作品タイトル不明
81.急成長
ん?
何だろう……なんだか騒がしいな。
欠伸をしながらベッドから起き上がる。
いつもは静かな家の中が、ちょっとバタバタと慌ただしい。
音の出所を探ると、1階でみんなが動き回っているようだ。
「何かあったのか?」
ベッドから降りて、用意されている服を着る。
体をほぐすようにストレッチを終わらせて、1階へ降りるため扉へ向かった。
「主~! 起きて~!」
バンッ。
「ごほっ」
「あれ?」
扉を開けようとした瞬間、腹に飛び込んできた一つ目。
一つ目は岩だ。
それが思いっきり腹に飛び込んできたらどうなるか。
一瞬、意識が飛びそうになった。
と言うか、ここまで綺麗に決まるか?
べた過ぎるだろう!
「え~っと……ど、どうしよう。あの……」
お腹を抱えて蹲って衝撃に耐えていると、肩をツンツンと突かれる。
視線をあげて一つ目を見ると、困った様子で廊下と俺を交互に見ていた。
「ヒール」
魔法で痛みを癒すと、ため息を吐く。
一つ目を見ると、不安そうに俺の様子を窺っていた。
「どうした?」
「卵がいつもと違うから、主を起こそうと思って……。ごめんなさい。痛かったよね?」
一つ目の視線が俺のお腹に向く。
「魔法で癒したから痛くないよ。大丈夫」
「そっか、よかった。主の魔法はすごいもんね」
ホッとした様子の一つ目に苦笑が浮かぶ。
「また、怒られるところだった」
「また?」
一つ目の言葉に首を傾げると、何を思い出したのか自分を抱きしめて腕をこする一つ目。
あまりの人間ぽい仕草に笑ってしまう。
「笑い事じゃないの! リーダーが怒ると怖いんだよ!」
一つ目のリーダーが怖い?
良く部屋に訪ねてきてくれる子だよな。
ちょっとストー……いやいや、身の回りの事に良く気付く子だ。
あの子、怒らせると怖いのか。
気を付けよう。
そう言えば、卵がどうとか言っていたな。
卵という事はケルベロスだよな?
「ケルベロスに何かあったのか?」
「そうそう! 光って、音がずっと出てるんだ。聞こえるでしょ?」
音か。
残念ながら俺には聞こえないんだよな。
「ここまで音が届いているんだな。俺には聞こえないけど」
「微かにだけど、ここまで聞こえてるよ。本当に主には聞こえないの?」
一つ目の言葉に頷くと、耳を澄ます。
やはり何も聞こえない。
「1階に行こう」
音は確か、皆に不快な印象を与えていたな。
なり続けるようなら、止める方法を探さないと。
それに、光っているとも言っている。
何が起きているんだ?
「おはよう。何が……えっ?」
リビングに入って挨拶をすると、視線をケルベロスが寝ているベビーベッドへ向ける。
見えたのは、昨日見た卵より3倍に大きくなったケルベロスの卵。
一つ目が言っていたように、光ってはいなかったが成長していた。
「主、どうなっているか分かるか?」
「いや、ぜんぜん」
飛びトカゲの戸惑った声に、首を横にする。
「音が止んだな」
声に視線を向けると、成長した卵の傍にコアとチャイがいた。
あぁ、仲直りしたんだな。
今日のチャイは、いつも以上にコアにべったりだな。
「主が部屋に入って来た瞬間に、音が止んだのには意味があるのか? 前もそうだった」
そうなんだ。
チャイの奴、話を聞いていないな。
「主を呼ぶ音だったりして」
俺を呼ぶ?
だが、俺は聞こえないぞ?
頭上から声が聞こえたので見ると、子蜘蛛たちが上からケルベロスの卵を見下ろしていた。
「親を呼ぶ感覚かな?」
それは無いんじゃないか?
親じゃないし。
子蜘蛛たちの会話に首を横に振る。
「あるかも?」
ないない。
「主? 触ってみてくれ」
「どうした?」
飛びトカゲの傍によって卵に手を当てる。
じんわりと伝わってくる温かさ。
昨日までは、ひんやりとしていたのに。
「温かいな」
「あぁ、成長したら温かくなっていた」
「そうか」
卵を覗き込むと、成長したケルベロスの姿が見えた。
3匹とも起きて、こちらを見上げている。
「おはよう」
聞こえるかな?
