作品タイトル不明
84.誕生!
核から直接に闇の魔力が供給されしばらくすると、点滅が止まった。
何が起こっても対処が出来るように、傍でじっと卵を観察する。
……あれ?
点滅が終ってから、数分経ったが何も起こらない。
「……なんで、何も起こらないんだ? 生まれてくるわけじゃないのか?」
まさか、問題が起きたのか?
中は……点滅が終ったのによく見えないな。
薄っすらとは見えるんだが……動いているようだから、生きているのは確かなんだけど。
「何かあったのかな?」
俺の言葉に、首を傾げる飛びトカゲ。
コアもチャイも同じように、首を傾げている。
「本来、ケルベロスの卵は魔界で育つ。魔界の環境と此処は大きく異なるから、何が起きてもおかしくない」
そうだよな。
コアの言う通り。
本来は魔界で、安全に生まれるはずだったんだよな。
それが、神たちのせいで魔界から引き離されて、こんな場所で生まれる事になるなんてな。
「あっ、ヒビが入った!」
頭上にいる孫蜘蛛が、卵の変化に声をあげる。
慌てて卵を見ると、小さなヒビが卵にゆっくり広がっていくのが見えた。
「生まれるみたいだな」
飛びトカゲの声が、少し興奮しているのが分かる。
最初は警戒していたのに、いつの間にか見守っていたから生まれるのは嬉しいんだろう。
「無事に生まれろよ」
卵を見ながら手を握って祈る。
環境が違いすぎるのがどうしても気になる。
ピシッピシッピシッ。
細かいヒビが、卵にどんどん刻まれていく。
途中で少し大きなヒビが入ると、パラっと卵の欠片がベビーベッドに落ちる。
欠片が落ちた部分を見ると、卵の中からふわりと黒い靄が流れてきた。
「ん?」
なんだ?
何か不穏な気配を感じるような……?
殻の欠けた部分を見る。
ゆっくりとだが、今も黒い靄を出し続けている。
そっと手を伸ばして、その黒い靄に触れる。
「……これは」
黒い靄に、何とも言い表せない不快なものを感じた。
ただ、なぜかその黒い靄に不快とは違うものも感じた。
それに首を傾げる。
何だろう?
何だか、馴染みがある……俺の中にある闇の魔力が反応しているのか?
ビシッ。
今までとは異なる音に、思考を止めて卵を見る。
卵には大きなヒビが刻まれ、パラパラと落ちる卵の欠片の量が増えていた。
それと同時に、殻の欠けた部分から溢れる黒い靄の量も増えている。
すごく嫌な予感がする。
「一つ目、子供たちを避難させてくれ。みんなも」
俺の言葉に一つ目たちだけではなく、親玉さんやシュリ。
ふわふわたちも同時に動き出す。
頭上からも微かに音が聞こえるので、子蜘蛛たちも避難してくれているのだろう。
ただ、間に合うか不安だ。
ビシッ、ビシッ。
不意に爆発するイメージが頭に浮かぶ。
なぜそんなイメージが浮かんだのかは、その時は気になる事は無かった。
ただ、手を卵に向け闇の魔力で結界を張った。
バシッ。
結界の中で卵が爆発した。
「爆発……」
心臓がバクバクと凄い速さで動いているのが分かる。
結界の中は黒い靄で覆われてしまって、見えない。
そのせいで、嫌な想像が止まってくれない。
挨拶すると、前足で答えてくれたケルベロス。
最初の頃の印象とはかなり変わり、可愛くなった。
皆には、目を心配されたけど。
……大丈夫だよな?
「ごほっ。ごほっ」
あっ、声が!
