軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第78話 ドーラン王国へ

「寂しくなるのう……サチさえよければいつまでだってここに居てもいいのじゃぞ?」

「あはは……ミィミィさん、本当にお世話になりました。色々ありましたけど、有意義な時間を過ごすことができました」

謝恩パーティから数日。

魔物の解体量が従来の量に落ち着いたタイミングで、私たちはドーラン王国に帰還することとなった。魔物解体カウンターの皆さんは嗚咽を漏らしながら別れを惜しんでくれた。

「ミィミィの言う通り、ずっとここにいてもいいんだよ? それこそ、僕の伴侶として……」

見送りに来てくれているヘンリー様の軽口に、マリウッツさんが殺気を放つ。

「おっと、怖い怖い。まあ冗談はこれぐらいにして……本当にサチたちに出会えてよかった。またいつでも遊びにおいで。その時は城下町をたっぷり案内しよう」

「はい、是非」

ヘンリー様と友好の証の握手を交わす。初めて会った時と比べて、ヘンリー様は随分と凛々しくなられた気がする。どこかスッキリとしていて、それだけでなく、これまで思い悩んでいたことに対して覚悟を決めたような、そんな表情をしている。

「あ、アルフレッド様……その、また、会えますか?」

「ええ、もちろんです。どうかお元気で」

サーヤさんも見送りに来てくれた。

今まではリリウェル様のメイドだったそうだけど、これからはヘンリー様付きのメイドとして引き続き王城で働くらしい。

サーヤさんも部屋に夕飯を給仕しに来てくれていた時は、表情に影があって、いつも何かに怯えている様子だった。けれど、長年胸につかえていたものが取れたのか、清々しい表情をしている。

「では、参りましょう」

「よろしくお願いしますね。ジェードさん」

ドーラン王国へは、来た時と同様に【転移】で送り届けてもらうことになっている。長期休暇中だというジェードさんがどうしても送り届けたいと申し出てくれた。

ジェードさんからは改めてお詫びの言葉を受け取っている。病気の妹さんの具合は随分と良くなっているという。

私、マリウッツさん、そしてアルフレッドさんはジェードさんを囲むように円になった。なぜか、また私の両手はマリウッツさんとアルフレッドさんにガッチリと掴まれている。

もう何度も経験しているから、【転移】は怖くないんだけどな……

お断りできる雰囲気ではないので、2人の厚意に素直に甘えておこう。

「では、お世話になりました!」

青白い光が弾け、大きく手を振るみんなの姿が光の中に消えていく。ぐわん、と身体を引っ張られる感覚に襲われ、ぎゅっと目を閉じる。

再び目を開くと、そこは森の中に広がるのどかな草原だった。

「ここが……?」

「ええ。昔に僕が守れなかった村があった場所です。今はもう人は住んでおらず、自然の一部となっているようですね」

そう、この場所はかつてアルフレッドさんがサーヤさんを救った村があった場所。偶然にも、ジェードさんがこの付近の魔物討伐に参加していたということで、連れてきてもらったのだ。

アルフレッドさんは少し寂しげな表情で、何かを噛み締めるように、ゆっくりと辺りを見回している。

「……大丈夫ですか?」

繋いだままの手が僅かに震えていたので、ギュッと力を込めて握り締める。

「……はい。覚悟していたよりは平気のようです。確か、村の中心地だった場所に……ああ、あれですね」

アルフレッドさんが指差した方を見ると、大きな石がいくつか積み上げられていた。どうやら墓標らしい。

ゆっくりと手を離した私たちは、お墓の前まで歩み寄る。

「ここに来るまで、随分と時間がかかってしまいました。すみません……村人の皆さんを救うことができなかった。大切な仲間を守ることができなかった……ここでのことは一生忘れません。皆さんの分も、1人でも多くの人の力になれるように尽力します。どうか、どうか安らかに」

アルフレッドさんはグッと拳を握りしめて俯いてから、覚悟を決めた面持ちで墓標を見据えた。そして、ジェードさんが持っていてくれた花束を受け取ると、墓標の前にそっと置いた。

私たちは、目を閉じて胸の前で両手を合わせた。

優しい風が私たちの髪を遊ぶように撫でていく。

さわさわと木々が擦れる音を合図に、そっと顔をあげると、みんなも同じタイミングで目を開けていた。

「……皆さん、ついてきてくれてありがとうございます。ようやく、彼らを弔うことができました」

どこか晴れやかな表情で、アルフレッドさんが頭を下げた。

そして、彼の合図で、私たちは再び手を繋ぐと、【転移】の力に身体を引っ張られた。

ふわりとした浮遊感の後、足の裏に硬い木の床の感触がして、私はそっと目を開けた。

「サチッ! おかえりー!」

「アンッ! わ、それに皆さんも」

目を開けて飛び込んできたのは(物理的にも)、すっかり懐かしき友の姿だった。

どうやら私たちの帰還はドーラン王国ギルドに知らせられていたらしく、アン、ドルドさん、ナイルさん、ローランさん、そしてギルドマスターのオーウェンさんが集まっていた。

「おう、随分と大変だったようだな。無事で何よりだ」

オーウェンさんが一歩前に出て、アルフレッドさん、マリウッツさん、私の肩をポンポンッと叩いた。ニカッと爽やかな笑みを見ると、胸に安堵の気持ちが広がっていく。

ああ、ようやく帰ってこれた。

私は抱きついてきたアンの背中に腕を回して、ギュウッと抱きしめ返した。

「ああ、もう。随分遅かったじゃない! 心配してたんだから!」

私の肩に体重をかけながら、アンはプリプリと怒っている。

「心配かけてごめんね。アンには聞いて欲しい話がいっぱいあるよ。また近いうちに街に出ようね」

「当たり前でしょう! たーっぷり聞かせてもらうんだから! も・ち・ろ・ん……ラブの方もね」

最後の一言だけ、私だけに聞こえる声音で囁いたアン。

えっ!? と反論する前に、アンはペロリと舌を出して離れてしまった。ニヤける顔が隠しきれていない。全くもう。

「ミィミィから逐一報告はもらっていたが、やり遂げたようだな。お、随分と男らしい顔つきになったじゃねぇか! ガハハ。少しは得るものがあったようだな」

オーウェンさんはそう言いつつバシバシとアルフレッドさんの背中を叩く。丸眼鏡が飛んでいきそうになって、慌てて両手で押さえている。

「ええ、まあ……そうですね」

オーウェンさんの言う通り、サルバトロス王国での日々は大変だったけど、新たな出会いや能力レベルのアップ、そして新しい固有スキルの獲得など、本当にいろんなことがあった。アルフレッドさんの過去にも触れ、マリウッツさんとの距離も縮んだ気がする。

「サチさんがいない間、俺たちも頑張ってたんっすからね!」

「少しは解体が早くなった気がします!」

ナイルさんとローランさんは、私が不在にしている間もきっちりと魔物解体カウンターを守ってくれていたみたいで安心した。まあ、ドルドさんが呆れた顔をしているので、彼らが言うほどの頑張りは見えなかった様子。

思わず苦笑してしまうけど、こんなやりとりがもう懐かしくて仕方がない。

異世界から来た私を、こんなにも受け入れてくれる人が、そして、帰ってくる場所ができたことを改めて実感する。

しみじみしている私に、アンがクスリと笑いながら再び口を開いた。

「改めて。サチ、おかえり」

私はみんなの顔を見渡して、目一杯の笑顔で答えた。

「ただいま!」

― 第二部完 ―