作品タイトル不明
80.あれ?できた?
光を部屋に送りとどけ、自分の部屋に戻ってくると小さくため息を吐く。
まさか、光があんな考えをするなんて思いつきもしなかった。
話をしている時に、周りにもっと注意を払うべきだったな。
あ~でも、あの時の俺は……。
「余裕がなかったからなぁ」
自分の事で、いっぱいいっぱいだった。
顔を両手で覆う。
余裕がない時は、色々と見逃しがちになる。
あ~、魔力が不安定になってきている。
落ち着かないと。
「ふ~」
前までは、感情のままに叫んでも魔力にそれほど影響は出なかった。
多少の揺れはあったんだろうけど、気になる事は無かった。
なのに、今は俺の感情につられて大きく魔力が暴れてしまう。
どうして急にこんな事に……。
「くそっ、誰のせい……」
落ち着け。
魔力が暴風のように、内側で暴れ回っているのを感じる。
これはやばい。
ゆっくり深呼吸。
それにしても、今の考え方は闇の魔力の影響だよな。
感情の起伏が、いつもの俺とは異なる。
光に話を聞くだけでは、俺の中の闇の魔力の認識は変わらないらしい。
「まずは闇の魔力の認識を変えないとな」
これは、すぐに改めた方がいいよな。
ソファに座って、深呼吸を繰り返し目を閉じる。
光の力を思い出す。
とても温かく優しい力だった。
そこには、闇の魔力と光の魔力の違いなど無く、ただただ温かく優しくて……俺の中の力も温かく優しく出来るはずだ……。
「あっ」
体の中がぽかぽかとしてくるのが分かった。
その温かさに意識を集中する。
闇の魔力は、この温かさを持つことが出来るんだ。
恐れる事は無い。
闇の魔力が俺や仲間、森を攻撃することは無い。
闇の魔力も元々持っている魔力も、俺が持つ守りの力だ。
「くっ」
体の内側で、魔力が大きく揺れだした事に気付く。
これまでだと、魔力が大きく揺れると危険を感じたが、今それは無い。
大きく揺れる魔力を感じていると、その中に微かな反発するような力を感じた。
「俺の力だ。俺が守る力だと決めたのだから、全ての力は守る力なんだよ」
内側で揺れ暴れていた魔力が、ふわりと揺れ動いた。
「ん?」
急に変化した魔力に少し戸惑う。
これって、成功したのか?
あまりの呆気なさに、どうしていいのか迷う。
「えっと……」
魔力をもう一度、感じるために胸に手を置く。
すぐにふわりと、魔力に触れる事が出来た。
……あれ?
何だか、今までと違う。
「なんだろう、触れているような気が……」
気のせいか?
内側にある魔力に、手を伸ばすようなイメージを作る。
ぎゅっ。
……握った。
魔力を握っている。
感じているのではなく、握っている。
「あ~、俺は今度は何をしてしまったんだ?」
握った魔力を解放すると、スーッと他の魔力と混ざり合った。
あれ?
何だか魔力をすごく身近に感じる。
まるで、俺に寄り添っているような……?
「寄り添う? 今までは……ただそこにある力って感じだったよな」
まぁ、いいか。
成功したみたいだし。
明日、確かめてみよう。
そうだ。
明日、もう一度内側に入って核の状態を見てみよう。
さっき、取り出したから何か変化が起きているかもしれない。
力も変化したみたいだしな。
コンコン。
「主、今いいか?」
ん?
この声はコアか?
「どうぞ」
部屋に入って来たコアに視線を向けると、なぜか扉を開けた状態で俺をじっと見つめている。
「どうしたんだ?」
俺の疑問に首を傾げるコア。
「いや、何か……少し違うような気が」
少し違う?
もしかして、力の変化か?
俺は実感できてないが、魔力の変化を感じているんだろうか?
