作品タイトル不明
76.皆に話そう
「主! 無事か!」
頭上で声がしたと思った次の瞬間、目の前に蒼い龍の巨大な顔が迫って来た。
「おぅっ、なんじゃ?」
驚いて、おかしな返事をしてしまったじゃないか!
そしてその巨大な顔で接近されたら怖いから、せめて体を小さくしてくれ!
「森全体に、不穏な魔力が流れたのだ。発生源を調べたらこの場所だったのだが、何があったのだ?」
不穏な魔力?
まさか、
「その不穏な魔力って、禍々しい感じだったか?」
ふわふわが頷くのを確認して、ため息が出る。
つまり、闇の魔力は結界を越えて森に溢れてしまったのか。
だが結界は、1枚は砕け、もう1枚は真っ黒に焦げていたが、3枚は無事だった。
それなのになぜ?
あっ、闇の魔力に対応した結界じゃなかったせいか?
そう言えば、結界の外にいたコアも闇の魔力を感じていたな。
失敗した。
「被害は出たのか?」
ふわふわが首を横に振ったのを見て、ホッとする。
「悪い。俺のせいだ」
俺が謝ると、ふわふわが首を傾げて傍にいるコアに視線を向ける。
「森に溢れたあの魔力は、主の魔力なのだ」
コアの説明にふわふわが、不思議そうな表情を見せる。
「あの魔力が、主の魔力だと? 一瞬だったが、闇の魔力に近いような気がしたぞ?」
溢れた闇の魔力は一瞬だったのか。
だから被害が出なかったのかもしれないな。
でもその一瞬で、ふわふわは闇に近い魔力だと気付いた。
他の者も、気付いただろうな。
「闇の魔力に近い?」
ん?
コアの声に視線を向けると、真剣に何かを考えこんでいる。
どうしたんだ?
「あぁ、闇の魔力かと思ったが、何かが違った」
えっ、そうなのか?
「一瞬だったから分からなかったとか……」
俺の言葉にふわふわとコアが、首を横に振る。
「我々光の魔力を扱う者は闇の魔力に敏感だから、間違う事は無い」
敏感?
コアの言葉に首を傾げる。
俺は、内側にいた時に闇の魔力を察知できなかったよな。
いや、あの時は光の魔力を感じられなかったからな。
「森に流れたあの魔力は、闇の魔力と何かが違った。あれは、我が知っている闇の魔力より……」
ふわふわがハッとした表情を見せる。
「そうだ! 闇の魔力だけが持つ、押しつぶすような力を感じなかったんだ。だからなのか禍々しさはあったが、恐怖はあまり感じなかった」
押しつぶすような力?
再現をした時に、そんな力を感じた事は無いんだが?
あれ?
「それは本当か?」
「あぁ、本当だ。コア、どうした?」
ふわふわの言葉を不思議に思いコアを見ると、神妙な表情をしていた。
「結界から溢れた魔力に、押しつぶすような力を感じた。だから恐怖も感じた」
「えっ?」
コアの言葉にふわふわが首を傾げる。
そういえば、コアは「禍々しい恐怖を感じるような魔力」だったと言っていたな。
どういう事だ?
コアは恐怖を感じる闇の魔力で、ふわふわは恐怖を感じない闇の魔力に近い魔力だった?
意味がわからん。
……無理。
もう何が何だかさっぱり。
「とりあえず、ふわふわにコア。核から魔力が出ないようにする方法を教えてくれ」
考えても分からない事は、あと!
今重要なのは、俺が持ってるらしい闇の魔力の影響を、世界に与えない事!
俺から勝手に溢れる魔力には、核が関係しているはずだ。
なんせ、5個もあるからな。
とりあえず、4個の核の動きを止めたい。
「あぁ、そうだったな」
コアは原因を知っているので頷いてくれるが、ふわふわがぎょっとした表情を見せた。
「核から出る魔力を止めたら、死んでしまう! なぜ、そんな!」
そうだった。
核から溢れる魔力が、生命を維持しているんだった。
止めるなんて言ったら、死ぬって宣言しているようなものだな。
「落ち着いて。悪い、説明不足だった。俺の中に核が5個もあるんだ。だから4個の核から溢れる魔力を止めたい!」
「…………はっ?」
まぁ、1人1個が常識みたいだから、そういう反応になるよな。
これって、説明するたびにこの反応が返されるのかな?
