軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

89.時の神です。

「そろそろ許してやってくれないか? ケルベロスたちは、この畑の大切さを知らなかったわけだしさ」

項垂れたチャイとケルベロス達に視線を向けると、ものすごく情けない表情で俺を見上げていた。

可愛いけど、さすがにちょっと可哀想。

「主が言うなら仕方ありませんね。今日はここまでにします。以後気を付けてください」

「「「「はい!」」」」

見事な調教じゃなくて、説教でもなくて……勉強時間だった。

ほぼ2時間、畑の歴史から重要性を語りつくされた。

いや、俺も知らないことがあったから、「凄いなぁ」と思ったところもあったけど、勢いがすごすぎた。

息継ぎはどこ? という勢いで話し続ける農業隊はすごい。

それにしても、話を聞いただけなのに、すごく疲れた。

俺も、とっとと逃げればよかった。

何度か、話の途中でそっと離れようとしたんだが、その度に農業隊にじっと見つめられ……負けた。

「疲れた」

「そうだな。ちょっと動いただけで、切られるかと思った」

ケルベロスたちが、地面に伏せをして項垂れている。

カルトは、話す元気もないようだ。

「チャイ、大丈夫か?」

コアが、座った状態のまま顎を地面につけてじっとしているチャイの様子を窺っている。

「大丈夫じゃない。話しながら、すごい殺気を送られた」

さっき?

……殺気?

ケルベロスたちも、悲壮な雰囲気で頷いているから、彼らも農業隊から殺気を送られたのだろう。

俺には無かったな。

よかったぁ。

農業隊から殺気を送られたら、失神する自信がある。

「あれは……」

ん?

コアを見ると、広場の隅をじっと見つめている。

何事かと確認すると、光が2ヶ所に集まってきている事に気付いた。

「アイオン神と誰だろうな?」

今は疲れているので、面倒事は遠慮したいんだが。

「だいじょうぶか~!」

「はっ?」

姿を見せた瞬間に、意味不明の事を言って走って来たアイオン神に呆れた表情を向けてしまう。

「様子を見たら、この世界全体の魔力が様変わりしていたから!」

この世界の魔力……あぁ、たぶんそれは。

「闇の魔力が世界に溢れたからだろう」

「なにっ!」

「それはどういう事だ?」

アイオン神以外の声に視線を向けると、初めて見る男性と視線が合った。

「…………」

二度見してしまうほど整った顔なんて、生まれて初めて見た。

男性の全身を見ると、アイオン神と同じ服だが腰に巻いている紐が銀色だった。

髪は、肩より少し下まであり毛先が赤いが全体は黒っぽい銀色。

少し不思議な色合いだ。

そして、何よりイケメンだ。

じゃなくて。

「どちら様ですか?」

とりあえず、誰なのか教えて欲しい。

「急に邪魔をしてすまない。時をつかさどる神でフィオと言う。よろしく頼む」

あぁ、アイオン神の話に何度か出てきた時の神か。

「どうも、あっ、……翔です」

やばいな。

とっさに、「主です」と言いそうになった。

「訊いてもいいだろうか?」

「俺で分かる事なら」

時の神が俺に訊くことなんてないと思うが。

そういえば、アイオン神はどこだ?

自分が連れて来ておいて、放置か?

広場を見渡す。

あぁ、コアに説教をされていたのか。

ケルベロスたちが、唖然と説教されるアイオン神を見つめているが大丈夫だ。

よくある事だから、すぐに慣れる。

「仲がいいんだな」

まさか、アイオン神とコアを見て言ってるのか?

フィオ神を見ると、本気で言ったようだ。

と言うか、フィオ神も背が高い。

190以上はあるよな。

……別にいいけど。

フィオ神から視線を逸らすと、コアの前で正座をしているアイオン神が視界に入った。

いったい何をしているんだ?

あれ?

いま、こっちを見たよな?

あっ、フィオ神を見たのか。

フィオ神についての説明かな?

あっ、コアがアイオン神に頭突きした。

大丈夫かな?