「闇の魔力を変化させたからかもしれない」
「はっ?」
俺の言葉に、眉間に皺を寄せたコア。
そのいつもよりちょっと怖い顔に、なんとなく姿勢を正す。
別に悪い事はしてないよな?
「どういう事だ? 闇の魔力を変化?」
「……コア、魔力の圧がすごいから」
コアの魔力が部屋に溢れ、俺の上にのしかかってくる。
凄いな、濃くて重い。
「あぁ、すまない。しかし、どういう事だ?」
「光に教えてもらったんだよ。闇の魔力が負の影響を及ぼすのは、ただの思い込みだって」
コアのきょとんとした表情なんて、すごいレアだな。
「光がなぜ?」
あれ?
光が両方の魔力を持っている事は知っているよな?
俺は誰にも言っていないが……。
部屋の天井へ視線を向けると、孫蜘蛛たちと孫アリたちが小さく手を振っているのが見えた。
彼らはリビングにも必ずいる。
光と俺の会話を聞いていたから、報告が行くと思ったんだけど……。
「主?」
報告しなかったのか。
「光は闇の力と光の力をどちらも持っているんだ。おそらく神の実験のせいだろう。で、闇の魔力を持っているのに、光から負の感情を感じた事がない。その原因が、闇の魔力はこういう物だという思い込みが無いからだと分かった」
コアを見ると、一生懸命考えているのが分かる。
「まさか……」
コアの小さなつぶやきが耳に届く。
確かに、そう思うよな。
力のあり方が、ただの思い込みなんて。
「我々の闇の力についての知識は、神が与えたものだ。つまり神のせいで、恐れる必要がない力を、恐れていたという事か?」
そっち?
「まぁ、そうなるか……」
どんどん神に対する印象が悪くなっているな。
……自業自得か。
「そうだ。コアは何か用事があったんじゃないのか?」
「あぁ、今日闇の魔力が森に流れただろう?」
「俺の中の闇の魔力だな」
俺の言葉に頷くコア。
「ふわふわと印象が違った事が、どうしても気になったんだ」
すっかり忘れていたが、そんな事もあったな。
「ありがとう」
気にしてくれて。
「分かった事は、主から離れれば離れるほど、闇の魔力独特の力が消えているという事だった」
それってふわふわが言っていた「闇の魔力だけが持つ、押しつぶすような力」の事かな?
それが、俺から離れたら消えていった。
「原因は思い当たるか?」
「正解かどうかは分からないが、主の話を聞いて何となく予想が出来た」
マジで?
俺の話で?
コアが来てから何を言ったかな?
えっと……闇の魔力は思い込みで力が決まる事と、光の事だよな。
この2つなら、
「思い込み?」
「そうだ。主は闇の魔力が、森に流れた時の影響を気にしていた」
闇の魔力が、負の影響を与えると聞いたからな。
「主は、闇の魔力の影響が出ないように、色々考えたのではないか?」
「もちろんだ。どんな影響が出るか分からなかったからな」
「その思いが闇の魔力に影響したとは思わないか? なんせ、力は思う事で変化させられるのだろう?」
無意識に、闇の魔力の影響を無効化したという事か?
それは……あるかもしれないな。
「だが、俺から離れた方が力が消えた理由は不明だな」
俺の言葉に頷くコア。
「この問題はまだ調べるのか?」
どうしようかな?
俺の中の闇の魔力が変わっていたら、二度と起こらない問題だ。
「明日、もう一度核を確認しようと思うんだ。その時に、同じ事が起きたら調べるよ」
起きなかったら、闇の魔力の変化に成功したって事でいいよな。
「分かった」
「調べてくれてありがとうな」
コアの頭をゆっくりと撫でる。
そう言えば、今日はチャイがいないな。
いつも一緒にいるのに、前にも1度だけ別々の時があったな。
あの時は……。
「コア。そろそろチャイを許してやれよ」
「ふん」
やっぱり。
痴話げんか中か。
「ほどほどにな」
コアに無視されたチャイって、まるっきり駄目な子になっちゃうんだよ。