作品タイトル不明
23.まずは自己紹介から
目の前の光景に、ちょっと頭が痛くなる。
3日前に来た、教師達と護衛の騎士達は翌日には体調に変化も無く元気だった。
少し挙動不審な者もいたが、慣れていない場所での生活なので仕方のない事だ。
2日間、仲間達に慣れてもらうためにもゆっくり過ごしてもらい、もう大丈夫だろうと子供達を紹介するためウッドデッキに集まってもらったのだが、子供達には予想外のお供がいた。
教師達の前に子供達。
そしてその後ろに並ぶ、アイが率いるガルムの一団。
なぜこうなったんだろう?
俺はただ、子供達を教師達に紹介しようと思っただけなんだが。
「あ~、アイ。なんでここにいるんだ?」
一団を引き連れて。
「見守り隊です」
見守り隊?
いや、そんなものが必要なのか?
仮令(たとい) 必要だとしても、こんなに必要か?
ガルムの一団を見る。
アイの子供や孫たちも勢ぞろいで、30匹ぐらいいる。
絶対に、こんなには必要ないよね!
「えっと、教師になってくれる人達が怯えているから、数を減らすか少し離れようか」
アイの視線が教師になってくれた3人に向く。
少し眉間に皺を寄せているせいか、いつもより2割増しで顔が怖い事になっている。
「ひっ」
獣人の1人から小さな声が漏れる。
いや、声というか悲鳴だな。
悪い、慣れてくれ。
これぐらいで悲鳴を上げていたら、此処では生活が出来ない。
「仕方ないですね、分かりました。では少し離れましょう」
数は減らさないんだね。
まぁ、離れてくれるならいいか。
アイがくいっと首を横にすると、ガルムの一団がすっと立ち上がり移動を始めた。
その無言の命令に、内心拍手を送る。
アイ、カッコいい!
「主?」
「いや、なんでもないよ。アイとラキは此処にいるんだな?」
「「もちろん」」
2匹ならそれほど怖くないし、教師達と子供達だけというのはちょっと不安だからな。
俺はもしもの時は、役に立たないだろうし、アイ達がいてくれたら心強い。
「待たせて悪かったな。えっと、子供達に名前と教える教科を教えてもらっていいか?」
教師達に視線を向けると、びしっと背筋を伸ばして「はい」といい返事が返ってきた。
希望としては、穏やかに顔合わせがしたかったが、もうこれは仕方ないな。
このまま、お互いに自己紹介をして終わらせよう。
「私は、各国の常識を担当するリーピです」
緊張した面持ちで自己紹介した獣人は、猫の獣人のようだ。
目鼻立ちがはっきりした女性で、耳と尻尾の真っ白な毛がとても綺麗だ。
子供達も真っ白な尻尾がちょっと気になる様子だ。
「私は国語を担当するノミスです。よろしくお願いします」
見た目が、人とまったく変わらないノミスに首を傾げる。
獣人に見えないが、何の獣人なんだろう?
あっ、首の一部に鱗のような物が見る。
もしかして、爬虫類の獣人?
獣人にも色々いるんだな。
「私は、算数を教えるワリアンです」
このワリアンが、教師の中で一番ビビりだな。
此処に来た翌日に、一つ目を見て失神していた。
さっきもアイの視線にビビって叫んでいたしな。
ただ彼は少し無謀なところがあるようだ。
昨日、ビビりな癖に1人で森に入ろうとしていた。
農業隊が気付いて止めてくれたので、大事にはならなかったのが幸いだ。
彼に理由を聞けば、「気分転換がしたかった」そうだ。
初めての場所で休めないのかもしれないが、森には魔物が沢山いる。
家の周辺は、子蜘蛛や親蜘蛛、子アリや親アリが守ってくれているが、100%安全とは言えない。
コアが危険性を話して納得させたが、ちょっと不安に思ったので一つ目達に相談した。
一つ目達も同じように思ったのか、既に24時間体制で誰かが傍にいる事が決まっていた。
さすがだ。
ただ、気付かれるとストレスになるだろうから、気付かれないようにとお願いしておいた。
これでもう大丈夫だろう。
そういえば、ダダビスと似た耳を持っているが、同じ種類の犬なんだろうか?