「待て主。核が5個?」
「あぁ、しかも核に触れようとしたら攻撃された。体にも傷が出来て、ヒールを掛けたら治るんだが、新たに傷が出来るというおかしな現象を起こしている」
「待て、そんな事は我も聞いていないぞ」
あれ?
コアには説明を……してなかったな。
「悪い。色々な事が重なって混乱しているんだ。多分、今も」
コアとふわふわの心配そうな視線が向けられる。
それに笑って、「大丈夫」と伝える。
「核の魔力を止める方法か……俺は知らないが、コアはどうだ?」
ふわふわに話を振られたコアは、首を横に振る。
「誰もそんな事はしないだろうからな」
そうだよな。
しないよな。
「他の者たちも分からないかな?」
何かヒントがあればいいんだが。
俺の言葉に、ふわふわとコアが神妙な表情を見せる。
これは、いないんだな。
「よしっ、アイオン神を呼び出そう」
「そうだな。俺たちより闇の魔力について詳しいはずだ」
俺の言葉にふわふわが頷いてくれるが、コアはちょっと嫌そうだ。
「コアは、アイオン神が嫌いなのか?」
「アイオン神と言うより、神という存在にちょっとな。主が困っている原因も、元をたどれば神のせいだ」
そうだな。
始まりは全て神だな。
……なんだかちょっとイラっとするな。
うん、何か仕返しを……うん?
「主、どうした?」
え~っと。
「いや、何もないよ」
何だかちょっと考え方が、いつもと違う方へ向かわなかったか?
俺は過ぎた事は気にしない事にしている。
と言うか、過去の事は変えようがないから気にしても仕方ない。
だから、この世界に落とされた事は色々思う事はあるが過去の事で片付けた。
なのに今、全ての事にイラついたよな?
「ふ~わ~ふ~わ~!」
「「えっ?」」
俺とコアが叫び声の方へ視線を向けると、真っ赤な龍 毛糸玉が怒り顔でこちらに向かって来ていた。
いや、怖いって。
「あっ、しまった。我は主の無事を確認する事と何が起こったのか聞いて、すぐに戻る予定だったんだ」
そうなのか?
ふわふわがここに来てから、随分と時間が経っているが。
「皆が待っているのに、何をしている!」
毛糸玉の怒りに、ふわふわがちょっと遠くを見てからヘラっと笑った。
「悪い。すっかり忘れてた」
その反応は駄目だろう。
ほら、毛糸玉の目が据わった。
「悪い、毛糸玉。俺がふわふわに色々訊いていたんだ」
あっ、毛糸玉から感じる不穏な空気が消えた。
良かった。
「いったい何を?」
「森に流れた魔力の事で。皆にも相談があるから、家に戻ってから話すよ」
「そうか。皆が心配しているから、用事が終ったのなら帰ろう」
毛糸玉の言葉に頷く。
ここにいても、何も解決はしないからな。
「それより、主。この広場で何があったのだ?」
んっ?
毛糸玉の言葉に広場を見回す。
地面に開いた穴、地面に走るヒビ、そして黒く焦げた部分。
改めて見ると、すごい惨状だな。
「あ~、これも含めて帰ってから説明するよ。まずは、帰ろう」
この広場は、1つ目たちが管理しているよな?
穴の開いた地面を見る……誠心誠意、謝ろう。
きっと、許してくれるはずだ。
「行こう」
俺が走り出すと、すぐにコアが付いて来てくれる。
コアがいると、安心するなぁ。
「ただいま」
家に戻ると、チャイやアイ、親玉さんたちがウッドデッキに集まっていた。
これは、かなり心配を掛けたみたいだな。
「皆、ごめんな。俺もコアも大丈夫だから」
ウッドデッキに集まっている仲間たちに声を掛けると、それぞれが反応を返してくれる。
皆の顔を見ると安心するな。
「心配掛けて悪かった。皆に相談があるんだ」
俺の言葉に、皆の視線が集まる。
闇の魔力の事と、核の事……ヒールで傷が出来る事も言った方がいいのかな?
ちゃんと説明できるか、不安だ。