軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29. 声

「主、湖の近くに広場を作りたいのですがいいですか?」

ん?

湖というとあの浮かぶ島がある湖の事か?

朝食の果物を楽しんでいると、一つ目が話しかけてきた。

たぶんリーダーの子だな。

果実水を飲んで、口の中の物を飲み込む。

「なんでそんな場所に広場が必要なんだ?」

家に作った広場もかなり広い。

そんなに広場は必要だろうか?

「訓練場所が足りなくなっているので」

訓練?

リビングから広場を見る。

確かに広場を使うのに、順番待ちをしているな。

コアのフェンリルたちも、チャイのダイアウルフたちもアイのガルムたちも最初の頃に比べると増えたな。

綺麗に並んでいる姿は、可愛いけどね。

「確かに昔より順番待ちの列が長いな」

列には子アリや子蜘蛛も参加しているみたいだな。

そう言えば、時々龍たちも列に参加して周りが引いてたな。

広場で特訓しているダイアウルフとガルムを見る。

昔と違って、一度戦いだすと長いから、待ち時間も長くなっているんだろうな。

皆、日々強くなっているんだが、あそこまで鍛える必要があるのかちょっと疑問だ。

「分かった。広場を作ろうか。俺は木を切ればいいのかな?」

この森に生えているあの巨木を切れるのは、俺だけらしい。

切った木の加工は一つ目でも出来るらしいが、切るのはどう頑張っても出来なかったそうだ。

かなり悔しそうにしている一つ目をしり目に、役目があったと小さくガッツポーズをしたのは内緒だ。

「どれくらいの広さにするんだ? 森に影響が無いようにしないと駄目だからな」

「それなら大丈夫です。トロンたちにお願いして調整してもらいました」

……トロンたちが調整?

何だかよく分からないけど、大丈夫ならいいだろう。

それにしても、いつもと変わらない日常だな。

どうなるか分からない事でギスギスしたくないから、いつも通りにしようとは言ったけど。

本当にいつも通りだ。

希望通りなんだけど、ちょっと拍子抜けだな。

……あれ?

今の考えはちょっと理不尽のような……気を付けよう。

「後で木を切りに行くな。その時に広さも教えてくれ」

「分かりました!」

おっ、嬉しそうだな。

残っている果物を食べる。

そう言えば、今日はウサとクウヒも特訓に参加するからと早めに朝食を済ませていたな。

後でどんな様子なのか見てこよう。

朝食が終りウッドデッキから広場を見る。

様々な魔法が飛び交っている。

相変わらず、すごいな。

「あっ、ウサ発見どん…………。すごく強くなっているんだな」

今戦っているのは……ガルムか?

あのアッシュグレーの毛色はガルムで間違いないよな。

一対一だと、ほぼ互角か?

いや、ウサの方が少し押しているようだな。

そう言えば、ウサもクウヒも急に背が伸びたよな。

まだ俺の方が高いけど……出会った獣人たちを思うとすぐに追い越されそうだよな。

クウヒの方は、体つきも随分とがっしりしてきたしな。

奴隷だったから成長に不安があったけど、問題なさそうでよかった。

あっ、ガルムが吹っ飛んだ。

ウサは接近戦が得意みたいだな。

それにしても蹴りでガルムを吹っ飛ばすのか。

すごいな。

「あっ、あるじ~!」

俺を見つけて手を振るウサの笑顔は、昔のままで可愛い。

手を振り返していると、先ほど飛んで行ったガルムがボロボロの姿で戻ってきた。

ウサは俺にとって娘のような感覚なんだが……ちょっと複雑だ。

あまり強くならないでとは、言えないよな。

さて、そろそろ湖に行って広場を作るために木を切り倒すか。

「主、どこかへ行くのか?」

「水色か。湖の近くに広場を作りたいらしいから、手伝いに行くんだ」

俺の言葉に、尻尾がゆらゆら揺れる水色。

犬や猫は尻尾に感情が出るというけど、龍たちも同じだろうか?