「ありがとう。えっと、クウヒから紹介していこうか」
俺の言葉に頷く子供達。
いい子だ。
クウヒから始まった紹介は、「練習でもしたのか?」と聞きたくなるほどスムーズに進む。
クウヒ、ウサ、光と終わり次は下の子供達。
太陽から自己紹介をするようだ。
あれ?
子供達から少し離れた場所に、黒いスカーフを首に巻いたバッチュを見つけた。
「何をしているんだ?」
視線の先のバッチュは、なぜか同じ場所をうろうろしている。
そして、ちらちらと子供達の様子を窺っている。
「ん?」
あんな落ち着きのないバッチュを見たのは初めてだな。
それより、随分と子供達を心配しているみたいだけど……あっ!
「もしかして、本当に練習をしてきたのか?」
子供達を見ると、自己紹介が終るとバッチュをちらっと見ているのが分かる。
それにクスっと笑ってしまう。
まさか、本当に自己紹介の練習をしてくるとは、可愛いなぁ。
最後の風太の自己紹介が終ると、バッチェがガッツポーズをしたのが見えた。
大成功したようだ。
「お疲れ様。何か聞きたい事があったら聞いていいぞ」
「ある?」
「無いかな?」
桜が月と紅葉に聞くと、2人は首を横に振っている。
「あっ! 師匠と呼んでいいですか?」
翼の質問に、教師達が戸惑ったのが分かった。
師匠って、特訓の時に使っている言葉だな。
「えっと。先生でお願いします」
「先生?」
「はい。それでお願いします」
リーピの必死のお願いに、翼はちょっと不服そうだが頷いた。
「先生達は、子供達に何か聞きたい事はあるか?」
俺が先生と呼べば、子供達も納得するだろう。
「はい。あの何時から勉強は開始したらいいでしょうか?」
あぁ、それを決めないと駄目だったな。
俺の感覚だと週6日という感じだけど、いきなり詰め込むのも大変だよな。
それに、子供達は特訓の時間を持ちたいと言っていた。
午前中は特訓で、お昼の休憩後に勉強でいいか。
あっ、特訓で疲れていたら午後からの勉強は眠いかな?
ん~、一度午後でやってみて様子を見るか。
「午前は特訓の時間で、午後から数時間を勉強の時間にしようと思うけど、どうだ?」
俺の言葉に、嬉しそうに頷く子供達。
クウヒとウサもそれでいいようだ。
「光は大丈夫か?」
光は最近、魔神力の使い方をオアジュ魔神から学んでいる。
それを邪魔するのは悪いからな。
「大丈夫です。オアジュ魔神から学ぶことはもうほとんどないので」
えっ、そうなのか?
この間、学びだしたはずなんだけど。
まぁ、光が大丈夫というならそうなんだろう。
「分かった。先生達もそれでいいか?」
「はい。これからよろしくお願いします」
リーピに続いて、ノミスとワリアンが子供達に頭を下げる。
いや、教える側が頭を下げるというのは違うと思うんだが。
仕方ない。
「ほら、皆もお願いします」
俺の言葉に、子供達が先生達に頭を下げた。
「よしっ、今日は解散。勉強は明日から……週5日。5日勉強をして2日休みな」
「「「は~い」」」
はい、いい返事です。
先生達を見ると、頷いてくれた。
これで今日はお終いだな。
「遊んできていい?」
雷の言葉に頷くと、子供達がバッチェの方へ走っていく。
なんだか、すごく懐いているよな。
……いや、別に悔しくないけどさ。
「じゃ、先生達も自由にどうぞ」
俺がいると休めないだろうからな。
あっ、そういえば今日は歓迎会があるんだけど、言った方が良いかな?
ん?
一つ目が言いに行ったみたいだな。
それなら俺は……飛べるか挑戦してみるか。