作品タイトル不明
83.気付いたら、第2段階!
ーケルベロス視点ー
あ~、気持ちいいぃ。
2種類の魔力が卵に注がれるようになってから、格段に居心地がよくなった。
もう何と言うか、このままここにずっといるのもいいかもしれない。
ふわふわしてて、ぽかぽかで……。
そう言えば、「とと」と「かか」は元気かな?
いきなり居なくなって、心配してるかもな~。
うん、心配してるだろうなぁ。
でも、この気持ちいい世界を手放したくないなぁ。
もう少しだけ、このままで……。
「おい。起きろ! 起きろって!」
うるさい。
俺は今、ふわふわしながら重要な事を考え中なんだから。
「お~い! 卵の様子がおかしいぞ」
「なに!?」
この居心地のいい場所を取り上げる奴は許さん!
「うぉ……いきなり起きるなよ!」
声に視線を向けると、目を吊り上げて怒っている仲間の姿が目に入る。
が、そんな事はどうでもいい。
卵の様子がおかしいだと。
「何が起こったんだ?」
「点滅してる」
点滅?
卵を見ると、確かに色々な色に変化しながら点滅をしている。
確かこれって……生まれる前の第2段階だ。
第1段階は、卵と俺たちの急成長……ん?
成長してる!
いつの間に?
「なぁ、生まれたいと思ったか?」
俺が2匹に視線を向けると、2匹とも首を横に振った。
俺も思っていない。
なのに、なぜか卵は割れる準備を始めてしまった。
「俺たちが生まれたいと願わない限り、卵は割れないはずだよな?」
仲間の言葉に頷く。
実は、卵は既にいつ割れても問題ない状態になっていた。
だが、この世界で生まれた時の影響が心配なので、しばらくはこの状態をキープしようと3匹で話し合った。
なんせ、魔界以外でケルベロスの卵が孵った事は無いからな。
決して、居心地がいいから生まれるのを先延ばしにしたわけではない!
「この居心地のいい場所が無くなるのか?」
「そんな! なんの為に言い訳を考えたと思っているんだ!」
2匹の言葉にため息が出る。
それ、考えたのは俺だし。
あっ、違う!
居心地ではなく、周りに影響があるからだ!
うっかり……違う、違う。
とにかく「とと」と「かか」に訊かれる前に、しっかり話を合わせておかないと。
わざと生まれるのを遅らせたなんて事がばれたら……。
「2匹とも、影響を考えてだ」
「「あっ、そうだった」」
大丈夫か?
心配だな。
「それにしても、俺たちが望んでいないのになんで卵は割れそうになっているんだ?」
第2段階の点滅が起こってしまえば、止めるのは不可能。
次は、大量の魔力を消費しながら割れるのを待つだけだ。
何が起こったんだ?
「そう言えば、主が願っていたな」
無事に生まれてこいとか、早く生まれろよ~と。
まさか、えっ。
本当にまさか、主の気持ちに卵が応えたのか?
中にいる俺たちの意思を無視して?
「でも、大丈夫なのか?」
仲間の声に視線を向けると、耳を寝かせて不安そうな表情。
それに首を傾げてしまう。
何が心配なんだろうか?
「第3段階では、かなりの量の闇の魔力が必要となる。用意をしているようには見えないんだけど」
慌てて、近くにある棚を見る。
主は闇の魔力を魔石に閉じ込めていた。
なので、大量の魔石が用意されていなければならないのだが……無い。
「なぁ、第2段階で止まった場合はどうなるんだ?」
「「……」」
そんな事は、説明されていない。
魔界にいる場合は、周りから自然と魔力が卵に吸収される。
だから、そんな心配をする必要はなかった。
でも今、周りにあるのは光の魔力だ。
……たぶん、光の魔力だけでは卵を割る事は出来ないと思う。
「途中で止まったら……」
卵には割れるためのエネルギーが、かなり溜まっている。
それが行き場所を無くしたらどうなる?
「卵の中で魔力が暴走?」
俺の言葉に、他の2匹がビクリと震える。
体を共有しているので、2匹の感じている不安がダイレクトに伝わってくる。
俺の不安もきっと伝わっているんだろうな。
主を見る。
ん?
何か慌てている様子だな。
何かあったのか?
「なんだか、様子がおかしいな」
仲間の言葉に頷き、じっと主を見る。
「ん?」
何をしようとしているんだ?
