作品タイトル不明
78.まずは落ち着こう
全員で、俺の手の中にある核を見る。
誰もしゃべらないので、異様な静けさが広がる。
そう言えば、飛びトカゲはこれを「心臓」と言っていたな。
俺の手の中に心臓?
怖っ。
「元に戻れ」
言い終わると、ふっと消える核。
良かった。
元に戻った。
空になった手を、なんとなくグーパーと動かしてみる。
いつも通り動く。
当たり前だけど……思ったより混乱しているらしい。
落ち着け、俺!
「主は本当に色々やるな」
飛びトカゲのしみじみした言い方が、心に刺さる。
別に、やろうと思ってやったわけでは。
いや、もしかしてと言う思いがあったのは確かだけど、
でも、まさか本当に内側から出てくるとは……。
「そうだな」
あっ、コアが賛成した。
「まぁ、いつもの事だろう」
待て、親玉さん。
そんな毎回、何かやらかしているわけじゃない。
たぶん。
……自信はないけど。
「まぁ、主だから」
こら、ふわふわ。
その言葉で片付けるな。
周りも、頷くな。
「主? 大丈夫か?」
飛びトカゲが心配そうに顔を覗きこんでくるので、ポンと鼻先を軽く叩く。
「大丈夫だ。自分でも、さすがにちょっと驚いたけどな」
試してみようなんて、軽く思うものじゃないな。
「ん?」
周りを見回す。
さっきまであった、重い空気が無くなっている。
核を出した衝撃で、皆の気分が変わったのか?
「ははっ、よかった」
俺からの相談に答えが出せなかっただけなのに、変な空気になっていたからな。
あれには困った。
「主、核が出たという事はやはり他人の核という事か?」
コアの言葉に首を傾げる。
そういう事になるのか?
答えを知るには……全部を試してみるしかないよな。
あそこにあった5個の核は全て思い出せるから、出すことは可能だ。
順番ずつ出てくるか試して、1個だけ出なかったら、4個は他人の核という事に……なるよな?
なるのか?
まぁ、いいか。
「すべての核が出てくるか、試してみるよ」
えっと、さっきの核とは違う核を思い出して……
「2個目の核、手の中へ」
出来た。
うん、最初の核とは違う色だな。
2個目、成功!
「核は命に関わるのだから、そんな簡単に試していいものじゃないと思うぞ」
「えっ?」
飛びトカゲの声に視線を向けると、ため息を吐かれた。
なんだが、呆れられている。
「でも、試してみないと分からない事もあるからな」
命に関わる事なので慎重に……した記憶はないが、きっと大丈夫だ。
よしっ、3個目を試そう。
えっと、さっき見た核を思い出して。
「3個目の核、手の中へ」
あっ、しまった。
2個目を元に戻し忘れた。
手の中にある2個の核。
「元に戻れ」
次は慎重にしよう。
次を思い出して……。
「4個目の核、手の中へ」
あれ?
手の中にある核を見る。
思い出した核と、色が全く違う。
手の中の核を、目の高さに持って来てじっと見つめる。
最初の核は鮮やかな青、2個目はくすんだ青色、3個目の核は黒っぽい青緑、4個目の核は少し白っぽい青だった。
なのに手の中にあるのは、鮮やかな緑。
違いすぎるだろう。
「どうした?」
見つめていると、不審そうにコアが聞いて来た。
「内側にあった核と色が違う」
最後の核を思い出す。
「5個目の核、手の中へ」
手の中には、鮮やかな緑の核と、澄んだ青緑の核。
最後の核は、内側にあった核と同じ色だった。
「どうして、4個目の核だけ色が違うんだ?」
「主」
「どうした?」
飛びトカゲの戸惑った声に、視線を向ける。
「それが5個目の核だ」
そうだけど、それが?
あれ?
5個目?
……1個だけ色が違ったけど、全部出せたのか。
「……もとに戻れ」
「「「……」」」
またおかしな空気になってしまった。
でも、5個全部出せたな。
1個は、色の変化があったけど。
他人の核ではなく、俺の核だという事か?