あの見た目なのに、アイオン神はすごく丈夫なんだよな。

ははっ、やっぱりコアの方が痛かったんだな。

「いつもあんな感じなのか?」

ん?

フィオ神を見ると、複雑そうな表情でアイオン神たちを見ている。

「そうですね。……参加します?」

「遠慮する」

返事が早かったな。

アイオン神たちに視線を戻すと、コアがアイオン神の額を前足でぺちぺち叩いていた。

なるほど。

「それで、質問なんだが」

忘れてた。

「どうぞ」

「以前より、世界に充満している魔力が濃い。しかも、魔力の質が変わっているように感じる。何かしたのか?」

魔力が濃い?

どういう事だろう?

「世界に流れている魔力は、俺から勝手に溢れているんです。だから、濃い原因は……量が多いのかな? 魔力の質は、たぶん俺から溢れる魔力が2種類になったからだと思います」

フィオ神を見ると、じっと俺を見ている。

いや、俺と言うより俺の周り……溢れている魔力かな?

「言われないと分からないほど、似ている魔力だな。1つは光の魔力の質を感じる。もう1つも光の魔力に似ているが、少し異なるようだ。これは、翔が作った魔力か?」

俺が作った魔力?

あぁ、新しい力の事か。

「これは俺が作ったわけじゃない。闇の魔力の認識を変えた事で生まれた魔力だ。つまり、闇の魔力だな」

「これが、闇の魔力?」

フィオ神がそっと俺の傍に手を伸ばす。

もしかして、見るだけじゃなく魔力にも触れられるのか?

「こんなに似ているなんて……」

目の前で手をパタパタされると、気になるものだな。

何となく、叩き落としたくなる。

いや、しないけど。

「あっ、すまない」

俺の表情に気付いたのか、フィオ神が手を引いた。

「いえ」

何だろう。

フィオ神は今まで会った2柱の神と違う。

落ち着きがあるからかな?

「参った」

コアから解放されたアイオン神が疲れた表情でこちらに来た。

「今日はまた、騒々しい登場の仕方だったな」

「すまない。近くまで来たら、知らない魔力を感じて慌ててしまった」

アイオン神が俺を見て、安心したように息を吐いた。

どうやら心配を掛けてしまったようだ。

とは言え、あの登場は無いだろう。

「それにしても驚いた。闇の魔力をコントロールしたのか?」

「コントロール?」

首を傾げると、アイオン神が不思議そうな表情をする。

「世界に流れている魔力に闇の魔力が混ざったと言っていただろう。だが、私の知っている闇の魔力とは異なる。だから、翔が何かしたのかと思ったんだが」

アイオン神の言葉に首を横に振る。

「闇の魔力はこうだという思い込みを無くしたら、誰でも同じ結果を出せると思う」

アイオン神に詳しく方法を伝える。

「マジで?」

「マジで」

アイオン神がフィオ神を見ると、彼は肩を竦めた。

「神のやる事だからな」

フィオ神の言葉に、大きくため息を吐くアイオン神。

「闇の魔力か。フィオ、どう思う?」

どう思う?

何か気になる事でもあるのか?

「そうだな。光の魔力に似すぎている。まるで……」

えっ、何?

そこで止めるのは、すっごく気になるんだけど!

じっとフィオ神を見るが、考え込んでしまって続きを言わない。

「なに――」

「ここだ~!!」

上空から響いた声に視線を向けると、空の一部が歪んでいた。

初めて見る現象に驚くが、何とか家の周辺に大きな結界を3重に張る。

「まさか、魔界?」

えっ、魔界?

フィオ神を見ると、驚愕の表情で空にできた歪みを見つめている。

「「「あ~!」」」

後ろから聞こえた声に、視線を向けるとケルベロスたちが空を見て尻尾を振っている。

どうやら本当に魔界から誰かがくるようだ。

えっと、これって大丈夫なのか?

「見つけた!」

歪みから、巨大な体がゆっくり現れる。

あっ、間違いなく魔界の者だ。

なんせ、ケルベロスたちを巨大化した姿だから間違いようがない。

ところで上空に現れたものは『とと』だろうか?

それとも『かか』なのだろうか?