作品タイトル不明
24.歓迎会です
歓迎会が始まって1時間。
主役である先生達が、ビビりまくっている。
「先生達には、この光景は早かったかな?」
ウッドデッキから庭を眺める。
視線の先には、酒に酔いだした仲間達。
機嫌よく酔っている者達がいる中、力比べや、狩りの自慢など、少しずつ不穏な雰囲気があちこちに感じられだした。
まぁ、いつもの事なのだが、今日は初参加の獣人達がいる。
一応、「今日は大人しく飲むように」と言ったが、当然のごとく酔ったら忘れるよな。
「でも、慣れてもらわないとな」
今日の歓迎会は特別だが、1週間に1回酒乱会がある。
そう、この光景は今日だけではなく、1週間に1回は見る事になる。
なので、慣れる事が一番だ。
「あの、主様」
傍で飲んでいたダダビスが、不穏な空気に包まれる庭を見て表情を引きつらせている。
「ん? どうした?」
この2日で俺は獣人達から「主様」と呼ばれる事が決まったようだ。
森の神よりマシになったが、様も無ければもっと良かった。
一度、言ってみたが先生達に「恐れ多い」と拒否された。
あんな必死な表情をされてしまうと、無理を言えない。
「あれは……その」
ダダビスが指した方から、勢いよく火柱が上がった。
今日の火柱も、凄い勢いだな。
「だ、大丈夫なんですか?」
ダダビスの体がびくりと震えたのが分かった。
「大丈夫。結界があるから被害は出ないから」
酒を飲む日は、特訓の時の倍の結界が重ね張りされている。
特訓では加減をしてくれるが、飲みだすと加減なしだからな。
「あそこは……フェンリル達だな。という事は狩りの競い合いで結果に不満がある者がいるんだろう。ちょっとした小競り合いだから、特に気にする必要はないよ」
フェンリル達は、狩りにプライドがあるのか、1週間で1番大きな魔物を狩ったのは誰か、一番強い魔物を狩ったのは誰かと争っている。数で争った時は、庭に魔物が山積みになったので止めた。
数以外で競うようにと。
ただ、大きさや強さは微妙な違いでなかなか全員が満足する結果にならない。
そのため、酒乱会の2回に1回は今のように火柱があがるし、時々地面が陥没したりもする。
とはいえ、あの子達は加減してくれているので、問題ない。
「あれが、小競り合い?」
ダダビスの隣に座っている女性騎士ナフが目を見開いて、新しく上がった火柱を見つめる。
ナフは鳥の獣人だ。
鳥獣人の特徴は耳に羽があるだけなので、一目では獣人に見えない。
羽の有無を聞いたら、退化したらしい。
ちょっと残念だ。
見た目では分かりづらいが、どの獣人より遠くまで見る事が出来るらしい。
ただし夜は苦手だと言っていた。
ドーン。
フェンリルの上げる火柱を見ていると、別の場所から振動が伝わってきた。
視線を向けると、庭の一部が焦げている。
親玉さんかシュリか?
今日は、どちらが先に切れたんだろうな?
既に、親蜘蛛達や親アリ達によって、酒とつまみが安全な場所まで移動しているのが見える。
親玉さんとシュリの子供達は、一つ目達に鍛えられたので逃げ足だけは素晴らしい。
そして、親を肴に酒を飲むといういい性格をしている。
「あの、あれは大丈夫なんですか?」
キミールが、取っ組み合いを始めた親玉さんとシュリを指す。
2匹の周りは、かなり盛り上がっているようだ。
あれは間違いなく、何かを賭けているな。
「大丈夫。本気で危険になったら、止めてくれる子達がいるから。それ以外は、問題ない」
「あれで、問題ないのか。……分かりました」
ナフの隣にいるボスアが頷く。
彼は熊の獣人で、可愛い耳がある。
熊は大きくて、怖いイメージがあったが、ボスアはなぜか可愛い。
それほど体が大きくないからだろうか?
