作品タイトル不明
19.代償があるの?
こちらに来ようとするアイを止めて、自分で転移門をくぐってみる。
コア達が大丈夫だったから怖くはないが、ドキドキする。
転移門を通り過ぎる時に、ほんの少し体に負荷がかかったような気がした。
と言っても、本当に少しなので問題はないだろう。
「うわっ」
目に映っていた光景が、森から見慣れた庭に一瞬で変わる。
これは、凄い。
本当に転移が出来てしまった。
「お帰りなさい」
「ただいま」
アイ達が、嬉しそうに尻尾を振って出迎えてくれたので順番に頭を撫でていく。
まさか本当に出来るとは、一番うれしい魔法かもしれない。
アニメの影響で昔から憧れがあったもんな。
「これがあれば、遅刻しないのに」と。
まぁ、遅刻を一切気にしない生活になってから手に入れたが、それでも嬉しい。
振り返って転移門を見る。
ただの黒枠なのが、ちょっと残念かもしれない。
「あっ、シュリには今の転移門は小さすぎるか」
転移門の傍にシュリがいる事は分かるが、見えているのはシュリの一部分のみ。
これでは転移門は通れないし、親玉さんも無理だろうな。
龍達はサイズを調整してくれるから問題ないだろうが。
転移門を大きくするには、イメージを作り直さないと駄目かな?
一度今の転移門を消して、イメージでシュリや親玉さんが通れる大きさをイメージして――。
「えっ、待ってシュリ。その大きさでは通れないから」
なぜかシュリが転移門に近付くので焦って止めたが、次の瞬間転移門が大きくなる。
「えっ?」
シュリが余裕で通れる大きさになった転移門に呆然とする。
「自動調整付き?」
まさか、通る者の大きさで転移門が変化するとは思わなかった。
自分で作っておきながら、びっくりだ。
「あっという間だな」
普通に戻ってきたシュリは、周りを確認すると頷く。
シュリの後には農業隊とコア達が戻ってきたが、転移門は元の大きさになっていた。
「あれ? 子アリの2匹はいないのか?」
一緒に行った、子アリ2匹が転移門を通って戻って来ない。
もしかして怖がっているのか?
「『気になる物を見つけたので調べたい』と言ったので許可を出した。満足するまで調べたら、戻ってくるだろう。転移門は消してくれて構わない」
気になる物?
「そうか」
この転移魔法は便利でいいが、ちょっと怖い魔法かもしれないな。
もし悪用されたら?
盗みにでも使われたら、絶対に捕まえられない。
あれ?
アイオン神やオアジュ魔神が転移で移動するのは見た事があるが、他に使っているのを見た事がないな。
どうして誰も、転移魔法を使わないんだ?
「主、飛びトカゲは一緒ではないのですか?」
「ん? えっ、あぁ、うん。そうなんだ」
戸惑った俺の様子に、質問をしたアイが首を傾げる。
まさか飛びトカゲの事を、言われるまで忘れていたなんて言えない。
自分で思っているより、転移魔法でテンションが上がっているようだ。
それより飛びトカゲの事はどうしようかな?
飛んでいる飛びトカゲの位置が分からないから、転移門を使って迎えに行く事は出来ないし。
……ここは、大人しく戻ってくるのを待ってよう。
それより今は、転移魔法について教えてもらおうかな。
悪用された場合の対処法も、考えないと駄目だからな。
「コア、どうして誰も転移魔法を使わないんだ?」
俺が転移門を作れるなら、魔法に長けている龍達やコアなら簡単にできるはずだ。
でも、アイオン神達以外が転移魔法を使っているところを見た事がない。
「空間を歪ませる魔法は、魔力だけでは発動しない。神力が絶対に必要なんだ」
えっ?
