作品タイトル不明
100.酔い
「光、体は問題ないか?」
光の力は安定しているようだが、他に何かあるかもしれない。
「大丈夫です。あの……力の事なんですが……」
ん?
なんで、敬語?
「ありがとう。核に必要な魔神力を光の物に変えてくれたおかげで、オアジュ魔神に頼らなくて済んだよ」
あれに頼るのは本当に嫌だったから。
「いえ、そんな。俺、魔神力を持っているんですけど、ここにいても大丈夫ですか?」
「ん?」
光の質問が一瞬理解出来なかった。
「ここにいていいですか」なんて……。
不安そうな光に、笑顔で頷く。
そんな事は心配する必要ないのに。
「当たり前だろう? 光は家族だ。それに光はこの世界にとって必要な存在になったんだから。もっと自信を持っていいぞ。……そうか、光の魔神力と俺の力で核は動いているんだよな?」
俺だけでも光だけでもこの世界は回らないんだ。
「なんだ、光と俺は同じ立場じゃないか」
「えっ! そんな、ありえない。いやいや。えっ?」
えっ?
いや、そんな混乱するような事を言ったかな?
「とりあえず、落ち着こう。光?」
「だって、同じた、立場……うわぁ」
「ぷっ」
オアジュ魔神に嫌味たっぷりに言い切っていたのに……。
あまりの変わりように、光の周りにいる子供たちがポカンと光を見つめている。
「光が可愛すぎる」
「えっ、えぇ!」
光の頭をいつも通り撫でると、恥ずかしがりながら笑顔を見せてくれた。
あんなに強気だったのに、今の姿からは想像できないな。
もしかして、魔神力の影響が少しあるのかもしれないな。
「すまない。光に聞きたい事があるのだが」
ん?
テフォルテか?
「どうしたんだ?」
「それが、オアジュ魔神が今も立てないのだ。それに、魔神力がかなり少なくなっていて」
テフォルテの言葉に、オアジュ魔神を見る。
確かに、まだ座り込んだままだな。
座っていても体が揺れている。
「光、何をしたんだ?」
確か、光が触れた後にオアジュ魔神が倒れたんだよな。
「あ~、えっと」
なにか言いづらい事なのか?
「魔神力を奪いました」
……力を奪った?
だから、光からオアジュ魔神の魔神力を感じたのか。
「そうなんだ。時間が経てば立てるようになるか?」
奪われた魔神力が溜まったら、問題ないよな。
「……イラっとしたので、根こそぎ奪ったんで……立てるようにはなるけど……」
根こそぎ?
「えっ、本当に?」
驚いているテフォルテに光が頷くと、オアジュ魔神の顔色が悪くなった。
もしかして「根こそぎ」奪うのは問題ありなのか?
「数年は魔神力切れ状態が続くだろうな。可哀想に」
うわぁ。
コア凄く楽しそう。
可哀想という言葉と全然雰囲気も表情も合ってないぞ。
おっと、飛びトカゲや水色達も尻尾が揺れちゃってるよ。
「なんて事をしやがった!」
呆然と自分の手を見ていたオアジュ魔神が、光を睨みつけ声を荒げる。
オアジュ魔神と光の間に立ち、彼を見る。
「自業自得だろ? この世界を完成してくれた事は感謝するが、手に入れようとしたのは許せない」
オアジュ魔神から喧嘩を売ったんだ。
つまり、
「光は売られた喧嘩に対処しただけで、悪くない」
「なんで! 俺の攻撃も効かないし」
あっ、忘れてた!
俺の張った結界が壊れて、オアジュ魔神の攻撃を受けたんだった。
チャイとアイは、あれから大丈夫だったんだろうか?
「チャイとアイは?」
周りを見回すと、元気な2匹の姿を確認できた。
「チャイ! アイ! 攻撃された後に問題は起きていないか?」
「「大丈夫」」
そうか、よかった。
「なんで、俺の攻撃が効かなかった? 魔神力と闇の魔力の攻撃だったのに!」
オアジュ魔神の言う通り、あの時は何があったんだろう?
助かって良かったが、攻撃は受けたよな?
「これだ」
フィオ神がドンと、オアジュ魔神の前に酒の入った瓶を置く。
その瓶を不審そうに見つめるオアジュ魔神。
俺も同じような視線を、フィオ神に向けてしまった。
でも、それはしょうがないと思う。
こんな時に酒だなんて。
「それが、どうしたんだ?」
まさか酔っていたからとか、言わないよな?
