作品タイトル不明
37.イラつく!ムカつく!
コンコン。
コンコン。
「本当にただの壁だな」
壁をあちこち叩いてみたが、普通の壁だ。
ただ、淡く光っているだけ。
ちょっと、イラっとするな。
「仕方ない、戻ろうか」
コア達も残念そうな表情をしている。
全く、無駄な物を作りやがって。
「あれ? 主、戻っちゃうの?」
ん?
声の聞こえた方に視線を向けると、壁に子蜘蛛がいた。
視線を上に向けると、階段を率先して下りた子蜘蛛が天井にいる。
あぁ、別の子か。
「戻るのですか?」
子蜘蛛と反対の壁には親蜘蛛の姿もある。
不思議そうに見る親蜘蛛に頷く。
「あぁ、この先は行き止まりだったから」
子蜘蛛と親蜘蛛が不思議そうに、廊下の奥を見る。
やっぱり不思議に思うよな。
行き止まりなら、なぜ光らせたって!
期待だけさせやがって。
「戻ろう」
俺の言葉に子蜘蛛と親蜘蛛が方向転換をして、元来た壁を戻り出す。
小さい蜘蛛だったら軽いから違和感はないが、親蜘蛛の壁を移動する姿はまだ見慣れないよな。
垂直なのに、よく壁から落ちないよな。
カチッ。
「えっ? 何の音だ?」
今、何かを押した音が聞こえた気がするんだが。
コア達も周りを見回しているが、音の正体が分からない。
「あっ、親蜘蛛の脚元に……」
チャイの言葉に、壁にいる親蜘蛛の脚元に視線が集まる。
「壁の一部が引っ込んでるな」
親蜘蛛の脚元の壁の一部が、壁の中に押し込まれている。
間違いなく、先ほど聞こえた音の正体だろう。
これは、ボタンだろうか?
周りを見るが、特に廊下に変化はない
「特に変化はないな」
カチッ。
ん?
あぁ、親蜘蛛が脚をどけたのか。
もう一度廊下を見回す。
「何もなし? 音だけ?」
なんだか、見習い達に遊ばれている気分だ。
ムカつく!
「戻ろう」
とっととこの場所から出よう。
カチリ。
また!
というか、俺だ!
足元を見ると、床の一部を押している。
どうせ、何も起こらないんだろうな。
カチリ。
「開いた」
えっ?
コアの声に視線を向けると、コアの視線は俺の後ろの壁に向いている事に気付く。
何があるんだ?
そっと後ろを窺うと、壁の一部が消えていた。
「壁がなくなる時こそ、音を鳴らすべきだろう」
今まではカチッとかカチンとか音がしてたくせに。
大きく息を吐いて、どこか釈然としない気持ちを吐き出す。
「道が出来たな。無駄足にならずに済んでよかった」
出来た道に近付くと、パッと灯りが付く。
「また廊下? しかもさっきと同じ光景……はぁ」
今度こそ、廊下の先の光った壁には何かあるのか?
次は、通り抜ける事が出来て部屋が現れるとか。
まぁ、期待しないほうがいいだろうな。
「行くか」
新しく出来た廊下を突き進む。
真っ白な壁に真っ白な天井。
さっきとまったく同じ光景にちょっとうんざりする。
「この先に何かあったらいいが」
カチン。
えっ?
今度はどこだ?
音の発生源を探そうとすると、右側の壁がふっと消えた。
行き止まりまで行かずに済んだ。
これはラッキーだな。
「私が押してしまったようだ」
天井から聞こえた声に視線を向けると、子蜘蛛が困惑した様子で自分の前脚を見ている。
そこは、天井の一部分が凹んでいた。
「気にするな。行き止まりまで行かずに済んだんだから、よかったんだ」
頷く子蜘蛛を確認して、消えた壁の向こうを見る。
それにしても、仕掛けのスイッチが天井?