じっと見ていると、前足がピョンと上がった。
どうやら成長しても声は届いているらしい。
「成長したんだな。昨日より大きくなってるよ」
卵は3倍だったけど、ケルベロスは……1.5倍ぐらいか?
卵が割れるまで、もっと成長するのかな?
「あれ?」
ケルベロスの卵の傍にある魔石を見ると、溢れている黒い光が増えていた。
「吸収のスピードが上がってるのか?」
棚にある新しい魔石を持ってくる。
魔石を2個置いても問題ないかな?
ピシピシッ。
「ん?」
割れるような音が聞こえたので、卵に視線を向ける。
「主、魔石が!」
あっ、飛びトカゲが言っていた魔石の最期か。
ピシピシッ。
魔石を見ると、白い光に包まれだしている事に気付く。
これが、この魔石の最期なんだ。
ていうか、最後弾けるって言ってなかったっけ?
慌てて顔の前に腕を持ってくる。
バシッ。
あれ?
弾けてないよな?
「主、怪我は?」
飛びトカゲがベビーベッドの中を覗き込む。
俺も一緒に覗き込むが、魔石の痕跡は残っていない。
見事に消えていた。
「大丈夫だ。弾けなかったよな?」
「そうだな。なぜだろうな?」
「なんでだろうな? でも、今のが最後なら怪我の心配はないな」
手に持っていた魔石を、ケルベロスの卵の傍に置く。
すぐにピシリと魔石にヒビが入り、黒い光が卵に吸収され始めた。
「やっぱり吸収する量が増えているな」
棚を見る。
魔石が3個。
足りない可能性があるな。
今から作りに行こう。
「あれ?」
俺、昨日の夜に闇の魔力を変化させたよな。
もしかしてケルベロスに必要な力を再現出来ないんじゃ……。
「あっ、元に戻せばいいのか」
そうだよ。
元に戻せばいいだけだ。
ん? 待った。
光は、前の力が詰まった魔石で闇の魔力を補っているが、影響を受けていないな。
という事は、受け取る側の意向が反映されるのか?
光に訊いてみるか。
何か分かるかもしれない。
リビングを見回すと、少し離れた場所から不安そうにケルベロスの卵を見ていた。
光が闇の力を必要としている事は、ここで言うべきじゃないな。
昨日は無断でコアに話してしまって、後から考えて後悔したんだよな。
ちゃんと許可を取るべきだったと。
「光、おはよう。少し聞きたい事があるんだけどいいか?」
光の頷くのを確認してから、2人でリビングを出る。
何処で話そうかな?
この家は、秘密の話をするのには不向きだよな。
天井を見る。
小さめの子蜘蛛や子アリぐらいなら自由に行き来出来る梁が家中に張り巡らされている。
まぁ、大切な事は許可がないと言いふらさない、いい子たちだけど。
階段前に来ると足を止め、光に向きなおる。
光は不思議そうに首を傾げている。
「まずは謝らせてくれ。コアに光の事を話してしまった。ごめん」
俺の言葉に驚いた表情をする光。
やはり、無断で話したのは駄目だったよな。
くいっと服を引っ張られるので、視線を光に向けると首を横に振っていた。
「許してくれるか?」
今度は勢いよく何度も頷く光。
そんなに頭を振ったら、駄目だろう。
「光、ストップ。ストップ。頭を振り過ぎると、しんどくなるぞ」
たぶん。
よく知らないけど、良い事は無いだろう。
「許してくれてありがとう。それと訊きたい事があるんだ。魔石から闇の魔力を体に入れているだろう?」
光を見ると頷いた。
「魔石から力が入った時に、違和感などを覚えた事は?」
首を横に振る光。
違和感はないのか。
光が首を傾げる。
「光の中の闇の魔力とあまりにかけ離れている力を入れているから、問題が起こってないか聞きたかったんだ」
しばらく考えた光は、親指と人差し指で丸を作った。
たぶん大丈夫と伝えたいんだろうな。
光の頭を撫でると、ふふっと楽しそうに笑みを見せる。
そう言えば、いつからか柔らかく笑うようになったよな。
声が出るようになるまで、あと少しかな。