軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第146話 望まぬ帰国 ◆マリウッツ視点

小さな窓から月明かりが差し込んでいる。鉄格子の影が月光を引き裂くように重く室内に伸びている。

強制的に【転移】させられ、丸一日は経っただろうか。

俺は灯りが落とされた部屋をゆっくりと見回した。

俺は今、幼少期を過ごした部屋に軟禁されている。

生まれ育ったドラグア王国に【転移】した直後、催眠効果のある薬をかけられ、不覚にも捕らえられてしまった。長年相棒としてきた剣も取り上げられ、鉄格子の嵌められた部屋に閉じ込められている。手枷をつけられ、足は鎖で繋がれている。

放り込まれたのが牢でないだけマシかもしれないが、まさか再びこの部屋に戻る日が来るとは思わなかった。

かつて自室として与えられた部屋が、当時のまま残されていたことには驚いたが、必要最小限のもののみが設えられていて相変わらず無機質な部屋だと思う。

子供らしいものは一つもない。当時の俺の日常を表したように、ひどくつまらない部屋だ。埃が被っていないところを見ると、俺がいなくなってからも管理だけはきちんとされていたらしい。

時が来れば部屋から出すと言われているが、今更俺を呼び戻した理由はなんだ?

ここに閉じ込められてからというもの、食事を与えられていない。水だけは用意されているが、食事の必要がないということは、少なくとも長期間監禁する予定ではないということだろう。恐らく、『その時』というのは近いうちに訪れるはずだ。

部屋から出された時が逃げるチャンスだ。

それまでは体力を温存し、余計なことを考えすぎるな。

「三日月か」

小さな窓から狭い夜空を見上げれば、細い月が控えめに輝いていた。昨日より月が欠けている。一週間後には新月を迎えるだろう。

新月にはいい思い出がない。

冒険者になってからも、新月の日は夜の魔物討伐依頼は受けないようにして早々に家に戻るようにしていた。

先月の新月の日はちょうどサチが休みだったので、俺の家でのんびり過ごした。

ドーラン王国から遠く離れた場所にいる今、つい先月のことが随分と遠い日のことに思えてしまう。

サチは今頃どうしているだろうか。

突然目の前で俺が消えて、きっと混乱しているだろう。

サチならば、状況を打破するために何か行動を起こすに違いないが、今回は相手が悪すぎる。そう簡単にドラグア王国に訪れることは叶わない。

俺が、俺自身の力で、サチの元へと戻るんだ。

ギリッと奥歯を噛み締める音で、初めて自分の肩に力が入りすぎていることに気がついた。俺は一つ息を吐くと、足を組み替えて体勢を変えた。

月に雲がかかったのか、部屋に暗闇が広がる。

――この部屋にいると、嫌でも幼い頃の記憶が蘇る。

俺は第二王子として生まれ、第一王子である兄のスペアとして育てられてきた。

誰も俺を『マリウッツ』としてではなく、『第二王子』としてしか見ていなかった。

今になって強引に連れ戻されたということは、もしや兄に何か起きたのか?

そう考えていると、何重にも鍵がかけられた重い扉がゆっくりと開いた。

気配を殺すように静かに足を踏み入れた人物を、警戒心を強めて睨みつける。

布が擦れる音で、少しずつこちらに近づいてきていることが察せられる。

ぼんやりと闇に浮かぶ輪郭を認めた時、月を隠していた雲が晴れた。

「マリウッツ、久しぶりだな」

「……兄上」

淡い月明かりに照らされ現れたのは、俺の兄であるテオドールだった。