作品タイトル不明
20.いらっしゃい、寝てるけど
飛びトカゲに向かって手を振ると、すごい勢いで降りてきた。
その勢いに少しビビる。
えっ、何?
「主の魔力が急に消えて驚いた。どうやって戻って来たのだ?」
あっ、魔力を察知できるから森から消えた事に気付いたのか。
これは、心配をかけてしまったな。
「心配掛けてごめん。俺、転移魔法が使えたみたいでさ。一瞬で戻れたんだよ」
「転移魔法……またすごい魔法を使ったのだな」
驚いたような呆れたような、なんとも言えない雰囲気の飛びトカゲに再度謝る。
「ごめん」
じっと俺を見ると、安心したように息をついた。
「無事でよかった」
「ありがとう。でも、もっと早く転移魔法が使える事が分かっていれば、獣人達の移動をお願いせずに済んだのに。手間を取らせてごめんな」
「いや、それは構わない。特に問題は無かったからな」
本当に問題は無かったのかな?
なぜか、皆が寝てしまっているんだけど。
飛びトカゲが下りてきてすぐに獣人達を確認したが、見事に全員が睡眠中だった。
まぁ、正確には何かがあって意識を失ったんだろうけど。
「本当に何もなかった?」
「特には……そういえば、仲間達が見に来た時に叫び声が聞こえたな」
間違いなく、それだな。
飛びトカゲが不思議そうに、背に乗っている獣人達を見る。
「彼らを連れて来てくれてありがとう。彼らはちょっと驚いただけだから大丈夫だ。部屋に移動させようか」
どうしようかな。
俺が1人1人……魔法で一気に部屋に移動させる方が楽か。
「主、我々がいたします」
ん?
少し聞きなれない声に視線を向けると、巨大化した一つ目達。
そういえば、必要に応じてサイズを変化させられる一つ目がいたな。
「お願いしても大丈夫か?」
「お任せください」
嬉しそうに言うと、飛びトカゲから獣人を下ろして肩に担ぐ。
あれ?
肩に担ぐんだ。
子供達の時は、背負って移動させていたよな。
なんだか、扱いが雑に見えるのは気のせいか?
「ぐっ」
あっ。
……まぁ、本当はやらなくてもいい仕事をしてくれているんだし。
獣人は丈夫だとウサとクウヒが言っていたし。
……大丈夫だろう。
「わっ」
ごろごろごろ。
ん?
叫び声と転げ落ちる音に視線を向けると、飛びトカゲの傍に獣人が驚いた表情で座り込んでいた。
珍しい獣人だとコアが言っていた、名前は……ギルスだったはず。
「大丈夫か?」
「あっ……」
「えっ? 頭でも打ったのか?」
目を見開いて固まったギルスに少し心配になる。
初めて会ったわけでもないのに、なぜこの反応なんだ?
「あっ、大丈夫です。申し訳ありません」
パッと立ち上がって頭を下げるギルス。
その素早い動きに、ちょっとビックリする。
「大丈夫だったらいいんだ。それより、此処がこれから生活する場所だから」
「えっ?」
俺の言葉に、周りを見るギルス。
家にしている岩山を見て呆然とし、広大に広がる畑を見て尻尾を膨らませ、訓練するだだっ広い庭にいる仲間を見て耳が寝てしまった。
その忙しい変化につい笑ってしまう。
それにしても、畑を見た時に尻尾が膨らんだのはなんでだろう?
畑に視線を向ける。
今日も農業隊が、野菜たちの世話をしている。
そしていつもの通り、アメーバ達や孫蜘蛛達、孫アリ達が元気にお手伝い中だ。
孫蜘蛛や孫アリは森の中でも見かけるはず、アメーバも種類は違うが川に沢山いる。
となると、農業隊を見て反応した事になる。
やっぱり彼らに反応するなぁ。
「っつ」
ギルスの息を飲む音が聞こえた。
今度は何だと見ると、尻尾が完全に内側に巻いている。
これは怖いからだよな。
ギルスの視線の先には、巨大化した一つ目。
そして肩に担がれているのはキミール。
「寝ているから、部屋に運んでいるだけだぞ」
何をしているのか分からないと、怖いかな?
「そうなんですね。お手数をおかけいたします」
たぶん頑張って応えてくれたんだろうな。
ただ尻尾は内側に巻いてしまっていて、全然元に戻らない。
ん~、安心させるにはどうしたらいいんだ?
