軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

62.普通の獣人を探そう

ー農業隊フォーの視点ー

「本日はよろしくお願いいたします」

同じ仕事をしているファイブに挨拶をすると無言で頷かれた。

……大丈夫だろうか?

ファイブは、とにかくしゃべらない。

ちょっと、会話が不得意と言うレベルではない。

私は一緒に仕事をしていて、未だにファイブの声を聞いたことが無い。

誰が、この任務にファイブを選んだんだ?

「行こうか?」

また無言の頷き。

……分かりやすい反応が欲しい。

森の中を疾走する。

今日は獣人国へ、普通の調査へ行く。

主の事をより知るために重要な任務。

けして失敗は許されない。

と言っても、今日は普通の獣人たちの観察です。

より多くの獣人を観察するためには、どうしたらいいでしょうかね?

「ファイブ。今日は多くの獣人たちを観察しなければなりません。何かいい方法はありませんか?」

同時に観察出来ればいいのですが。

やはり獣人国へ入り込んでしまうのが、手っ取り早いでしょうか?

ただ、あまり大事にしないように言われているんですよね。

つまり、獣人国にはこっそりお邪魔する事になるんです。

まぁ、簡単に出来ますけどね。

既に何度か侵入……お邪魔させていただいていますから。

「ファイブ?」

視線を向けると、無言で首を横に振っていました。

走っている時なので、一言でいいのでしゃべって欲しいです。

多くは望みません。

一言でいいんです!

「それにしても、身体強化の重ね掛けに風魔法によるスピードアップで本当に1日で獣人国に来られるんですね。この方法を編み出した一つ目たちはすごいですね」

ファイブを見ると、何度も頷いている。

……すごく賛同しているようです。

「あれ? 声が聞こえますね」

ここはまだ森の中です。

と言っても、獣人国にかなり近いですが。

「まさか侵入者でしょうか? それは許せませんね」

森の調査は、無視をするよう言われています。

でも、調査に見せかけて森の大切な物を盗む愚か者がいます。

彼らを見つけた場合は、あらゆる恐怖を植え付けて森から追い出せと言う事でした。

「しまった! あらゆる恐怖とは、何をしたらいいのでしょうか? 森の任務に就いていた一つ目たちが、方法を話していたような気が……」

農業にしか興味が無かった事が裏目に出てしまった。

さて、どうしましょう。

「とりあえず。声が聞こえた方へ行ってみましょう。何をしているのか確認しなければ」

そっと気配を消してファイブと近づきます。

これは……獣人たちの集団ですね。

そして、混ぜ物と戦闘中です。

混ぜ物の数が多いですね。

ちょっと獣人たちが押されています。

えっと……、

「混ぜ物の魔物は森に不要なので、処分する事でしたね」

「うわっ」

「なんだ?」

ん?

何でしょう。

今までの声とちょっと違う混乱が起こっています。

視線を向けると、ファイブが混ぜ物に向かって大暴れをしています。

「……いつの間に?」

全く気付かなった。

それより、獣人たちがファイブの戦い方にビビっているように見えます。

何故でしょうか?

ファイブも魔法は使えますが、殴り合いを好みます。

今も、一発で混ぜ物の魔物たちを沈めています。

ファイブの一撃は重いですからね。

見事な戦い方なので、ビビる必要はないと思うのですが……数名、泣きそうです。

おかしい。

「あっ! 普通を観察するチャンスでは?」

ファイブを見て震えている獣人や、泣きそうな獣人を見ます。

……いや、あれは普通ではないな。

普通がこんな簡単に恐怖におののくわけありません。

きっと。

彼らの観察は止めましょう。

「ん? 帰ってきてたのですね」

気付けば、隣にファイブが立っていました。

先ほどまで暴れていた場所を見ると、獣人たちがきょろきょろと周りを見回しています。

そして、おびただしい数の混ぜ物の死骸。

「お疲れ様です」

首を横に振るファイブ。

まぁ、これぐらいで疲れる事は無いですね。

「普通の獣人を探しに行きましょう」

私の言葉に、ファイブがいまだにきょろきょろしている獣人たちを指します。

「彼らは普通より弱いでしょう。ほら」

泣いている獣人を指します。

ファイブは、それをじっと見て頷きました。

「行きましょう。普通の獣人たちはどこにいるんでしょうね?」

早急に見つけ出して、観察する時間を長く取りたいのですが。

「ここが森と獣人国の境ですね」

どうしましょう。

ここから見えるのは巨大な壁。

その向こうに、獣人たちがいるはずです。

「仕方ない、やはりここは侵入……お邪魔をして観察するしか」

内密なので正面からは駄目ですね。

いつも通り、森に最も近い壁の上空から入り込みましょうか。

目的の場所に行こうとすると、腕を引かれます。

見ると、ファイブが私の腕を掴んでいます。

「ファイブ、どうかしましたか?」

ファイブが、目的とは反対方向に視線を向けています。

何かあるのでしょうか?