どうしよう、どんどん意味が分からなくなる。
「主、今は解散しないか? 我々の中にある知識を調べ直したい」
飛びトカゲの言葉に、ふわふわたちが頷いている。
「ありがとう。頼むよ」
飛びトカゲの提案で、龍たちがウッドデッキからそれぞれの寝床に飛び立つ。
「主、何か見つけてくるからな!」
水色の言葉に笑みが浮かぶ。
「無理はしなくていいぞ」
本当に無理はしなくていい。
俺は予想外? 予定外? みたいな存在だから。
龍たちの埋め込まれた知識に答えが無くても仕方ないんだ。
予定外と予想外の違いって何だっけ。
……俺、そうとう疲れているな。
「我々は龍たちのような知識はないからなぁ」
シュリの言葉に、周りにいる子アリや子蜘蛛たちが残念そうな表情を見せる。
「色々ごめんな」
シュリの頭を撫でると、スリッと頭を手に押し付けてくる。
もう少し力を込めて欲しいらしい。
ただ、シュリの体は硬いから、頑張って力を込めると怪我をするんだよな。
絶妙な力加減が難しい。
「皆、今日はありがとう。根を詰めてもしょうがないから、ここまでにしようか」
俺の言葉に、前足をあげて散っていく仲間たちを見送る。
森の見張りなどがあるのに、時間を取らせてしまったな。
「さて、部屋に戻るか」
あっその前に、光とケルベロス用の魔石を棚に置いておかないと。
せっかく闇の魔力を再現したんだから、役立ってくれよ。
棚に闇の魔力を閉じ込めた魔石を置く。
ケルベロスの卵をそっと撫でる。
「ちゃんと生まれて来いよ」
リビングを出ると、寝室に向かう。
それにしても、なんだか色々知ったような、分からなくなったような。
「主、後でお茶をお持ちしますね」
部屋に入る時に一つ目から声が掛かる。
それにお礼を言って部屋に入ると、ベッドにダイブする。
「はぁ、色々あり過ぎ」
とりあえず、核はあった。
それは喜ばしい事だよな。
ただ、数が多かった。
しかも全て外に出せてしまった。
……この問題は、ちょっと放置。
えっと、空間で魔力が感じられないのは、俺の魔力が澄んでいるからと原因も判明。
この事は解決済みと。
俺のいつもの魔力に、混ざり込んでいるらしい闇の魔力。
魔力の満ちている空間では、闇の魔力も感じられなかったな。
「あっ、外にいるんだから、今なら分かるんじゃないか?」
胸に手を当て、魔力を探る。
すぐに、馴染みのある魔力が伝わってくる。
闇の魔力があるなら、どこかに違和感があるはずだ……。
あれ?
ないなぁ。
もう少し探して……あっ!
「あった」
確かに、微かに闇の魔力が混じっているようだ。
「本当にあるんだな」
これをどうするべきか、それが問題だな。
負の感情を呼び起こす魔力である以上、このままと言うわけにはいかないよな。
待った。
光も闇の魔力を持っているんだよな?
再現した闇の魔力を体内に入れて力が安定したんだから、そういう事だよな?
これまでの光の態度に、何か問題はあったか?
「攻撃性を感じた事も、怒りっぽいと思った事も一切ない。太陽たち、下の子たちの面倒見がいいなと思った事はあるな。それに子蜘蛛たちが困っていたら手を貸していたし、一つ目たちの手伝いだってしていた」
闇の魔力だからって、そんなに怖がる事は無いような……。
でも、飛びトカゲたちの話を聞く限り……ん?
龍たちの知識は神が与えたものだ。
正直、公正とは言えないよな。
ワザと悪しきものとして、広めた可能性も……すごくありえそう。
「怖がる必要が無いなら、闇の魔力がいつもの魔力に混ざっていても問題ないよな」
うん、光を見ている限り闇の魔力も、そう悪い物じゃないだろう。
嫌悪感や不穏な印象を受けるのは、光の魔力の方を多く持っているからかもしれない。
光はどこだろう。
両方の魔力をどうやって受け止めているのか、聞いてみようかな。
ベッドから起き上がる。
「主、お茶をお持ちしました」
「ありがとう」
いい時に、一つ目が来てくれたな。
光の居場所を聞こう。
「主、少し時間がありますか?」
「ん? あるけど、どうした?」
俺を見つめる一つ目を見て、首を傾げる。
この子、一つ目のリーダーだよな?
どうして予定を訊いたんだ?
いつもは、俺のやりたい事をなぜか知っていて、完璧に準備しているのに。
あれ?
なんで知ってるんだろう?
……まぁ、いいか。
これ以上は考えないほうがよさそうだ。
「光が話があると」
「光?」
すごいタイミングだな。
でもどうしたんだろう?
いつもだったら、光自身で予定を訊いてくるのに。
「光は?」
「部屋の前にいます」
一つ目の言葉に、部屋の扉を見る。
「光。どうぞ」
少し間が空いたあと、扉がすっと開いて光が部屋に入ってくる。
「えっ? 光、大丈夫か?」
なんで、そんなに顔色が悪いんだ?