と言っても、顔は厳ついが。
ただコア達を見慣れているため、ボスアぐらいの厳つさは可愛く見える。
庭に雷が落ちた。
視線の先には、水龍のふわふわと風龍の水色。
その傍では、火龍の毛糸玉が大爆笑している。
何が起きたのかは不明だが、ふわふわと水色の魔力がぶつかり合うのを感じた。
2匹はかなり酔っているのか、魔力のコントロールが少し甘くなっているみたいだ。
「あれは、ちょっとやばいかな? このままだと、周辺を巻き込んで爆発するかも」
手に持っていたコップに口を付ける。
さっぱりとしたワインが、揚げて少し濃い目に味付けした芋に合うな。
「「「「「えっ!」」」」」
俺の言葉に、驚いた表情の獣人達。
「ん? ごめんビビらせたか? でもほら、もう大丈夫だ」
俺の言葉に、ふわふわ達に視線を戻す獣人達。
ちょうど2体の一つ目が、ふわふわ達の体に触れたのが見えただろう。
「えっ?」
キミールが驚いた声を上げる。
一つ目がふわふわと水色に触れた瞬間、2匹の体が大きく揺らいだからだ。
「膨れ上がった魔力を、一つ目が持つ魔石に吸い取ったんだ。魔法で酔いも醒ましたみたいだから、すぐに落ち着くだろう」
暫くふらふらしていた、ふわふわと水色がハッとしたように周りを見る。
「酔いが醒めたな」
次の瞬間2匹は、上空に飛び立とうとした。
が、ふわふわも水色も、その願いはかなえられなかった。
「捕まったな」
視界の先には、ふわふわと水色の尻尾を掴む一つ目の姿。
これから、長い説教が始まるのだろう。
「ご愁傷様」
「あいつらは、またやったのか?」
ため息を吐きながら飛びトカゲが傍に来る。
騒々しい場所から逃げて来たようだ。
「ん? あれ? もしかしてそれって魔界の酒か?」
飛びトカゲが持ってきた。
正確には空中に浮いている酒瓶を見て首を傾げる。
「あぁ、オアジュ魔神が持ってきた」
飛びトカゲの視線を追うと、チャイと楽しそうに飲んでいるオアジュ魔神がいた。
いつの間に参加してたんだ?
そういえば、
「オアジュ魔神の家族はいつ頃、此処に来るんだ?」
この世界にお試しで住むことになったが、いつ頃来るのか聞いていないんだよな。
なんでもちょっと調整が必要だと言っていた。
「あ~、そろそろ向こうも落ち着くから、もう少ししたら来るとさっきチャイに言っていたぞ」
そうなんだ。
あれ?
「どこに住むか言っていたか?」
「そういえば、決めてなかったな」
来る許可は出したけど、それ以外の話をしてないな。
後で……いや、酔いが醒めた明日にでも話そう。
「ん? ダダビス、どうしたんだ?」
ダダビスが何かを見て固まっている。
何を見ているのか視線を追うが……みんなが移動していて、分からない。
「あの、あれは、白い服の」
白い服?
此処で白い服と言えば神達しかいないが。
えっ、まさか参加してるのか?
「主、オアジュ魔神の隣、マシュマロがいて少し見えにくいが、アイオン神じゃないか?」
飛びトカゲの言葉に、先ほど見ていた場所を見る。
「いた」
マシュマロがアイオン神を隠しているが、確かにいる。
「あの……」
ダダビスを見ると、周りにいる獣人達もアイオン神を凝視しているのが分かった。
「白い服がアイオン神。彼女は神だな。その反対に黒いのがオアジュ魔神。彼は魔神だ」
あれ?
反応が無い。
獣人達を見ると、先生達は眠ってしまっていた。
彼らには少し、刺激が強かったようだ。
一つ目にお願いして、先生達を各自の部屋に運んでもらう。
「ありがとう。よろしくな」
一つ目達が先生達を担ぐと、なぜか大きく影が出来た。
上を向くと、3つの頭を持つテフォルテとその子供のケルベロス達がいた。
バタバタバタ。
ん?
上を向いていた視線を、元に戻すと騎士達が全員、寝てしまっていた。
「もしかして、驚かせてしまったか?」
まぁ、テフォルテの言う通りだけど。
「問題ないよ」
たぶん。
これが、送別会にならん事を祈ろう。