作品タイトル不明
22.エントール国第3騎士団団長2
-エントール国 第3騎士団 団長視点-
眩しさに目が覚める。
昨日、カーテンを閉め忘れたのだろうか?
いつものように起き上がって……どこ、ここ。
混乱する頭で、掛布団から出ようとすると、ふかふかの布団に気付く。
俺の布団はこんな感触ではない。
もっとゴワゴワしている。
あれ?
昨日は……、
「あっ!」
頭が一気に覚醒する。
そうだ此処は、森の神が住まう森の最奥だ。
勢いよく立ち上がって、もう一度座り直す。
「落ち着こう。この状態で行ったら、何かしでかしそうだ」
何度か深呼吸して、部屋を見渡す。
ゴミ1つ落ちていない床は、綺麗に磨かれている。
壁も天井も同じように、汚れ1つ見つけられない。
昨日の話では、これらは全て魔法で維持されているらしい。
正直、その事に驚き過ぎて反応できなかった。
魔法は魔力を必要とするため、もしもの時を考えて無駄な事には一切使わない。
綺麗にすることが無駄な事だとは言わないが、魔法を使わなくても出来る事だ。
なのに、「掃除は魔法で1日に2回、勝手にやるからしなくていいよ」と、なんでもないように言われた。
とっさに言葉が出ず、その話はそこで終わってしまったので後で後悔した。
今日、自分たちですると言えればいいが。
ただ、床を見て手で触れる。
自分達でやって、ここまで綺麗に出来るだろうか?
「……やると言って、汚くしたら不快な思いをさせてしまうよな?」
やっぱり、此処はお願いした方がいいかもしれない。
バタン、ドダドダ。
不意に扉を開く音と、走る音が聞こえた。
何か、嫌な予感がする。
「誰だ?」
慌てて部屋を出て、音の原因を探す。
階段から慌てて降りようとしているキミールを見つけて、声を掛ける。
「落ち着け、キミール!」
「ひっ、えっ? ダダビスゥ」
完全に大混乱だな。
久々に呼び捨てで呼ばれた。
「とりあえず、落ち着け」
「ここ、ここここ」
「落ち着け。はい、息を吸って、吐いて。吸って、吐いて」
キミールがここまで混乱するのも珍しい。
まぁ、それも仕方ない事だが。
「はぁ、もう大丈夫だ。ここは森の最奥か? この建物は? 俺たちはどうなったんだ?」
全然大丈夫じゃないだろう、お前。
これは、状況を話した方が落ち着けるかな?
「ここは森の神が住む森の最奥で、この建物は俺達に用意された物だ。自由に使っていいそうだ。今日の俺たちは、この環境に慣れるためにゆっくりしていいと言われている」
俺の言葉に何度も頷くキミール。
途中で音がするので視線を向けると、カフィレットが恐る恐る部屋から顔を出して周りを窺っていた。
俺と視線が合うと、安堵した表情で部屋から出てきた。
「よかった。起きたら、知らない所にいたから」
1人1人、説明していくのは面倒だな。
もう朝だし、起こしてもいいだろう。
起きて、部屋で混乱している者もいるだろうし。
「キミール。各部屋に声を掛けて、下に行くように言ってくれ。カフィレット。お前は、此処で部屋から出てきた者達を下に誘導してくれ」
階段を指してカフィレットを見る。
「分かった。その階段を下りたらいいんだな?」
「あぁ、階段を下りたら、リビングだから」
リビングに階段がある造りだから、下りてくるだけでいい。
1階に下りようとすると、部屋着である事に気付く。
今日はゆっくりするとは言っても、さすがにこれでは駄目だな。
キミールとカフィレットも同じなのか、1度部屋に戻っていくのが見えた。
急いで着替えて、1階に下りる。
「あれ? ギルス?」
「あぁ、団長。おはようございます」
俺に気付いたギルスが、ぎこちない表情で挨拶をする。
それに首を傾げる。
ギルスは昨日、一緒に家の説明を受けている。
なので、混乱しているわけではないと思うが。
「どうしたんだ?」
「朝、日課の走り込みをしようと思ったんですが……」
「結界警備隊は体力が一番必要な場所だからな。走ってきたのか?」
「いえ。此処から出ていいものか、分からなくて……」
なんだ?