「あ~、主~お帰り~」
寝ぼけた様子の風太が、走ってくるとギュッと抱き着いた。
時間的に、お昼寝から目が覚めたのだろう。
「ただいま」
頭を撫でると、ぐりぐりと顔を俺に押し付けてくる。
完全に寝ぼけているな。
「ん? あれ? 主だ」
どうやら目が覚めたらしい。
不思議そうに俺を見上げる風太につい笑ってしまう。
「えっ? あれ?」
不思議そうに周りを見る風太。
「あっ」
どうやら傍にいるギルスに気付いたようだ。
そういえば、クウヒやウサとは違う獣人だ。
どんな反応をするんだろう?
きっと大丈夫だとは思うんだが。
「す、すみません」
風太と視線が合ったギルスが、顔を伏せて謝る。
「か、かっこいい!」
風太がギルスに駆け寄り、手を差し出す。
「初めまして、風太です。……先生?」
あっ、誤解している。
「いえ、違います。私は教師達の護衛をするギルスです」
ん?
護衛?
ダダビス達は教師達の護衛なんだ。
聞いてなかったけど、まぁ問題は無いだろう。
「そうなんだ。えっと、でも宜しく」
期待に満ちた目で手を差し出す風太に、戸惑って挙動不審になっているギルス。
尻尾も揺れたり、丸まったりと忙しい。
かなり、混乱しているようだ。
「握手は駄目なの?」
風太の言葉に、ハッとした表情で慌てて手を握るギルス。
尻尾が激しく揺れている。
「宜しくお願いします」
強張った声だが、とりあえず良かった。
それにしても、風太のあの視線。
かなりギルスを気に入ったようだ。
迷惑を掛けないといいんだが。
「風太、他の子達を起こして来てくれるか?」
とりあえずギルスから離して、彼に落ち着く時間を与えよう。
「うん、分かった。ギルスお兄ちゃん、後で一緒に特訓しよう」
あっ、お兄ちゃん呼びだ。
いいなぁ。
俺もお兄ちゃんと呼ばれたい。
たぶん無理だろうけど。
「俺……いえ、私とですか? えっ特訓?」
かなり混乱している様子のギルスが、俺を見る。
これはちょっと可哀想だな。
「風太。彼は此処に来たばかりだから、まずはこの場所に慣れてもらわないと」
「そうなの?」
首を傾げて俺を見る風太。
そんな風太の頭をゆっくりと撫でる。
「そうだよ。きっと今までいた所とはかなり違うから。まずはゆっくりしてもらって、此処での生活に慣れてもらおうな」
数日あれば、この環境にも慣れるだろう。
「そっか。そうだよね。ごめんなさい」
風太がギルスに頭を下げると、ぎょっとした表情をするギルス。
「いえ、顔を、頭を」
ギルスの言葉が分からず、首を傾げる風太。
「ギルス、落ち着いて。風太、他の子達を起こして来て」
俺の言葉に小さく「あっ」と声を上げる風太は、慌ててお昼寝をしている部屋に戻っていった。
さて、この間にギルスが落ち着けるように家に案内しよう。
「ギルス、これから過ごす家を紹介するから付いて来てもらっていいか?」
「はい」
巨大化した一つ目が最後の1人、ダダビスに手を伸ばすとばっとダダビスが飛び起きた。
「あっ、起きた」
ダダビスは、一つ目を見てとっさに腰に差している剣に手を伸ばす。
「ダダビス団長!」
ギルスの焦った声に、ハッとした表情をするダダビス。
「その子は一つ目。寝ていたから、移動をお願いしていたんだ」
ダダビスの視線が俺に向く。
手を振ると、飛びトカゲから慌てて降りて俺の元に来る。
「すみません。あの……」
「ははっ、気にしなくていいよ。それより、体は大丈夫か?」
魔法で固定しているから問題はないと思うけど。
「大丈夫です。乗り心地は問題なかったです。あの、途中で意識を失ってしまったようで、申し訳ありません」
耳も尻尾も元気がないダダビス。
気を失った事がショックだったようだ。
「龍達が一気に集まって来たらビックリしてもしょうがないよ。それより、今から家の中の紹介をしたいんだけど、大丈夫か?」
少し休憩を入れた方がいいだろうか?
「大丈夫です」
顔色もいいし大丈夫かな?
「そうか。それならギルスと一緒に聞いて、後で他の者達に伝えてくれ。あそこが、ダダビスとギルスが生活する家だ」
俺が指した方を見たダダビスが、ぽかんとした表情をした。
「あれ? 5日で作るって」
「あぁ、一つ目達や農業隊、三つ目達が頑張って5日で作りあげてくれたんだ」
ダダビスの唖然とした表情に、笑ってしまう。
ギルスは、仲間が運び込まれるのを見ていたので、家に気付いていたようだ。
さて、家の中の紹介が楽しみだ。
気に入ってくれるかな?