「一緒に行ってもいい?」

「もちろん。行こうか」

水色と一緒に、森の中を湖に向かって疾走する。

気付くと、フェンリル4匹が俺を囲うように走っている。

多分護衛だな。

未だに1人で行動させてもらえない俺って……。

「あっ、うわ~。なんかまた変化してる」

浮かんでいる島の数は増えていないが、浮かんでいる島の1つが巨大に成長している。

どこまで大きくなっていくんだろう?

湖を覆いつくすほど大きくなることはないよな?

「主、こちらです」

一つ目に呼ばれ、湖の左側に来る。

俺を呼んだ一つ目が、森の奥を指さすので視線を向ける。

かなり遠くに、旗が左右に揺れているのが見える。

「あそこまでの木を切っていくのか?」

「はい」

はいって……旗を持っている一つ目の姿がここからでは見えないんだが。

どれだけ広い広場を作るつもりなんだ?

本当に大丈夫なのか?

「かなり広いけど、本当に問題ないのか?」

「はい。既に川の移動も済んでいますし、問題はありません」

川の移動?

そう言えば、周辺にあった川が無くなっているな。

「川も移動ができるのか?」

一つ目が首を傾げる。

「川は、水の精霊と土の精霊たちが移動させましたが?」

不思議そうな表情で俺を見る一つ目。

もしかしてこの世界の川は精霊の力が有れば自由自在に動けるのか?

……アメーバのような精霊たちに、担がれ移動する川を想像してしまった。

多分違う。

絶対に違う。

「そうか。えっと、とりあえず切っていくな」

そういえば、森が変化しているときに川も一緒に変化していたな。

縦横無尽に川が森に現れたから、あれには驚いたよな。

今度、川を移動させることがあるなら見せてもらおう。

さて、切っていくか。

目標の旗を見る……遠いな。

一体、何本の大木を切ればあの旗に近付くんだろう……見ていてもどうしようもないな。

頑張ろう。

魔法で森の大木を切る、切る、切る。

集中し直して切る、切る、切る。

切った大木は親蜘蛛さんと親アリさんが、すぐに移動させていくので邪魔にはならない。

ただ、切っても切っても旗が遠い。

ちょっと休憩しよう。

そう言えば切った大木はどこに移動しているんだろう?

大木を移動させている親アリさんを視線で追うと、一つ目たちが待ち構えていた。

そして近づいた大木を、一斉に加工しだす。

「なんだろう。大木を襲っているようにしか見えない」

しばらくすると、大木が大小さまざまな板になっていた。

そして一つ目たちは、次の大木を待ち構えている。

じっと見ていると、1体の一つ目と視線が合う。

ぶるっ。

なぜか体が震えた。

そっと視線を逸らして立ち上がる。

よしっ、休憩終わり。

とっとと切ろうかな。

グラグラ。

「あっ、地震だ」

あの日から数日。

久々に揺れたな。

ロープには、地震の原因となっている場所を特定したら知らせて欲しいと言ってある。

きっとすぐに場所を特定してくれるだろう。

ぽこぽこ、ぽこぽこ。

「ん?」

湖の音に違和感を覚えた。

何か下から出てきているような音。

視線を向けると、湖の一部分が下から上がって来る気泡で波立っていた。

「なんだ?」

ぽこぽこ、ぽこぽこ、ぽこぽこぽこ、ぽこぽこぽこぽこぽこぽこ。

もしかして地震の原因が湖の下にあるのか?

これは調べるのにちょうどいいと思えばいいのか?

だが水が抜けたりしないよな。

湖に近付くと、湖が一瞬真っ黒になる。

「えっ?」

ぼこっ。

今までと違い大きな気泡が湖に浮かび上がり、

「「「「「「ぎゃあぁぁぁ」」」」」」

「ひっ…………何? 今の?」

気泡が割れた瞬間に聞こえた叫び声。

その声はかなり苦しそうで、一瞬だったからいいが聞き続けるのは遠慮したい。

そんな声だ。

「この世界に閉じ込められていた人たちの叫び声に似ていたな」

洞窟で聞いた苦しそうな声。

あれを思い出させる声に、体がびくりと震える。

「すごく嫌な予感がする」