軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第77話 謝恩パーティ②

「疲れた」

珍しくげっそりと疲労感を滲ませるマリウッツさんは、髪色と同じ紺色のタキシードを着用していた。片側だけ髪を耳にかけていて、いつもと雰囲気が違う。流石のかっこよさだわ。

「お疲れ様です。人気者ですね」

「ふん」

初めて出会った頃はトゲトゲとした雰囲気を纏った一匹狼って感じだったのに、自分を慕う冒険者たちを無碍にせずに話を聞いていたのだから随分と丸くなったなあと思う。マリウッツさんに言ったら絶対に不服そうな顔をするだろうから内緒だけど。

3人集まって国王陛下の鎮座する玉座へと向かう。陛下はどこか疲れた様子で、やつれて見えた。そんな陛下の隣にはヘンリー様も控えていて、私たちの姿を確認してパッと破顔した。

「此度は我がサルバトロス王国の問題解決に一役買ってくれたこと、心より感謝する。なんと礼を言ったらいいのか……謝礼は既に貴国のギルドに支払っておるが、お主たちにはこれを」

そう言って国王陛下がヘンリー様に目で合図をする。ヘンリー様が懐から何かを取り出して私たちに手渡していく。それは、サルバトロス王家の紋が描かれたペンダントだった。

「それは友好の証。何か困ったことがあれば、通行手形代わりになるだろう。我々に協力できることがあれば何でも言ってくれ」

「ありがとうございます。光栄です」

アルフレッドさんが優雅に腰を折る。私も慌てて頭を下げた。マリウッツさんは相変わらずお辞儀というものを知らない様子。

顔を上げてから、ふと何か違和感を胸に抱いた。王座に座っているのは国王陛下、そしてヘンリー様だけ。あれ? 王妃様とリリウェル様は?

「僕からも改めて礼を言わせてほしい。我が国を救ってくれて本当にありがとう。君たちがいなければ、今頃魔物に蹂躙されていたかもしれない。それに、マンティコアが成体にまで成長して、世界的な脅威になっていたかもしれない」

ヘンリー様が胸に手を当てて、私たちに頭を下げた。なんと国王陛下も深く頭を下げている。

「それに、愚妹の所業について謝罪をさせてほしい」

ん? 何のこと? と首を傾げる私たちを、ヘンリー様が玉座の裏から通じる部屋へと案内してくれた。どうやら公の場で話せない内容らしい。

椅子とテーブルだけが置かれた小さな部屋で、ヘンリー様は私たちが【転移】に巻き込まれた事の顛末を話してくれた。

「リリウェルは既に最北端の修道院に送られた。実はあの子は【治癒】の【 天恵(ギフト) 】を持っていてね。まあ、人のために力を使うようなやつじゃないから能力レベルはまだ2とかだったと思うけど、修道院で治癒師として国民を治癒して、能力レベルが10になれば王都に戻れることになっている」

ヘンリー様曰く、【治癒】の能力レベルを上げるためには、たくさんの人を癒す必要があるらしい。私が魔物を解体するのと同じような感じかな。

「ま、素直に治療に専念するようになったとしても、能力レベルが10になるには何年、いや、何十年もかかるだろうけどね。それだけの時間、治療を必要とする国民と触れ合えば、リリウェルも性根を治すことができると信じているよ」

今回のことで、王族から除籍されたリリウェル様が辺境の地に飛ばされて、裏で糸を引いていた王妃殿下も離塔に幽閉されることになり、ヘンリー様は何の障害もなく立太子することが決まったという。

「とにかく、不穏分子を排除できたんだ。そのことについても君たちには感謝しているよ」

口ではそうは言いつつも、ヘンリー様はどこか寂しげに瞳を伏せている。

リリウェル様が自らの過ちを自らで正し、同じ王族として国民を守るために協力し合う関係を築けたら、どれほどよかっただろう。本当は、そんな未来を思い描いていたのではないだろうか。

