作品タイトル不明
94.酔っ払い
「オアジュ魔神は、いったい何をしているのだ!」
テフォルテの姿が消えてから数秒後に響き渡った怒鳴り声。
姿が見えないため、不思議な感覚だ。
「怒ってる~」
アイオン神を見ると「あはははっ」と楽しそうに机を叩いている。
彼女の酔っぱらっている姿を初めて見たが、笑い上戸らしい。
何を見ても笑っているな。
フィオ神は……あまり変化が無い。
と言うか、真顔で酒を飲み続けている。
酔わないタイプか?
「ふふっ」
えっ?
笑った?
フィオ神を見るが、変化は無い。
でも今……
「ふふっ」
こわっ。
真顔で笑ってる。
よしっ、見なかった事にしよう。
「なぜ怒っているんだ? 俺は助けに来たのに!」
「必要ない」
「えっ?」
「必要ないと言っている」
「……」
姿が見えないのに、どんな状況か分かるな。
オアジュ魔神には悪いが、特に問題は起きていないんだよな。
もっと友好的に来てくれたら、歓迎したのに。
「なんで!」
「楽しく飲んでいるだけなのに、なぜ助けが必要なんだ?」
楽しんでくれていたのか、それは良かった。
「飲んで?」
「そうだ」
「捕まっているんじゃ?」
「はっ? 捕まる? 何の話だ? 我は酒を取りに、何度も魔界に行っているぞ?」
そうそう。
最初は小瓶が10本、次に中瓶が50本。
最後には大樽を持ってきたもんな。
庭に置かれている俺が作った樽より大きな樽を見る。
凄い立派な樽だ。
見よう見まねで作った俺のとは少し違う。
……次に樽を作る時は、あれを目指そう。
お~!
「主、お呼びですか?」
「ん? いや、呼んで……」
上がっている右腕を見る。
えっと……どうやら、俺も酔ってるようだ?
「水をもらえるかな?」
「はい、すぐに」
水を取りに行く一つ目を見る。
おかしいな。
いつもと変わらない量なのに、いつもより酔っているような気がする。
魔界の酒には手を出してないぞ。
味見はしたけど……あれ?
さっき、どの樽から酒を取ったかな?
「誰にそんな馬鹿げたことを吹き込まれたんだ?」
「馬鹿げたって……急に神の管轄する世界に行くから」
「ここは、神が管轄している世界ではない。ロープと呼ばれる者が主導権を持っている世界だ」
そうそう、ここはロープがガッツリ守ってくれている世界です。
「ロープはとっても優秀なので、お任せしていれば安心なんだよなぁ」
「主……」
あれ?
ロープの声が聞こえたような。
今日のお祝いに来てたっけ?
「ロープ? 神ではないのか?」
「違うそうだ」
そうそう、ロープは……ロープは、
「大きな綺麗な魔石だな。そう言えば、今もしめ縄がついているのかな? カッコ良かったよな」
色がかっこよかったよな。
あれ?
ロープの姿をどうやって知ったんだっけ?
えっと……そうだ!
飛びトカゲが映像を見せてくれたんだった……たぶん。
「かっこいいと、思われてたんだ。最高」
そう、ロープは最高だ!
「そのロープと言う者は、敵じゃないのか?」
敵?
「違う。それにここには敵はいない」
「神の気配がある」
「あぁ、神が2柱いるからな」
「敵じゃないか!」
「敵ではないと言っているだろう。彼らは……主の友人と顔見知り?」
「はっ?」
オアジュ魔神の勢いがどんどんなくなってきているな。
あれなら、冷静に話が出来るか。
「主って……テフォルテは主を決めたのか?」
フィオ神が言っていたが、本当なのか?
「そうだ」
それって俺に断る権利はあるんだろうか?
「えっ、『かか』も?」
「そうみたいだね」
「同じ主か」
……えっ?
近くから聞こえた会話に、慌ててそちらを見る。
ケルベロスたちが、一つ目からナスのフライを大量に受け取っていた。
いや、肉を食え、肉を!