「うわっ。真っ暗だ」
「どうなっているんだ? うわ、殻が!」
不意に聞こえた、聞きなれない声。
嫌な想像が消え、ドキドキと心臓が鳴る。
そっと結界に触れると、パリンと割れる結界。
「「「おっ」」」
聞こえる3つの声。
「生まれたのですか?」
後ろから誰かの声が聞こえた。
振り向くと、大きな姿になって桜と太陽を脇に抱えている一つ目が、俺を見つめていた。
抱えられている桜と太陽も、期待に満ちた目で俺を見る。
視線を元に戻すと、なぜかじたばたしているケルベロスたちの姿があった。
よく見ると、毛に絡まった卵の殻を取るのに必死のようだ。
その姿にクスリと笑ってしまう。
それが聞こえたのか、3匹がぱっとこちらを見た。
「無事に生まれたんだな、よかった」
俺の言葉が聞こえたのか、後ろからわっと歓声が上がる。
「生まれた~! 皆、生まれたよ~」
桜の声が、リビングに響く。
その声に、びくりと体を震わせるケルベロスの……どう見ても赤ちゃんの大きさではないな。
卵の中で成長してたから、子供かな?
バタバタ、バタバタ。
桜の声が聞こえたのか、慌てた音があちこちで聞こえてくる。
少しするとリビングに、仲間たちが駆け込んできた。
ケルベロスたちは、仲間の勢いにかなり驚いているようだ。
「おめでとう」
「本当に生まれてる~」
「無事だ!」
リビングに入って来た仲間は、まずケルベロスの下へきて声を掛けていく。
それに、驚きながらも少し照れているのが分かる。
やっぱり、最初の頃に比べてかなり表情が優しくなったよな。
「可愛いな」
「「「えっ?」」」
人で言うと、三つ子?
声や仕草がシンクロしている。
可愛いなぁと、3匹に手を伸ばす。
順番に頭を撫でると、不思議そうにその手を見つめる3匹。
その態度も3匹同じなので、声をあげて笑ってしまう。
やばい、本当に可愛い。
「あの……」
「どうしたんだ?」
戸惑ったように声を掛けてきたケルベロスに、首を傾げる。
そう言えば、今までは卵から栄養をもらっていただろうけど、これからは……どう見ても親のミルクが必要には見えないな。
でも、もしかしてという事があるからな。
「食事はミルクでいいのか?」
正直、ミルクはない。
どうしようかな?
ケルベロスたちを見ると、きょとんした顔を3匹ともがしていた。
「生まれてすぐだから、食事はミルクかなと思ったんだけど」
3匹が首を横に振る。
「じゃあ、食事は何を用意すればよろしいですか?」
ケルベロスたちと俺の間に、ぬっとあらわれた一つ目。
話し方からリーダーかな?
いや、ちょっとずれている子の方かもしれない。
リーダーだったら、いきなり間に割り込むことは無いだろう。
「……肉かな?」
「肉だよな?」
「肉で」
あれ?
ここはバラバラなんだ。
残念。
と言うより、ケルベロスたちは一つ目に腰が引けてないか?
……ケルベロスは魔界の生き物だよな?
「どうしたんだ? この一つ目は、家の事を任せている頼れる存在で、怖くないぞ」
「その通り」
腰に手を当て胸を張る一つ目の姿に、相変わらずだなぁと笑ってしまう。
ケルベロスたちに視線を向けると、3匹がちょっと困った表情をしていた。
ん~、これからゆっくり慣れていけばいいか。
「えっと、肉が主食か。すぐに食べられそうか?」
俺の言葉に嬉しそうに頷く3匹。
生まれてすぐに食べられるんだ。
凄いな。
それにしても、肉か。
それならコアたちと同じだから問題ないな。
ストックもそれなりにあるし。
あっ、ケルベロスの顔は3つあるけど体は1つだよな。
食事は、3匹分? 1匹分?
「確認したいんだが。食べる量は3匹分? それとも1匹分?」
ケルベロスたちが首を傾げる。
おぉ、3匹とも右だ。
「1匹分?」
「3匹分?」
「……?」
えっと、つまり分からないのかな?
「分かりました」
一つ目が、ケルベロスの返答に頷くとキッチンへと向かった。
いや、今ので何が分かったんだろう?
……まぁ、一つ目だしな。
大丈夫だろう。