コアの説明に首を傾げる。
「そうなのか?」
さっき、転移門を使用した時に神力に似た力を使った感覚は無かった。
まぁ、魔力を使った感覚もなかったけど。
「そうだ」
「そうなると龍達は、今は無理でも神力を手に入れたら転移魔法を使えるという訳か」
龍達が神力を使えないのは、祝福されていない星で誕生したからだったよな。
祝福さえもらえれば、神力は使えるようになるはずだ。
「無理だと思うよ」
不意に頭上から聞こえた声に、視線を向けると水色がゆっくり下りてきた。
「無理? 今は神力がないから無理かもしれないが、神力が使えるようになったら出来るんじゃないのか?」
コアの説明だと、そういう事だよな。
「神力を持っている者が、すべて転移魔法を使えるわけじゃないんだ。この魔法はかなり難しいから、発動しない事も多い。失敗したら代償もあるしね」
難しい?
いや、思ったより簡単に出来たけど。
というか、勝手に発動したから。
まぁ、転移魔法を使える者が少ないなら、悪用の心配も必要はないかな。
ところで、代償って何?
転移門を通ってきたが、特に体に変化はない。
シュリもコアもクロウも、いつもと変わらず元気だ。
農業隊は?
あれ、いない。
可笑しいな、どこへ行ったんだ?
なんだ家の方にいたのか。
どうやら一つ目に用事があったようだ。
後ろ姿だけど、農業隊にも問題は起きていないようだ。
「水色、俺の転移門は問題ないか? それに、代償とは何が起こるんだ?」
「主の転移魔法は安定しているから問題ないよ。代償は転移した時にかかる体への負荷。最悪、一月以上寝込む事もあるんだ」
水色の言葉に愕然とする。
転移魔法に、そんな重い代償があったなんて。
知らないって恐ろしいな。
「転移魔法って、怖いんだな」
「そう? 普通の事だけど」
不思議そうな水色に苦笑が漏れる。
魔法を使う者には、代償は特別な事じゃないのか。
本当に、知らないって恐ろしい。
あれ?
「代償があるのは転移魔法だけか?」
「どの魔法にも失敗したら代償はあるよ」
知らないって、本当に恐ろしい。
まさかどの魔法にも、代償があるなんて……。
転移門を見る。
先ほどまでいた森が綺麗に映し出されている。
そうだ。
「水色、転移門から見える光景がぼやけている事があるんだけど、どうしてだ?」
「えっ、ぼやける? そんな情報は無いんだけど」
無いの?
「ちょっと待ってね」
水色が首をひねって考え込むのを見つめる。
転移門を見る。
今見えるのは、先ほどまでいた森ではっきりと見えている。
「コア。転移門から見えた光景なんだけど、庭以外はぼやけてたよな?」
「あぁ、最後にはぼやけ過ぎてどこに通じているのか、分からなかったからな」
やっぱりそうだよな。
「ごめん、主。やっぱりぼやけて見えるなんて情報はないみたい」
「そうか」
少しでもぼやけていたら、通らないようにしよう。
というか、そもそも見えた光景がどこなのかもわかってないから、怖くて通れない。
「水色、色々ありがとう。助かったよ」
「うん。でも最後は、分からなかった」
悲しそうな水色の鼻先を撫でる。
「気にするなって。十分すぎるほどの情報をもらったから」
「本当に?」
じっと見つめてくる水色に笑みを見せて鼻先を軽く叩く。
「あぁ、本当に」
魔法に代償があるとか、考えた事も無かったからな。
「よかった」
魔法を使うのがちょっと怖くなったな。
まぁ、今まで使ってきた魔法は問題ないだろう。
それにしても、魔法を色々使ってきたが代償なんて無かったよな?
「そういえば、主の使っている魔法は全てオリジナルだから、代償を予想できないよね」
えっ?
俺の使っている魔法が、全てオリジナル?
「飛びトカゲが戻ってきたようだ」
コアの言葉に、視線を頭上へと向ける。
予定より早いよな。
いや、一瞬で戻ってきた俺が言うのもあれだけど。
乗ってきた者達は、大丈夫だろうか?