って、違う。
「アルト、カルト、キルト。主を決めるのが早すぎるだろう」
「えっ? そんな事ないよな?」
アルトの言葉に、他2匹が頷く。
「いやいや、もっと色々な事を見て学んでからの方が良いから! あとで後悔するぞ」
「後悔なんてしない!」
「そうそう」
キルトが断言するとカルトが当然とばかりに頷く。
「いや、だから生涯仕える……」
待てよ。
主を決めるというから生涯だと思い込んだけど、違うんじゃ。
例えば10年ぐらいで主を替えるとか。
「もちろん生涯仕える主だから、いっぱい悩んだ。でも2匹と話し合ったけど、あなた以上の存在はいないと思ったんだ。だから俺達の『主』になって欲しい。ちゃんとした主従関係を結びたい」
やっぱり生涯か。
俺が思っていた通り、重い関係だ。
「駄目?」
アルトがぐっと顔を近づけてくる。
キルトもカルトも祈るように見てくる。
「いや、駄目というか」
そんな風に見られたら断れない。
いや、ここは断って、この子達にもっと広い世界を経験してもらって。
「駄目じゃないなら、お願い」
「「お願い」」
うっ。
可愛い。
「分かった。ただし、まずはお試しな。お試しだからな!」
そう言えば俺は、妹からの「おねがい」も拒否出来なかったんだった。
母に「ちょろすぎる」と何度言われた事か。
ケルベロスたちの喜んでいる姿を見る。
まぁ、いいか。
それより、彼らの主になったとして何か変わるのか?
……変わらないよな?
それに、「ちゃんとした主従関係」とは何だろう?
「主、聞こえておるか?」
ん?
あっ、ごめん忘れてた!
「聞こえてるよ。オアジュ魔神は落ち着いたのか?」
「大丈夫だと思う。それとすまないが、オアジュ魔神の怪我を治してもらえないだろうか?」
「怪我? どうしたんだ?」
何かあったのか?
「さっき、オアジュ魔神が攻撃して反撃された時の怪我なのだが、我では治らないのだ」
あぁ、「守り」に反撃された時のか。
テフォルテで治せない怪我を治せるか分からないが。
「分かった、やってみるからここへ。ロープ、オアジュ魔神が入れるようにするにはどうすればいい?」
「入れるの?」
ロープの声の様子からちょっと嫌そうだな。
でも、怪我してるみたいだし。
「怪我してるしな」
「……分かった」
「ありがとう」
ふわりと上空が光ると、テフォルテの姿ともう1人の姿が視界に入った。
あれがオアジュ魔神か。
栗色の髪に銀色の瞳。
フィオ神と同じぐらいの年齢に見えるが、神や魔神は見た目の年齢は当てにならないからな。
服はアイオン神たちの服と少し違うが、黒か。
「……」
ははっ。
嫌そうだな。
「オアジュ魔神、迷惑を掛けているのだからしっかり挨拶ぐらいしたらどうだ」
「邪魔をする」
不貞腐れた子供みたいだな。
と言うか、かなり顔色が悪いな。
ん?
服が濡れてる?
「血?」
「すまない。我がヒールを掛けても全く治らないのだ、どうにか出来ないか? 血も止まらん」
上空から降りてきたテフォルテ。
オアジュ魔神の服をテフォルテの1匹が銜えているため、彼も引っ張られるようにして降りてきた。
近くに来て分かったが、顔色が真っ白だ。
この状態で、よくあんなに叫べたな。
オアジュ魔神に向かって手を翳すと、彼の体がびくりと震えるが無視。
「ヒール」
血が止まって治りますように。
オアジュ魔神の体が淡い光に包まれ、その光が彼の中に消えていく。
「何をした!」
光が消えた自分の体を見ながら、俺を睨むオアジュ魔神。
「何って、ヒールだろうが!」
テフォルテが前足でオアジュ魔神を殴ると、服を口に銜える。
「うわっ。テフォルテ! 服をめくるな」
「腹に空いていた穴が塞がっている。よかった。まったくあんな状態で暴れるとか、馬鹿なのか」
腹に空いてた穴?
そんなにひどかったのか?