ギルスがすっと外を指す。
それにつられて窓から外を見る。
「えっ?」
庭が見える。
そして、炎魔法や雷魔法が入り乱れているのも見える。
「いやいや、えっ? 何事?」
「これが、訓練なんでしょうか?」
ギルスの言葉に、どう返すべきか迷う。
森の神が訓練だと言っていたから、これは訓練なんだろう。
たとえ、王都が一瞬で火の海になるような威力の魔法が、無数に見えたとしても。
「森の王達がいるな。アルメアレニエやアビルフールミの姿まである」
窓に近付き、そっと周辺を窺う。
魔法攻撃で周りに被害が出ていない事を確認する。
あれだけの攻撃を受けても、結界が完全に防いでいるようだ。
「庭に張ってある結界は凄いな」
「はい。何度もあの高威力の攻撃を受けてますが、なんともないみたいです」
ギルスの言葉に、乾いた笑いが漏れる。
間違いなく森の神の結界だろう。
我々の国に張ってくれた結界もかなり強力な物だったが、これほどではない。
もし、この結界が国に張れたら、最強の防御を手に入れた事になるだろうな。
じっと庭で行われている訓練を見る。
森の王達は、魔眼によりかなり魔力を失ったと言われている。
そのため、王から「今の王達の魔力がどれほどの物か、確認してほしい」と言われた。
……本当に力を失っていたんだろうか?
そんな感じが一切しないんだが。
「王達の力は流石ですね」
「ギルスもそう思うよな?」
「はい。魔力の量の違いでしょうか? 放つ魔法のレベルが違います」
庭の訓練を見ていると分かる。
やはり王達の力が、他に比べると圧倒している。
もしかして、力を失っていたというのは嘘だったんだろうか?
それとも、この短期間で戻った?
いや、こんな短期間で完全に戻るわけがない。
森の王達の魔力は、ほとんど失われたと考えられていたんだから。
それとも、ほんの少ししか失われてなかったんだろうか?
「もしそうなら、なぜほとんど失ったなんて情報が流れたんだ?」
調べたのはエントール国の魔法に長けている者達だ。
嘘を報告したとは思えない。
もしかして森の王達が、「魔力を失った」と見せかけた?
だが、何のために?
……分からない。
「どうしたんですか?」
「森の王は、魔力が失われたと言われていただろう? でも、違ったんだなと思って」
「そういえば、そうでしたね。今の王達を見て、そんな事はすっかり忘れてました」
そうだろうな。
どの王も、魔力は十分だ。
「あっ、森の神がいますよ」
ギルスが見ている方へ視線を向けると、庭の隅を歩く森の神を見つけた。
いつも思うが、本当に細く小さい。
なのに、森の王すら圧倒する力があるんだよな。
「あっ、攻撃が!」
巨大な炎の球が、森の神に向かっていくのが見え息を飲む。
森の神は焦る事も無く、手で払うような仕草をした。
「「えっ?」」
次の瞬間、巨大な炎の球が目の前から消えた。
ぶつかる事も、跳ね返す事もない。
ただ、消えた。
森の神は何事もなかったように、そのまま神の住処に戻ってしまう。
「団長、今のは何ですか?」
ギルスの言葉に、首を横に振る。
そんな事を知るわけがない。
「なんだろうな? 見た事がない魔法だ。あえて言うなら、消滅魔法?」
目の前から消えたんだから、消滅で合っているよな?
ただ、そんな魔法は聞いた事がないが。
「聞いた事がないですが」
「俺もない」
ギルスの視線が俺に向く。
仕方ないだろう?
俺達の常識が通じない魔法みたいなんだから。
2階から人の気配が多数した。
どうやら、ようやく下りてくるようだ。
落ち着くまでに時間がかかったな。
まぁ、人の事は言えないが。
「さてと、全員に説明しないとな」
「教師達の見張りはどうしますか?」
「ギルス、護衛だ。ご・え・い」
「あっ、そうでした。すみません」
教師の1人が、オルトル男爵と会っていた事が確認された。
オルトル男爵は、元ヴィスルイ宰相と結託していたタルレスタ女伯爵の手下だ。
もう少し早くこの情報が掴めたら、奴を他の者に替えられたんだが、残念ながら時間が無かった。
タルレスタ女伯爵達に、こちらが気付いている事を知られるのは不味いからな。
お陰で、急遽護衛の人数を増やす羽目になって、大変だったよ。
あれ?
俺、森の神に此処に来る騎士が増えたお詫びをしたっけ?
それに俺たちが護衛だって事を、言い忘れているような……。
やばい。
「団長、お待たせしました」
2階から下りてくるキミールとカフィレット。
そしてその後に教師達が姿を見せた。
「あぁ、おはよう。ここについての話をするから、座ってくれ」
頼むから、問題を起こしてくれるなよ。
それと早急に森の神にお詫びをしないと。