作品タイトル不明
16.さぁ、迎えに行こう!
約束の日の朝だ!
それにしても、随分と立派な家が建ったな。
5日前、帰ってきたと思ったらすぐに一つ目と農業隊で話し合いが行われ、畑と広場の一部が更地になった。
その時、一切の相談は無く……別にいいけどね。
翌日、森へ連行……一つ目達と一緒に行って木の伐採。
俺が出来るのはここだけだから頑張りました。
俺が木を伐採している間に、土台が完成してたらしい。
戻ってきた時には、足場が組まれていて驚いた。
それから、一つ目達は楽しそうに家作り。
俺は設計図すら見ていない……別にいいけど……でも、少しは参加したかった!
2日間で、あっという間に2階建ての豪邸が建った。
翌日には、三つ目達も参戦して家の中で色々やっていた。
昨日、家の中を見学させてもらったけど、なんというか……言葉が出なかった。
一つ目達や三つ目達が心配そうに俺を見ているから、「凄い、完璧」と言ったけど、いや、本当に凄いから心配する必要は一切ないよ。
玄関の引き戸には、透かし彫りが施されていてかっこいいし。
キッチンやリビングも広々として、獣人達の大きな体でも十分に安らげるような椅子が置かれてあった。
残念ながら、俺には大きすぎた。
各部屋には、しっかりした作りのベッドと机。
ベッドにはふかふかの新しい布団。
そして、小さなキッチンとシャワー室まで完備されていた。
1階には、お湯に浸かれるように大きな風呂もある。
さすが一つ目達。
いや、この新しい建物は岩人形全員の作品だな。
「主、もう行くのか?」
ここ数日を思い出していると、氷龍のマシュマロが体を小さくして俺の肩に乗ってくる。
小さい龍は、可愛い。
首の辺りを撫でると、気持ちよさそうな顔になるのも凄く可愛い。
「あぁ、早く行って早く戻ってくるよ」
「そうか。楽しみだな」
マシュマロの言葉に首を傾げる。
獣人達が来ると、楽しい事でもあるのか?
よくわからないが、歓迎してくれているんだろう。
「そうか。俺も楽しみだ」
俺は、子供達に混ざって勉強をするつもりだからな。
こっそり参加する予定なんだけど、なんと言って混ざろうかな。
「今日は誰がお供に来てくれるんだ?」
「我々だ」
後ろから声がしたので振り向くと、コアとフェンリルのクロウ。
農業隊の1体、この子は……駄目だ、区別がつかない。
あとは、シュリと子アリ2匹。
「我も行く」
飛びトカゲも行くのか?
「あっ、獣人達を乗せてくれるんだったな」
獣人達の移動手段を飛びトカゲに相談したら、「自分達が協力する」と言ってくれたんだった。
あの日は誰が獣人達を乗せるのか決まらなかったが、飛びトカゲが獣人達を乗せてくれる事になったのか。
「ありがとう」
これで、安心だな。
飛びトカゲなら、乗せている者達の様子を見ながら、飛んでくれるだろう。
「今日はチャイは来ないんだな」
コアと別行動になるなんて、珍しいな。
「あぁ、今日は別の用事があるからな」
別の用事?
「今日は、歓迎会だろう? だからワイバーンでも狩ってきてもらおうと思ってな」
ワイバーン。
えっと、俺が首を切り落とした魔物だったかな。
「そうか。ところで、歓迎会ってなんの事だ?」
一つ目、俺は聞いてないぞ?
傍にいる一つ目のリーダーを見ると、不思議そうに俺を見上げている。
あれ?
聞いたっけ?
……いや、聞いてないよな?
「一つ目、俺に歓迎会の事は言ってないよな?」
全く記憶にないから、そうだと思うんだけど……俺の度忘れ?
あっ、一つ目が焦ってる?
「……すみません。忘れていたような……」
俺のせいじゃなかったぁ!
まぁ、ここ数日の一つ目達のテンションの高さはすごかったから、うっかりしたんだろう。
「気にしなくていいぞ。ミスは誰にだってあるから」
一つ目でもミスはするんだな。
なんだか、それが知れて嬉しい。
「歓迎会は、しないのか?」
コアの言葉に、周りにいた仲間達の視線が俺に集まる。
いや、ちょっと怖いって。
「歓迎会はする! ただ、今日は移動もあるから疲れているだろうし、明日以降の方が良いんじゃないか?」
教師達も、護衛の騎士達も今日は疲れるだろう。
「なるほど、それもそうですね」
一つ目が頷くと、周りがちょっと残念な雰囲気になる。
いや、どんだけ今日、歓迎会がしたいんだ?