それは流石に無いよな。
「この酒は、闇の魔力が含まれている」
あぁ、そうらしいな。
テフォルテが「酒を造る時に、作り手が魔力を注ぐ」と言っていた。
それを聞いた農業隊が、興味を持っていたからな。
「正確にはこの酒には闇の魔力だけでなく魔神力も少量だが含まれている」
えっ、そうなのか?
「魔界は、闇の魔力と魔神力で包まれている。だから、魔界で作られる物には、闇の魔力と魔神力がどうしても少量入ってしまう。神の作った世界で作られた物に、少量の光の魔力と神力が含まれるのと同じだ。そして我々は魔界で作られた酒を飲んだ。そりゃもう、豪快に」
あぁ、確かに豪快に飲んだな。
テフォルテが最終的に樽を持ってくるぐらいには。
「魔神力を体内に入れた? ありえない、なぜ普通なんだ?」
普通?
「いや、オアジュ魔神も見ただろう? 我々が魔神力に酔っている姿を。初めて触れる力だったから、かなり酔ったよ」
……酔っている姿?
あれって、酒じゃなくて魔神力に酔っていたのか?
という事は俺も?
「まさか……いや、ありえない」
フィオ神の説明にオアジュ魔神が首を横に振り、眉間に皺を寄せている。
フィオ神を見ると、肩を竦めた。
ん~、分からない。
「話を戻すが、攻撃される前に、チャイとアイは魔界の酒を飲むことで魔神力を体内に入れた」
そうなるな。
頷くと、フィオ神が少し情けない表情をした。
「正直、俺も少し戸惑っているんだが、それがオアジュ魔神が放った、魔神力の攻撃を抑え込んだんだ。あの時、チャイとアイの内から溢れる魔神力を微かに感じた。一瞬だったから、言い切る事は出来ないが酒から感じた魔神力に似ていたと思う」
「それは、おかしくないか? 酒に含まれている魔神力は少量なんだろう? オアジュ魔神の攻撃を抑え込めるとは思えないのだが」
「それなんだが――」
「闇の魔力も同じ理由か? 俺はあの時、魔神力で包んだ闇の魔力を奴らにぶつけた。なのに何も起こらなかった」
オアジュ魔神が真剣な表情でフィオ神を見つめる。
「主が、この世界での闇の魔力のあり方を変化させた。だからオアジュ魔神が求める効果が出なくて当然なのだ。ここでは闇の魔力も、守るための力の1つだからな」
コアの言葉に、オアジュ魔神が目を見開いて俺を凝視する。
あ~、確かに変化させたな。
というか、もっと冷静になって周りを見る余裕を持った方がいいぞ。
この世界を包んでいる力に、闇の魔力も混ざっているんだから。
「特に闇の魔力は、既にこの世界を包む力の1つとなっている。その力をただぶつけるだけでは攻撃にもならない」
コアの言葉に仲間たちが頷くが、俺は首を傾げてしまった。
ぶつけるだけでは駄目なのか?
俺もぶつけているだけだと……違うか。
魔力を元に魔法を発動してるな。
攻撃するなら、魔力で魔法を発動させる必要があるという事か。
「魔神力酔いにプラスして闇の魔力酔いだったら、悲惨だっただろうな。主が闇の魔力をこの世界に流しておいてくれて助かったよ」
親玉さんが体を少し震わせて言う。
「もしかして皆、酒に魔神力が含まれていると知っていたのか?」
「作った世界の力を含むのは知っていたが、魔界でも同じだとは思わなかった。魔神力酔いを起こして気付いたんだ。これってもしかしてと」
コアの説明に、飛びトカゲが首を傾げる。
「だが、よく酔いだけで済んだよな。普通は反対の力を持つ我々には、魔神力は毒になるはずなのに」
そういえば、光の魔力を持つ者は闇の魔力は毒だと言っていたな。
闇の魔力を変化させたからその心配はなくなったが、魔神力は変化させてないから普通は毒なのか。
「それなんだが」
あっ、フィオ神の説明が途中だった。
「翔、この世界の力……じゃないな。核に何かしたか?」
「はっ?」
何かとは何?
慌てて首を振るが、不審げにフィオ神に見られる。
何もしてないって!
「主は、無意識で色々やらかすからなぁ」
「うっ」
コアの言葉に、色々思い出すが首を横に振って追い出す。
今回は冤罪だ。
絶対に、何もしていないと言い切れる!