作品タイトル不明
85.お祝いです!
お祝いだけどさ……。
コップに入っているワインを飲みながら、目の前のどんちゃん騒ぎにため息が出る。
「生まれた!」までは良かった。
そう、皆で喜びを分かち合ったと思う。
なのに、誰かが言いだしたお祝いと言う言葉に嫌な予感がした。
そしてやっぱり、ワインの樽が運び込まれ目の前の惨状に。
まぁ、良いけどね。
皆、楽しそうだし。
「主。どうぞ」
お皿を差し出す一つ目を見る。
この子は一つ目のリーダーだ。
今日は分かりやすく、腕に腕章が付いてありそこに「リーダー」と刺繍されている。
なぜ腕章なのかは、「かっこいいから」だそうだ。
「凄いなその刺繍」
腕章に施されている刺繍は、素人の俺が見ても分かるぐらいすごい。
木と花、それになぜか親玉さんが細部まで細かく縫われている。
「三つ目たちのこだわりが詰まっていますので」
そうなんだよな。
ただ服を作るのに飽きたのか、少し前から三つ目たちが刺繍にはまり出した。
最初は簡単なデザインが、襟や袖にちょっとだけ。
それがどんどん、大きく複雑になっていった。
最近の刺繍は、きっと芸術レベルだと思う。
「凄いよな」
空をパタパタと飛ぶ、天使のモモとスミレを見る。
真っ白なワンピース。
いや、あれはもうドレスだな。
女性のファッションには全く詳しくないので分からないが、スカートの下にレースが重ねられている。
それがスカートにボリュームを持たせているようだ。
そのスカートが、動くたびにふわふわしていて大変可愛らしい。
モモとスミレも気に入っているのか、スカートが揺れるようにわざわざ動いている。
そして、そのドレスの随所に施されている刺繍。
どんな糸を使っているのか分からないが、刺繍の部分が太陽の光できらきらしている。
「いつかウェディングドレスでも作り出しそうだよな」
……既にあったりして。
「ウェディングドレス? いえ、その前に主のフォーマルスーツを作ると言っていました」
えっ?
ウェディングドレスを作る前に、俺のフォーマルスーツ?
そうか、俺のフォーマルスーツか。
「えっ。なんで?」
当たり前みたいに言うからスルーするところだった。
フォーマルスーツなんて着ていく場所ないぞ?
「それぞれの種の王に会う時は、必要だと思いますが?」
何を言っているんだろう?
おうって何?
……いや、現実逃避をしている場合じゃないな。
「王に会う予定なんて、全くないぞ」
なんで不服そうに俺を見るんだ?
いや、会わないぞ。
と言うか、俺は……森の神だとか言われているんだっけ。
えっ、もしかして会う必要あるのか?
まさか……。
「会う必要があると思うか?」
「もちろん! 主の素晴らしさを世に知らしめて――」
「ストップ! そんな必要ないから。知らしめなくていいから」
宣教しようとしたり、知らしめようとしたり、一つ目は俺をどうしたいんだ?
いや、聞くのは止めよう。
知りたくない。
今まで気にしてなかったが、俺はここで森の神と呼ばれているんだよな。
……もしかして、すごい存在なのか?
皆がそう言っているのは、森を救ったからだと思っていたけど。
もしかして周りの人や獣人からもそう思われている可能性があるのか?
今までの感覚でいたけど、もしかしてそれだと駄目なのかな?
「主、どうしたんだ?」
「ん? 自分の立場を見つめ直してる」
「主は、森の神でこの世の救世主で、この世界の王」
……いつもなら大げさだと思うのに。
何だか今日はそう思えない。
「主?」
「ちゃんと考えないとな」
酔ってるのかもなぁ。
ん?
「こら! ケルベロスに酒を飲ませちゃ駄目だろう! 今日生まれたばかりだぞ!」
赤ちゃんじゃなくても、まだ子供だろうが!
