
「強い思いが、自我を強くしたんじゃないのか?」
俺の言葉にコアが首を横に振る。
「本来の妖精なら、『絶対に会ってお礼を言う!』とは思わないはずだ。主の魔力で妖精が進化したんだろう」
マジか。
ふわりと浮いている妖精を見る。
進化したのか。
「主様! 絶対に主様の邪魔は致しません。なのでお傍に置いて下さい」
俺の魔力が原因で進化したみたいだから、面倒は見た方が良いよな。
「仲間と仲良く出来るなら、良いぞ」
本来の妖精は襲い掛かってくるみたいだけど、それは無いみたいだし。
問題は無いだろう。