少ししんみりとした空気が流れるが、ヘンリー様がパチンと両手を打ってアルフレッドさんに向き合った。

「さて、報告はここまでにして……実は、アルフレッドに会いたいという人がいてね。呼んでもいいかい?」

「? ええ。もちろんです」

一体誰だろう? アルフレッドさんも心当たりがないらしく、戸惑いながらも承諾した。

「ありがとう。サーヤ、入っておいで」

ヘンリー様の呼びかけで静かに部屋に入ってきたのは、いつも私たちの夕飯の支度をしてくれるメイドさんだった。胸の前で両手を握り、不安げな表情をしている。

「ほら、サーヤ」

ヘンリー様に後押しされ、サーヤさんは深く深呼吸をしてからアルフレッドさんの前に歩み出た。

「お、お久しぶり、です」

「ええと……すみません、どこかでお会いしていましたか?」

どうやらサーヤさんはアルフレッドさんの知り合いみたいだけど、当のアルフレッドさんには思い当たる節がない様子。

「はい。一度だけ……もう何年も前になります。あの頃は子供だった私も、今では仕事をして生計を立てていけるまでになりました」

うーん、と首を傾げていたアルフレッドさんの目が次第に見開かれていく。

「ま、まさか……あなたは」

「はい……ワイバーンに襲われた村で、あなたに救われた子供です」

思わぬ人物の登場に、私は固唾を飲んで様子を見守る。まさか、こんなところで再会が果たせるなんて。

サーヤさんは震える声で、懸命に言葉を紡いでいる。

「わ、私、あの後すぐにサルバトロス王国の孤児院に引き取られることになりました。私の村は国境に位置しておりましたので……ギルドと交流のあった御仁が声をかけてくれたのです。そこで礼儀作法を教わり、働ける年齢になってからは王城でメイドをしています」

「そう、でしたか……お元気そうで何よりです」

アルフレッドさんは、眉間にグッと皺を寄せながらも、本当に安心したように吐息を漏らした。

「私っ、ずっと、あなたに会いたかったんです。王城で見かけた時はまさかと思いました。でも、声をかける勇気がなくて……あなたも私があの時の子供だと気づいてない様子でしたし……私の存在が、あなたの辛い記憶を呼び起こすかもしれない。でも、どうしても、伝えたいことが……」

サーヤさんは所々で詰まりながら、嗚咽を漏らしながら話を続ける。

「あ、あの日、私を助けてくれて、あっ、ありがとうございました! それなのに、それなのに……! 私はあなたに酷い言葉を投げてしまって……ずっと、ずっと後悔を……うっ、本当に、ごめんなさい。ごめ、ごめんなさい……!」

とうとう堪えきれなかった涙がサーヤさんの頬を伝っていく。

「私、いつも誰かに助けてもらってばかりで……いつまでも後ろ向きに生きてちゃダメだって。せっかく助けてもらった命だから、私は私に正直に生きたいって、そう思って……」

両手で顔を覆って涙を隠すサーヤさん。

アルフレッドさんは目を大きく見開いて戸惑っている様子だけれど、脱力したように息を深く吐いた。

「そう、ですか……よかった。元気に過ごしていたのですね。よかった……きっと、あなたを守った彼らも浮かばれるでしょう。あの時のことは気にしていないといえば嘘になりますが、最近ようやく、向き合えるようになってきたところなんです」

アルフレッドさんは、私とマリウッツさんに優しい視線を向ける。

「過去に囚われるより、これから先の長い未来を前向きに生きる方が有意義です。もちろん、犠牲になった人々のことを忘れるつもりはありません。ですが、彼らの分まで生きたい。僕は今、そんな風に考えています。名乗り出るのはとても勇気が必要だったでしょう。ここで、あなたに会えてよかった。無事な姿を見れてよかった……本当に、ありがとうございます」

「うっ、ふぐ、っ」

しばらくの間、サーヤさんの嗚咽だけが部屋に響いていた。