軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 ピィちゃんの1日 サルバトロス王国編

「ピッ、ピッ、ピッ」

ピクシードラゴンのピィちゃんは、サチが解体で篭っている倉庫から抜け出して、ご機嫌にとある場所へと向かっている。

「あ、ピィちゃん。元気?」

「ピッピッ」

「ピィちゃん! また遊ぼうね」

「ピュアッ」

ドーラン王国同様、サルバトロス王国のギルドでも、すっかりピィちゃんはギルド職員のアイドルと化している。

大好きなサチについてやって来たのだが、ここでもそれなりに楽しい日々を過ごしている。

サルバトロス王国のギルドは各階を螺旋階段が繋いでいる。ピィちゃんは螺旋階段にたどり着くと、迷うことなくぐるぐると下へと降りていく。

そして行き着いたのはギルドの地下。重厚な扉の向こうには広い演習場があるのだ。

コココンッ

ピィちゃんが扉を翼で叩くと、ギィ、と錆びついた音を鳴らして重い扉が開いた。

「おう、来たか。ピィ坊」

「ピーッ!」

中からピィちゃんを招き入れたのは、屈強な1人の冒険者だった。額に大きな傷を持ち、袖口がギザギザとして逞しい二の腕を存分に晒している。オーウェンほどではないが、立派な体躯の持ち主だ。

男の名は、ザンザ。この国で有数のAランク冒険者である。しかし、先日無理な討伐を強行して、足を負傷してしまった。そのため現在は休養兼リハビリ期間中である。近々、魔物の大量発生の根源を断つべく冒険者部隊が派遣されることが決まっているが、残念ながらザンザの参加は叶わないだろう。

ピィちゃんが暇つぶしがてらギルドを散策している時に地下に迷い込み、重い扉の前で中に入れずに立ち往生しているところで出会った。

前線の勘を忘れないようにと、ほぼ毎日演習場で自主練か後輩冒険者の指導をしているザンザ。ピィちゃんは暇さえあれば地下に通ってザンザのリハビリの相手をしている。

「さあて、こっちはすでに準備運動済だ。早速やるか?」

「ピーッ!」

ザンザが木製の大剣を片手で軽々と持ち上げ、ピィちゃんに不敵な笑みを向ける。ピィちゃんは高く鳴いて了承の意を示す。ちなみに、ギルドの演習場での真剣の使用は禁じられている。治癒師が常駐しているとはいえ、万が一のことがあってはいけないからだ。

2人は10メートルほどの間隔をあけて向かい合う。

「よっしゃ、いくぜ!」

ザンザは、気合を入れて吠えると、大剣を振る勢いを乗せてピィちゃんに迫った。

「ピュアァァッ!!」

ピィちゃん目がけて大剣が振り下ろされたかと思うと、ガインッと鈍い音がして大剣が弾け飛んだ。

ピィちゃんの鼻先を中心として淡い水色の球体が展開している。球体にはヒビ一つなく、一方の大剣はクルクルと宙で弧を描きながらザンザの後方に突き刺さった。

「はっはー! 絶好調じゃねえか! 痺れたぜ!」

ザンザの言う通り、彼の手は僅かに震えている。全体重を乗せた渾身の一撃を放ったのだ。跳ね返された衝撃が、ザンザの手に余韻を残している。

突き刺さった大剣を引き抜いたザンザは、未だ結界を展開したままのピィちゃんに歩み寄ると、強度を確かめるようにカンカン、と結界を叩いた。

「ふうむ。最初に比べて随分と強度が増したようだな。日々の鍛錬の成果が出てるんじゃねえか?」

「ピピッ!? ピュアッ!」

ニカッと笑ったザンザの賛辞に、ピィちゃんは嬉しそうに翼をパタパタと小刻みに震わせている。

「それで、今はどれぐらいの大きさの結界を張れる?」

「ピッ」

ザンザに指示をされ、ピィちゃんは両手を結界にかざして意識を集中させる。ピキピキ、と結界が範囲を広げていき、ザンザとピィちゃんをすっぽりと包み込んだ。

「おお、これはいい! で、中から外に干渉はできるのか?」

「ピィ?」

まるで少年のようにウキウキと目を輝かせるザンザに、ピィちゃんはその言葉の意図が分からずに首を捻る。

「ん? ああ。お前さんの結界は外敵からの攻撃を防ぐものだ。だが守られてばかりじゃ消耗戦になるだろう? もし中からも同じように攻撃を跳ね返されちゃ、反撃に打って出るには結界からも出なきゃならねえってことだ」

「ピィ」

「分かるな? だから、結界に守られたまま、結界を破壊することなく攻撃できるかどうかが重要になってくる。ま、そんな芸当ができるのは【結界】の【 天恵(ギフト) 】持ちでもかなり能力レベルを高めなきゃならねえらしいがな」

「ピィ……」

ザンザに言われたことを頭の中で反芻する。

外からは攻撃を弾き、中からは外に干渉できるようにする。

なぜだか、ピィちゃんはできるような気がして頭の中に浮かんだイメージを結界に反映させた。

「んお?」

結界がキラリと波打ちながら光を反射した。

ザンザは結界が変容したことを直感的に察し、内側から大剣をゆっくりと突き出してみた。

「おおおお」

大剣は結界に阻まれることなく結界の外にその切っ先を突き出した。左右に振ってみても結界は揺るがない。

「これはすごい! 実戦向きの結界の理想形だ。俺が戦線復帰したら一緒にクエストに出ねぇか?」

ガハハ、と愉快そうに笑いながら、ザンザはピィちゃんに問いかけた。ピィちゃんは「ピピッ」っと得意げに尻尾を振るが、同時にゆっくりと首も振った。

「ま、そうだよなあ。ピィ坊は大切な主人のためにこうして鍛錬を積んでるんだもんな」

「ピッ」

そう。ピィちゃんがこうして結界の訓練をしているのは、ひとえにサチを守る手段を増やすため。ピィちゃんは小さなピクシードラゴンであり、子竜でもある。自らが非力な存在であることも十分すぎるほどに理解している。

だが、ピィちゃんには結界という十分すぎる能力があった。結界のおかげでサラマンダーの胃液に消化されることなく、サチと出会うことができた。その能力を伸ばさずして何を伸ばすというのだろうか。当初は身の回りを覆うほどの結界が限界であったが、毎日たくさんの魔物肉を食べて力を蓄えてきたピィちゃんは、今ではザンザを驚かせるほど大きな結界を張れるようになっていた。

もちろん、サチの身に何も起こらないのが理想ではある。

だが、トラブルとは用心していてもこちらの都合にお構いなしに飛び込んでくるものなのだ。サチならきっと、自らの手で未来を切り開いていくのだろう。けれど、ピィちゃんがその一助となりたいと思うのも自然のことなのだ。

「ピーッ!」

「お? もう一回やるか? いいぜえ、とことん付き合ってやる。一瞬でさっきのサイズの結界が展開できるまで帰さねぇから覚悟しとけ!」

「ピィッ!?」

気合を入れ直してザンザに向き合ったピィちゃんであったが、それは大変困る。長時間留守にしすぎると、サチに心配をかけてしまうではないか。

「ピッ!」

少しでも早く、大切な彼女のもとに戻るためにも、彼女を守る手段を身につけるためにも、ピィちゃんは一層気合を入れて突撃してくるザンザに対峙した。

――幸か不幸か、ピィちゃんの日々の努力が実ることになるのは、ほんの数日後のこととなるのであった。