軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28.エントール国とオルサガス国

―エントール国 宰相視点―

ばんっ。

手に痛みを感じ視線を向けると、叩きつけた机にヒビが入っていた。

どうやら力強く叩き過ぎたようだ。

だが、そんな事ではこの苛立ちは収まらない。

収まるわけがない!

「腑抜け共が!」

多くの仲間が殺されたというのに、なぜあの国を野放しにするのか。

どれほど苦しく、無残に殺されたのか分からないのか!

それなのに、許す?

そんな事、許されるはずがない!

今こそ、攻めるべきなのだ!

それをなぜ気付かないのだ!

「宰相殿。このままでは……」

公爵家当主 アルピアリ公爵が悔しそうに顔を歪める。

「分かっている。愚王め……」

何としてもあの国を滅ぼし、仲間の無念を晴らすべきなのだ!

なのに……くそっ!

あんな弱腰の王では駄目だ。

森の王や神が認めたから認めるなど、くそっ!

「しかし森の王たちがあの国を許した以上、手を出すのは――」

「違う!」

伯爵家当主 マッロシ伯爵の言葉を否定し睨みつける。

マッロシ伯爵は、体をびくりと震わせると視線を逸らした。

「森の王は許してなどいない。いまだに関係改善はされていない! 間違うな!」

「はい……すみません」

このマッロシ伯爵は気が弱い。

全く、エントール国の誇り高い貴族が何たる事か!

「情けないわね」

伯爵家女当主 タルレスタがワインを飲みながらため息を吐く。

彼女の言葉に、マッロシ伯爵は小さく頭を下げた。

その行為に、呆れた表情のタルレスタ女伯爵。

「少し落ち着きましょう。皆さんどれぐらい賛同を得られましたか?」

アルピアリ公爵の言葉に、大きく息を吐く。

確かに落ち着かなければ、隙を見せるわけにはいかない。

だが、アルピアリ公爵の続けた言葉に顔が歪む。

どいつもこいつも、あの国が森の王に許されたと勘違いしたため怖気付きやがって。

全員の顔を見るが、あまり賛同は得られていないようだ。

「はぁ、今は派手に動くわけにはいかないな。特に王に睨まれている」

前回の失敗は痛い。

かなりの損失になってしまったからな。

しかし、諦めるわけにはいかない。

「それにしても、ダダビスはいい働きをしてくれたわ。彼のおかげで、この国も森の王や神に目を掛けられていると思わせる事が出来たのだから」

タルレスタ女伯爵がクスリと笑う。

確かにその通りだ。

教師の斡旋を森の神から直接依頼されるとは、本当にいい働きをした。

「だが、あれは使えんぞ」

アルピアリ公爵の言葉にタルレスタ女伯爵が頷く。

「えぇ、あれは王に忠誠を誓っているからね。少し揺さぶってみたけど無駄だったわ」

「おい、あまり激しく動くなよ。前回の事があるからな」

森の神がエンペラス国の現王を守った事で、予定が大きく変わった。

あれさえなければ、もっと早くにエンペラス国を手中に収められたというのに。

「森の神か……どうにかこちらに引き込めないか?」

「宰相殿、なんて恐ろしい事を言うのです!」

マッロシ伯爵が顔を青くする。

「なんだ? 森の神をこちらに引き込めば全て収まる事ではないか!」

「森の神は神聖な存在ですよ! もしこんな話が聞かれ、不快に思われたらどうするのです!」

「ちっ。分かっている!」

神聖な存在か。

確かに、もし森の神の怒りを買えば、エンペラス国のようにただでは済まないだろう。

待てよ、怒りを買って今の王を退ければ……そしてそのあとに私が王になれば……。

「何かいい案でも浮かんだのかしら?」

タルレスタ女伯爵がにやりと笑う。

どうも表情に出てしまったようだ。

「森の神の怒りを買えば、王はその許しを請わねばならない」

森の神だけでなく、我々が納得する許しをな。

「でも怒りなんて、どうやって?」

タルレスタ女伯爵が私をじっと見る。

「ふっ、我々が薦める教師を送り込めばいい。ただそれだけだ」

住み込みらしいからな。

仕掛ける機会はいくらでもある。

怒りを買い、そして王に責任を取らせる。

「我々が何かをする必要はない。ただ、いい教師を選定すればいいだけだ」

アルピアリ公爵とタルレスタ女伯爵が私の言葉に少し驚き、そして顔を綻ばせた。

マッロシ伯爵だけが眉間に皺を寄せる。

この者は要注意だな。

裏切る可能性がある。

見張りをつけるか。

………………

―オルサガス国 王弟殿下視点―

「兄上! なぜ駄目なのですか?」

王の執務室の扉を勢い良く開けると部屋に入っていく。

周りの止める声など気にしていられない。

「王弟殿下! ここは王の執務室ですよ!」

宰相が眉間に皺を寄せて、声を荒げる。

それに少したじろぐが、だが今はそれよりもこちらの方が重要だ!