いや、コアの子たちは8ヶ月ぐらいで飲んでたっけ?
……いやいや、ダメダメ。
「「「「「え~!」」」」」
「コア! 親玉さん! 水色! カレン! なんでクウヒまで? とにかく文句を言っても駄目!」
あれ?
クウヒの持っている……。
「クウヒが持っているのはジュースです。安心してください」
良かった。
あれ?
今、一つ目のリーダーに心を読まれた?
まぁ、いいか。
「「駄目?」」
「……ケルベロス。お前は今日生まれたばかりなんだから駄目。なんで、乗り気なんだ」
ここは魔界ではないから、心配なんだけど。
ケルベロスを見る。
2匹が、ワインが入ったお皿を見つめて、
「飲むな」
「「ちっ」」
「済まない。馬鹿2匹、いい加減にしろよ」
卵の中で見た関係は外に出ても変わらないらしい。
2匹が暴走気味と言うかちょっと残念な性格で、1匹がそれを窘める。
「苦労するな」
2匹の態度に、疲れ切っている1匹の頭を撫でる。
何というか、体が一緒だから離れて休憩出来ないんだよな。
ものすごく可哀そうだと思うのは、俺だけかな?
「あ~、俺も!」
「お前だけずるい!」
1匹のケルベロスの頭を撫でると、2匹が騒ぎだすので苦笑して手を伸ばそうとすると、
「あ゛~、てめえら、ほんとうに、いいかげんに、しろよ」
頭を撫でていた1匹の、ドスのきいた声にびくりと体が震える。
「「ひっ」」
溢れる闇の魔力の不穏な威圧感に、2匹の顔が怯えたものに変わる。
うん、さすが魔界のケルベロス。
子供なのに、威圧感がすごい。
「おぉ、すごいな。この威圧感」
飛びトカゲが楽しそうに、2匹を威嚇しているケルベロスを見る。
毛糸玉も近くに寄って来て、様子を見ている。
威圧感……なぜ、効いてないんだ?
「飛びトカゲも、毛糸玉も、この威圧感に何も感じないのか?」
「感じるが、俺たちに向いてないしな」
「そうそう」
飛びトカゲのと毛糸玉の言葉に、確かにと頷きそうになるが傍でもすごい感じるぞ?
「まぁ、落ち着け。そう言えば名前はどうするんだ?」
「「「名前は……」」」
ケルベロスたちは、微妙は表情でお互いの顔を見つめている。
「名前に何かあるのか?」
ばつが悪い表情で、飛びトカゲがケルベロスたち3匹を見比べる。
「卵が盗まれた翌日に『とと』と『かか』から、名前をもらう予定だったんだ」
あ~、それは。
「悪い、嫌な事を思い出させてしまったな。『とと』と『かか』には、これから付けて貰えばいいよ」
飛びトカゲの言葉に、なぜか不服そうな3匹。
それに首を傾げると、3匹がじっと俺を見る。
ん?
「名前を頂戴」
「名前が欲しい」
「名前……」
えっ、俺が付けるの?
いや、後々問題になりそうだからものすごく断りたい。
3匹を窺うと、バチッと視線が合ってしまう。
何だろう、視線からすごく圧を感じる。
「両親が、心を込めて決めた名前があると思うから。さすがに無理だよ」
ケルベロスたちの名前は、きっと『とと』と『かか』が決めた名前が一番だ。
残念な表情をされても、駄目なものは駄目。
絶対に駄目!
「本当の名前がつくまでの、仮の名前だったらいいのでは?」
まとめ役のケルベロスの言葉に、確かにと頷く。
仮だったら問題ないか。
……本当に、問題ないか?
「「「主、よろしく」」」
えっ、頷いただけなんだが、もしかして決定?
まぁ、仮だし。
……『とと』と『かか』も許してくれるかな。
ーどこかの場所でー
「見つけたー!」