作品タイトル不明
95.神と魔神
「なんで俺がこんな……」
オアジュ魔神が不貞腐れた表情で俺の前に座っている。
その隣では彼を見張るように、テフォルテが睨みをきかせている。
「すまないな。この馬鹿が、迷惑を掛けて」
「いや、特に迷惑はかけられていないから」
まてよ。
実害はなかったが、大騒ぎされたんだから迷惑を掛けられたのか?
でも、騒いだだけで被害は出なかったしな。
それに被害があったのは、オアジュ魔神の方だろう。
なんせ、お腹に穴が……あれ?
となると、迷惑を掛けたのは俺の方か?
謝るのは俺の方……って違うよな。
えっと……。
「一つ目、ごめん。お水ちょうだい」
思ったより酔ってるな。
やはり最後に飲んだ酒が、魔界の酒だったようだ。
美味しかったが、気を付けよう。
「主?」
あっ、忘れてた。
「もう、終わった事だから気にしなくていいから」
今は、真面目に考えられないし。
「ほらっ。こいつもそう言って――」
「黙れや、このボケが」
テフォルテが牙をむいてオアジュ魔神を威嚇する。
自分に向けられたものではないが、怖ろしい。
あの顔で、威嚇されたら速攻で土下座しそう。
「なんで、そんなにこんな奴……彼の肩を持つんだよ。その威嚇やめろ! 本気で怖いんだよ!」
へぇ。
魔神でもテフォルテの威嚇する姿は怖いんだ。
ちょっと腰が引けてるよな?
「主、どうぞ」
「ありがとう」
一つ目から受け取った水を飲む。
体がお酒で火照っているから、冷たい水が美味しい。
カンカン、カンカン。
ん?
なんの音だ?
「ロープ、今の音は聞こえたか?」
「初めて聞く音だよ。なんだろう?」
ロープも分からない音?
知っているとしたら……神だな。
「アイオン神、今の音は何か分かるか?」
「ん? 音? 何が?」
駄目だ。
完全に酔いつぶれてる。
「警報だ」
フィオ神を見ると、上空に視線を向けている。
「なんの警報だ?」
そんな物をつけた記憶はない。
俺の記憶は全くに当てにならないが、たぶんこれに関しては大丈夫だ。
何となく、そう思う!
「魔神が我々の世界に手を出したら、警報が鳴るようなシステムになっているんだ」
つまり、オアジュ魔神が来たから鳴ったのか。
……音が鳴るだけなら問題ないんだが。
「警報が鳴るだけなのか? どこかに連絡がいったりはしないのか?」
問題はそれだ。
「するな。確か……ふふっ」
えっ、なんで笑ったんだ?
いや、今はそれはどうでもいい。
「誰に連絡がいくんだ?」
「誰だったかな……治安部隊?」
ちあんぶたい?
何だっけ。
聞いたことがある言葉だな。
ちあん……治安?
「えっ。神は治安部隊なんて持っているのか?」
「あるぞ。と言っても、今も機能しているのかは不明だが」
フィオ神はオアジュ魔神を見る。
「魔界にもあるよな?」
「あ~、どうかな? かなり前に解体されたと聞いた気がするが」
オアジュ魔神が首を傾げる。
魔神の世界にもあったのか。
治安部隊ね。
何だろう、すごく嫌な予感がする。
今は機能していないというが、それは本当か?
機能していたら、治安部隊がくるのか?
「誰も来ないといい――」
「ここだな」
早くね?
声が聞こえた方へ視線を向ける。
アイオン神やフィオ神と同じ服を着ているので、神で間違いないようだ。
ただし、腰に剣を差しているので、少し物々しく見える。
そして、嫌な予感しかしない。
「アリアス神、なぜここに?」
アリアスと言う名前なのか?
厳つい雰囲気に合わない名前だな。
体つきは、フィオ神よりがっしりしている。
筋肉の付き方から、戦う事になれているように見える……気がする。
「なぜ? ここに魔神がいるのに、フィオ神は何をしているんだ?」
「飲んでいるが」
「魔神がいるんだぞ!」
「そうだな。ふふっ」
フィオ神も、かなり酔っているみたいだ。
「はっ、俺がここに来たから何なんだ?」
今までじっとしていたオアジュ魔神も立ち上がり、アリアス神を見て鼻で笑う。
それに苛立ったような表情を返すアリアス神。
うん、嫌な感じだ。
「何をしにここに来た。昔のように、乗っ取りに来たのか?」
乗っ取り?