普通なら、そんなところを歩く事は無い。
本当に見習い達は性格が悪いよな。
「あれ?」
壁に近付くと、風を感じた。
しかも、魔力を含んだ風。
「魔力を感じる」
パッと灯りが灯ると、今までとは異なる風景にぐっと手を握る。
やったぁ。
また廊下が現れたら、引き返すところだった。
明るくなった空間を見る。
随分と広い空間が視界に入る。
そしてその中央に、巨大な透明の筒のような物が見えた。
ここからでは遠いのでよく見えないが、筒の中に何かがいるようだ。
「水槽?」
ポコポコと空間から音が聞こえる。
注意深く周りを見て空間に足を踏み入れ、魔力で周りを探ってみる。
「よかった。魔法が使えた」
自分の魔力が空間に広がり、危険な魔力が無いか異常に魔力が集まっている場所が無いか調べていく。
結果は異常なし。
引っかかる魔力もないし、魔力が集まっているところも無し。
この空間に、仕掛けは無い。
見習い達が余計な事をしていた場合は、分からないが。
「とりあえず、安全だと思ってもいいだろう」
いつ頃からか、出来るようになった危険場所のチェック。
この魔法は不思議なんだよな。
本当に知らない間に出来るようになって、無意識で使っていたんだから。
「どうした?」
不思議そうなコアに、首を振って応える。
「なんでもないよ。それより、この空間は魔法が使えるみたいだ」
「そういえば、この空間には魔力が流れているな」
「あぁ、魔法が使えないとちょっと不安だったからよかった」
空間の中央にある水槽に近付くと、やはり何かが泳いでいる。
何だろう?
「げっ」
泳いでいる物の正体が分かった瞬間、数歩後退りする。
まさか妖精の巨大バージョンが泳いでいるとは思わなかった。
『ぐわっ』
水槽の中で、こちらを向いて口を開いた妖精。
「うわ~、マジで牙がならんでる」
その口の中には鋭い牙がびっしりと並んでいた。
しかも、口はかなり大きく開くようで不気味さが倍増されている。
怖いな。
「まだ小さい妖精は可愛げがあったんだな」
まぁ、小さい方の妖精は口を開けたところを見てないが、この目の前の妖精よりは怖くはないだろう。
妖精のイメージがここ数十分でがらりと変わったな。
悪い方に。
「『妖精ではなく、妖怪だ』と言われると納得できるんだけどな」
妖怪ではなく、妖精なんだよな。
あっ、また口を開けた。
もしかして威嚇されてるのか?
「主。こちらに、魔石があるぞ」
コアの声に視線を向けると、水槽の裏になって見えなかった場所に大きな魔石が見えた。
傍に寄ると、白く濁っているのが分かる。
高さは、俺と同じだから180㎝ぐらいだよな。
横は、両手を伸ばす。
俺の両腕を伸ばしたより少し小さいぐらいか。
「デカいな。それにしても魔石からは何も感じないな」
小さい魔石からは、傍に寄るだけで力を感じるのに。
この巨大な魔石からは、一切力を感じない。
「どうやら魔石の中の力を、使い切ってしまったようだ」
使い切った?
「力を?」
この大きさの魔石だ。
そうとうな力が詰まっていたはずだが。
「おそらく、この世界を動かすのに使い切ったんだろう」
なるほど。
魔石に手を伸ばす。
バチン。
「えっ?」
後ろを振り返ると、妖精が水槽に体当たりをしているのが見えた。
嘘だろ。
何をしているんだ?
「妖精は水槽から出たら、どうなるんだ?」
「水槽?」
コアの不思議そうな視線に、水槽を指す。
「妖精がいる器の事なんだけど、水槽ではないのか?」
「あれは妖精を閉じ込めるための、 結界箱(けっかいはこ) だ」
「そうなんだ。で、結界箱から出た妖精は何をすると思う?」
俺の言葉に、少し嫌そうな表情をするコア。
「襲ってくるだろうな。間違いなく」
やっぱり、そんな気はしてた。
バチン…………バチン。
ところで、どうして妖精は結界箱に体当たりをしているんだろう?
すっごく恐ろしいんだが。