「うわっ。何か出てきた」
目の前で主の手の中に、鮮やかな青色をした何かが現れた。
石のように見えるが、何だろう?
「綺麗だな。何だこれ」
1匹が興味を惹かれて主に近付くので、俺たち2匹も引っ張られてしまう。
今回は俺も興味があるので、素直に引っ張られるが意見が合わないと大変なんだよな。
「なんだと思う?」
「さぁ?」
「綺麗だな」
3匹で主の手元に近付き、じっと見る。
卵の殻が邪魔だが、仕方ない。
ん?
手の中の物を握って、祈っているのか?
主の行動に3匹で首を傾げる。
いったい、何をしているのか。
「闇の魔力だ!」
主の声が卵の中に響く。
そう言えば、第1段階に入ると外の音が遮断されるんだったな。
……主の声が、なぜか届いたけど。
まぁ、主みたいな規格外の存在だと、そんな事もあるだろう。
……ん?
闇の魔力?
主の手元を見る。
次の瞬間、なぜか主の頭がガクッと前に倒れた。
心配だが、それよりも……。
「「「……」」」
3匹で、主の手の中にある鮮やかな青色をした何かから、闇の魔力が溢れ出すのを見た。
前足で目をこする。
もう一度見ても、やはり闇の魔力が止まることなく溢れ出している。
闇の魔力を作る事が出来るのは、核だ。
「核か?」
俺の言葉に、2匹が首を横に振る。
「手の中にあるんだぞ? 外に核が出るわけないだろう!」
それもそうだな。
だったら、あれは何だ?
魔石とは違う。
「……核じゃないとしたら……」
じっと、溢れ出した闇の魔力を見ていると、卵にスーッと吸収されてきた。
少し不安になったが、すぐにそれが杞憂だと気付く。
「なんだこれ! すごい、今までより遥かに闇の魔力が強くなってる!」
仲間2匹が、届いた闇の魔力の強さに驚いて声をあげている。
俺は驚いて声が出なかった。
まさか、魔界以外でこんな綺麗な闇の魔力が手に入るなんて。
「体があったかい」
体の隅々に、闇の魔力が行き渡るのが感じられる。
足先から尻尾の先まで、じんわりと熱が伝わっていく。
「ん? もう1つの魔力も気持ちいい」
もう1つ?
あっ、主の魔力だ。
闇の魔力と同じように大量に卵に注がれているのか、俺たちにも伝わってくる。
不思議だなぁ。
相反する力のはずなのに、よく似ている気がする。
「闇の魔力も優しいんだな」
「「そうだな」」
ところで、何か忘れている気がする。
何だっけ?
「問題なく卵は割れそうだな」
「あぁ~、この気持ちのいい世界からお別れか」
2匹の言葉を聞きながら、卵の様子を見る。
第3段階に入っているので点滅は既に止まっている。
卵の殻に前足で触れる。
そうとうな量の2つの魔力が渦巻いているのが分かる。
本当に、生まれるんだな。
「魔界以外で生まれる、初のケルベロスだな」
……そうだ!
ここは魔界じゃない。
魔界で生まれた場合、卵の溜まった魔力が暴風となって荒れ狂う。
皆はそれを知っているから、第2段階が始まったら卵から離れると言っていた。
「あ゛~、駄目だ! 割れちゃ駄目! 割れちゃ駄目!」
俺の焦り様に、びくりとして震える2匹。
「どうしたんだ?」
「卵に溜まった魔力が荒れ狂うって『かか』が言っていただろうが!」
俺の言葉に2匹の表情が焦り出す。
思い出したようだ。
「どうしよう。このままじゃ、皆が怪我を!」
卵の周辺にいる者たちに視線を向ける。
ゴーレムたちや人の子? らしき者たちは卵を拭いて綺麗にしてくれた。
神獣たちは何度も様子を見ては、敵のはずなのに撫でてくれた。
他の者たちだって、声を掛けてくれたり、「暑いだろう」と風を送ってくれたりした。
卵の中は一定の温度なので、意味はなかったが。
そんな彼らが、卵から溢れた魔力で怪我をしたら!
「ヒビが入った」
仲間の言葉に、慌てて卵の殻に前足で触れる。
どうすればいいのかなんて、分からない。
「とと」も「かか」も、そんな話はしてくれなかった。
だから、何をしたらいいのか全く分からない。
でも、諦めたくない。
「「「皆を傷つけたくない!」」」