本当に、一言でいいから欲しいです。

「複数の声が聞こえますね」

聞こえた音から複数の声だと判断しましたが、何処からだろう?

聞こえ方が壁を挟んだ感じでは、ありません。

森側にいるのでしょうか?

「行ってみますか?」

ファイブが気になったのなら、調べておくべきでしょう。

私の言葉に頷くファイブは、さっそく音が聞こえた方へ走り出します。

その後についていくと、森を少し切り開いた場所が見えてきました。

「獣人たちが集まっていますね」

開けた場所に150人ほどの獣人たちがいました。

雰囲気が、先ほど森の中で見た獣人たちとは異なります。

こちらにいる獣人たちは、なぜか興奮しています。

「何があるんでしょうか?」

獣人たちの姿を確認すると、皆似た格好をしています。

「手に持っているのは剣に斧……武器ですね」

大半が剣を持っているようですが、中には違う物を持っている者もいるようです。

大きな斧に弓や槍もありますね。

「なんでしょう。気になります!」

興奮している獣人たちが集まって……。

「あっ! お祭りでしょうか?」

あれは興奮しますね。

ファイブは首を傾げています。

祭りだとは思えないのでしょうか?

……確かに祭りにしては、表情が険しいですね。

祭りは楽しくて笑顔になるものです。

あんな険しい表情にはなりません。

「誰か先頭に立ちましたね」

周りより少し……なんて言えばいいのでしょうか。

不快な印象を与える者が、150人ほどの前に出てきました。

見た目は小綺麗にしています。

ですが、分かります。

あれは、主に接近させては駄目な存在だと。

「そう言えば、150人もいるのですから、彼らの中に普通がいるのではないですか?」

私の言葉にファイブが頷き、集まっている獣人たちを観察します。

どの獣人たちも、良い体格をしています。

鍛えていることがわかる筋肉の付き方です。

「よく集まってくれた!」

先頭に立った男が150人ほどの獣人に向かって話し始めます。

そこそこ声は良いようですが、にじみ出る不快さが増しました。

「王は、静かにしていた我らの力を削ごうとした! しかも、我らの意見を訊きもせず否定までした! 我らがいかに、この国を愛しているか。それさえも理解せぬ愚かな王には、もう我慢できん! これから王の首を取りに行く」

あっ、観察に気を取られて話を聞き忘れてしまった。

セブンに「集中するのはいいが、他の事にも同時に目を光らせろ」と、注意されて気を付けていたんですが……やってしまった。

それにしても、本当に何なんでしょうか?

話を聞いた獣人達の興奮が最高潮になっています。

150人が、無言で片手を突き上げている風景は、ちょっとすごいですね。

……あれが普通なのでしょうか?

ちょっと、違うような気がしますね。

という事は、この中に普通はいないのでしょうか?

いや150人近くもいるんです、きっといるはずです。

「このまま観察を、続けるべきでしょうか?」

ドコンッ!

ガラガラガラッ。

何やら近くで、大きな音がしました。

何でしょう、気になります!

「ここはもういいでしょう、あっちを見に行きましょう!」

大きな音の原因は、主に獲物です。

最初に聞いた大きな音は、庭に入り込もうとして結界にぶつかった巨大なウサギ。

ファーストが速攻で狩り、主に贈ることが出来ました。

そして度々、結界に大きな音が響きます。

その都度、近くにいる仲間が狩って、主に贈ります。

「さて、結界にぶつかった獲物は何でしょう。楽しみです」

あぁ、でもここには小鬼たちがいません。

解体をするために、家まで持って帰らないと駄目ですね。

「あれ? 獲物がいません」

横を走っていたファイブの肩が、ちょっと落ちます。

実は獲物を楽しみにしてましたね。

それにしても、なぜ巨大な壁の一部分が崩壊しているのでしょうか?

「止まって、少し様子を見ましょうか」

壁の向こうに、先ほど見かけた格好と同じ格好の獣人がいるようです。