「歓迎会はちゃんとするから。ただし明日か、明後日にしよう。騎士達は鍛えているから明日でも大丈夫だろうけど、教師達の方はどうなるか分からない。皆で楽しみたいだろう?」
獣人達は、人より体力があると聞いている。
だから明日が歓迎会でも大丈夫なのかもしれないけど、もしもという事があるからな。
余裕を持たせておこう。
「分かりました! 帰ってきた様子を見て決めます」
一つ目のリーダーが、分かってくれてよかった。
皆も理解してくれたみたいだな。
「ありがとう。じゃ、そろそろ出発しようか」
「「「「「いってらっしゃい」」」」」
「行ってきます」
元気に見送ってくれる皆に手を振って、獣人の国に向かって走る。
コアとクロウは俺の左右を、飛びトカゲは農業隊を乗せて上空を飛んでいる。
シュリと子アリ達は、俺の後ろを余裕でついて来る。
「早く戻ってきたいから、速度を上げるぞ~」
「「分かった」」
左右を走っているコアとクロウが、同時に走っている速度を上げる。
ちょっと待て、俺がまだ加速してないのに!
急いで2匹に追いつき、そのままの速度で一気に獣人の国に向かう。
「目的地に、一瞬で移動出来たら便利なのに」
そういえば、前に瞬間移動が出来ないか試した事があったな。
あの時は、どうして出来なかったんだっけ?
あぁ、そうだ。
魔力が逃げる感覚がしたんだ。
そうそう、制限が……ん?
その制限は、今は無くなっているはずだよな。
という事は、瞬間移動が出来るのでは?
しかも、その考えからいくと、空を飛ぶ事も出来るはず!
前に試して出来なかったから、出来ないと思い込んでいるけど環境が変わっている。
よしっ、家に帰ったら試してみよう。
あっ、足が 縺(もつ) れた……まずは、走る事に集中しようかな。
…………
そろそろ、獣人の国の門が見えてくるあたりだな。
周りを見ながら、現在地を把握する。
あっ、見えてきたな。
「なんだ?」
少し速度を落として、門の前にいる集団に目を向ける。
「なんだか多いですね」
クロウの言う通り、門の前で待っている獣人の数が多い。
それに、異様に豪華な一団がいる。
「嫌な予感がする。帰りたい」
いや、約束があるから駄目だけど。
はぁ、「森の神」か。
面倒だな。
俺は――。
「主?」
「あっ。コア、どうした?」
隣を走るコアを見ると、心配そうに俺を見ている。
ちょっとぼんやりし過ぎたようだ。
「大丈夫だ。獣人達が俺たちに気付いたみたいだな」
先頭にいるのは、ダダビスか。
ん?
なんだか、きまり悪そうな表情をしているな。
「速度を落として、近付こうか」
教師達は……いた!
騎士服ではない、男性2人に女性が1人の姿が見えた。
きっと、彼らだな。
声がしっかりと聞こえる位置まで来ると、足を止める。
ダダビスを見ると、やはりどこか申し訳なさそうな表情だ。
たぶん、後ろの豪華な一団のせいかな?
気にしているみたいだし。
「5日ぶりだな」
「はい。えっと……」
ダダビスが後ろを振り返ると、小さくため息を吐いた。
彼の視線を追うと、豪華な一団の真ん中。
おそらく王様なんだろうな。
周囲とは、明らかに雰囲気の異なる獣人がいた。
その獣人の周りにいるのは、王専属の騎士かな?
ダダビスの着ている服に似ているが、1つ1つが豪華だ。
王の隣には……顔色の悪い獣人がいるな。
無理して、そこにいる必要はないと思うけど。
「エントール国の王を、森の神に紹介したいのですが宜しいでしょうか?」
ダダビスの不本意な様子に、苦笑してしまう。
「あぁ、問題ない」
俺の声が聞こえたのだろう。
喜々とした表情で王が、こちらに歩いてくるのが見えた。
「わっ」
「ひっ」
ん?
なぜか獣人達から小さな悲鳴が上がった。
えっと、何が起きたんだ?
ダダビスを見ると、俺の左下を凝視している事に気付く。
視線を向けると、農業隊が俺を見上げていた。
「降りてきたのか?」
「はい。守るには傍にいなければ!」
……何から?