「何がだ?」

威厳のある声が部屋に響く。

兄の視線を向けられ、そのいつもとは違う威圧に戸惑ってしまう。

が、今は怒りの方がほんの少し勝った。

「エンペラス国をなぜ攻撃しないのですか? 彼らのしてきた事が前王が死んだだけで許されるわけがない!」

「確かにな」

兄の言葉に「やはり俺は間違っていない」という気持ちが湧く。

「だが、我々エルフは森の意思を尊重する。それは、森の王とそして神の行動によって決める事を意味する。それは分かっているな?」

が、続く兄の言葉にギュッと手を握り締める。

「それは……」

兄の目がすっと細まる。

それにびくりと体が震える。

「森の神は、エンペラス国のガンミルゼ王の窮地を救った。これが森の意思だ。窮地を救った以上、森の意思はエンペラス国の王を認めたという事。もしガンミルゼ王を殺した場合、もしくはエンペラス国に攻め入った場合、このオルサガス国が森の怒りを買うかもしれない。それを考えたか?」

兄に言われ言葉に詰まる。

確かに森の神と王は、ガンミルゼ王を認めている事は事実だ。

「ですが、エンペラス国は森との関係を築けていません」

それも事実だ。

エンペラス国は森へ使者を送っているようだが、接触したという情報はない。

エントール国は第3騎士団ダダビス団長が接触に成功したのに。

「それを言うなら、わが国もだな」

「えっ? どういう事ですか?」

「気付いていないのか? 我が国の使者もまだ森の王にも神にも接触ができていない」

あっ、そう言えば失敗したと森から撤退していたな。

でも、なぜ?

どうして森の意思を尊重する、このオルサガス国の使者を拒否する?

「そう言えば、誰に聞いたんだ?」

「えっ?」

一瞬何を訊かれたのか分からず兄の顔を見る。

先ほどまでの威圧を感じる雰囲気ではなく、普段の優しい兄の表情にホッとする。

「誰にエンペラス国が森との接触に失敗したと聞いた?」

「あぁ、騎士総隊長に聞きました」

「そうか」

あれ?

見間違いかな?

一瞬兄の表情に嫌悪が浮かんだような気がしたけど。

「デル。森の王や神が、なぜ我々と接触をしないのか考えないといけないよ」

接触しない理由?

……兄は何かを知っているのかな?

「えっと、接触しないのはこちらが……森の意思に反しているから? でも、エンペラス国に何もしていないのだから意思に反しているとは言えないのでは? もしかして、他の事で森に距離を置かれているとか?」

他に考えられる事は……分からない。

兄をちらりと見ると、なぜか嬉しそうにほほ笑んでいる。

その笑みにちょっと不貞腐れてしまう。

120歳以上年が違うから仕方ないけど、兄には全てにおいて負けている。

仕方ないけど、悔しい。

「デル、行動力があるのはいい事だ。だが、相手の話に乗せられては駄目だ。まずは手に入れた情報を自分の中でしっかりと精査する事。とても重要だ」

兄が、俺をじっと見つめてくる。

相手の話に乗せられる?

……確か、騎士総隊長が俺に意見を訊いて来たんだよな。

あの最低の国は、やはり使者との接触も出来なかった。

思った通り許されない国なんだって。

なのに兄が攻めるのは駄目だと決定した。

そんなのおかしいと……そう、騎士総隊長が言うから、だから俺は兄に決定を変えてもらおうと思って……。

「自分の事を利用しようとしている者がいる事を、しっかりと頭に入れておくんだよ」

「うん」

騎士総隊長が、俺を利用しようとしたという事だよね。

でも……あの優しい人が本当に?

ちらりと兄を見る。

ふわりと笑い、頭を撫でてくれる。

ちゃんと考えよう。