そんな事をしてたのか?
「ふざけるな。それはお前たちだろうが!」
神も乗っ取りをしてたのか?
オアジュ魔神とアリアス神を交互に見る。
険悪だな。
「お前たち神が魔界に無断で入って来て、好き勝手していたんだろうが!」
それは駄目だな。
ちゃんと節度を持たないと。
「きさまら魔界の奴らも、我々から仲間を奪っただろうが!」
仲間を奪った?
それは駄目だ。
「ふざけるな! あいつ等は自分の意思でこちらに来たんだ!」
なんだ、そうなんだ。
早とちりする所だったな。
「神が魔神などに落ちるか!」
それは分からないだろう。
「いい加減に現実を見やがれ!」
「なんだと!」
嫌な予感が的中したな。
ここで、そんなくだらない喧嘩はしないで欲しいが。
これ、どうやって止めたらいいんだ?
口を挟むとヒートアップしそうなんだが。
「主? なぁにあれ」
酔って寝ていた子アリが、欠伸をしながら言い争いをしているアリアス神とオアジュ魔神を見る。
きっとうるさかったんだな。
気付けば、他の子達も起きて鬱陶しそうに睨みつけている。
「はた迷惑な喧嘩だな」
止める事も出来ず見ていると、肌に微かな痛みが走る。
何だろう、ピリピリするような。
腕をさするが、収まる気配がない。
全身を見ながら、周りを見て首を傾げる。
肌が何かに触れているわけでは無い。
なのに、ピリピリした感じが続いている。
気持ち悪い。
「この魔力、イライラする~」
寝ていたシュリが、急に起きると体をぶるぶると揺らした。
「うわっ。びっくりした」
ん?
魔力?
「奴ら、言葉に魔力を込めて攻撃しあっているな」
コアが、恐ろしげな表情で神と魔神を睨む。
「言葉に魔力を込めた?」
アリアス神とオアジュ魔神を見る。
いまだに続く言い争い。
「神が魔界にとって大切な魔石を壊したんだろうが!」
「あれは元々我々の下にあったモノだ!」
うん、どうでもいい。
それより言葉に魔力は込められるのか?
「あれ、痛みが増した?」
肌に感じていたピリピリした痛みが少し増している。
アリアス神とオアジュ魔神を見ると、彼らの周りに何か光のような物が見えた。
もしかしてあれが、魔力か?
このままじゃ、駄目な気がする。
止めないと。
「世界1つまともに作れないくせに、何が神だ!」
あれ、それって……。
「そんな事はない。世界の実は我々の力でしっかり育てられる!」
「嘘を吐くな。この世界は半分しかないではないか!」
やっぱり、この世界の事か。
「何を馬鹿……えっ? あれ? 何だ、この世界」
アリアス神はこの世界の事を知らないのか?
別に隠してないし、なにか修正する方法は無いかアイオン神に調べてもらっていたんだが。
「はっ。分かったか。神の力などたかが知れているという事が!」
いや、この世界は神ではなく見習いが作ったんだ。
だから神は関係ないんだが。
「どうなっているんだ? この世界は。フィオ神、何なんだここは」
「この世界については報告をあげていたはずだ、なぜ知らないのか。それが不思議なんだが?」
「私も何度も報告をしたぞ」
フィオ神に続きアイオン神にも言われ、アリアス神が 怯(ひる) む。
あれ?
アイオン神が酔いから醒めてる?
「そうだ、ちょうどいい。魔神が神より優れている事を証明してやるよ」
証明?
オアジュ魔神は何をするつもりだ?
彼を見ると、青い光に包まれていた。
「ロープ。オアジュ魔神が何かするみたいだけど」
「うん、しっかり監視しておく。やばいと思ったら、潰すから」
潰す?
あれ?
オアジュ魔神よりロープの方が強いのか?
「何をするつもりだ?」
「ふん。そこで指を銜えて見ておけ」
首を傾げるフィオ神に、高圧的な態度のオアジュ魔神。
微かに、フィオ神から不穏な風を感じた。
「よしっ」
それに気付かないオアジュ魔神はニヤリと笑って周りを見た。
「造成」
オアジュ魔神の言葉を耳にした瞬間、世界がぐらりと揺れた。