軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第144話 ドラグア王国の黒い噂

「黒い噂?」

思わず問い返した言葉に、ブライアン王子は「しっ」と人差し指を立てた。

「ああ。ドラグア王国が竜信仰をしている話は彼の説明の通りだ」

そう言ってブライアン王子はアルフレッドさんに視線を向ける。

「我が国ドーラン王国と縁の深い商人が、交易で年に数回だけドラグア王国を訪れているそうでね。ある時、彼は道に迷って立入禁止区域に足を踏み入れてしまったそうなのだが……あの国は表向きに開放している土地以外はかなり荒れているらしい。話を聞く限り、おそらくは瘴気の類だろう。迷い込んだ森には動物が住んでおらず、草木も黒く枯れていたそうだ。そして時折腹の底から響くような、空気を震わす呻き声が聞こえるんだって。国に満ちる瘴気をドラゴンが抑えているというのがドラグア王国民の考えらしいのだが」

ブライアン王子はそこで言葉を切り、言いにくそうに、そして嫌悪感を露わに、息を吐き出した。

「ドラゴンの力を借り受ける代わりに、昔から慣習と化していることがあるそうなんだ」

「それは……?」

どうしてか、聞くのが怖い。聞きたくない気持ちが胸に迫り上がってくる。

応接室の空気はピンと張り詰めている。

「贄、だよ」

「え……」

「ドラグア王国は民を贄としてドラゴンに捧げている。これは国際法で厳しく禁止されている古き慣習だ。今回ドラグア王国に立ち寄った際に、ことの真相を究明することが、俺たちに課せられた使命でもある」

「そんな……」

「どうやら最近、ドラグア王国の情勢も悪化しているようでね。大規模な贄が捧げられるのではないかと危惧されている」

贄って、生贄ってことだよね。

情勢が悪化しているタイミングで、マリウッツさんが連れ去られた。

どうしてこのタイミングで?

もしかして、国民だけでなく、王族の血を引くものを贄として捧げる、なんてことを考えているとしたら?

あり得なくはない、よね……最悪のシナリオに、サアッと血の気が引く。

「なるほど……このタイミングでマリウッツが連れ戻されたってえことは、そういうことだろうな」

オーウェンさんも私と似た考えに至ったのか、苦虫を噛み潰したような苦悶の表情を浮かべている。

「だが、滞在できるのはたったの一日なんだろう? そんな限られた時間でマリウッツを見つけることができるのか? それに、あの国は用心深い。きっと監視をつけられるぞ。監視の目を掻い潜ったとしても、闇雲に探して見つかるとも思えん」

その場に重い沈黙が落ちる。

私はギュッと両手を握り締め、そこでようやく、ずっと結び石を握りしめたままだったことに気がついた。

「あ……」

『もし遠く離れることがあっても、この石が再び俺たちを繋いでくれるだろう』

ほんの数時間前、マリウッツさんに言われた言葉が頭の中で響いた。

もしかして、これがあれば――!

「あ、あの!」

私は慌てて結び石を載せた手を突き出した。みんなの視線が私の手に集まる。

「これは、結び石、ですか?」

「はい、マリウッツさんにいただきました」

呟くように落とされたアルフレッドさんの言葉に、私は大きく頷いた。

アルフレッドさんは一瞬、ギュッと眉間に皺を寄せ、苦しげな表情をしたように見えたけれど……どうしちゃったんだろう。

「ふむ、サチとマリウッツは結び石で繋がっている、というわけか。それなら国にさえ入れればマリウッツの居場所を探れるかもしれねえ」

顎に手を当てたオーウェンさんが、苦々しく溜息をついて額を押さえて首を振った。

「サチを危険なところに向かわせたくはないが……マリウッツも大事な仲間であり、この国の恩人だ。これまで、俺たちはどれだけあいつに救われてきたか分からねえ」

「ああ。三年前のドラゴン飛来の際も、彼がいなければ国民に甚大な被害を受けただろう」

ブライアン王子はしばし考え込み、そして覚悟を決めたように口を開いた。

「サチさん、危険な旅路にはなるが、あなたの身は僕たち勇者パーティの名の下に、責任を持って守る。だから、我が国の恩人を救うために協力してはくれないだろうか」

「〜〜っ、はい! もちろんです!」

ただのギルド職員である私の頼みを受ける形ではなく、王子からの依頼という形をとってくれるのね。

その気遣いにギュッと胸が締め付けられる。

私は感謝の気持ちを示すために、深く頭を下げた。

「ピピィッ!」

黙って話を聞いていたピィちゃんもいつになく真剣な表情をしている。

ピィちゃんもマリウッツさんを助けたいんだよね。

旅の迷惑にならないように、精一杯私にできることをしよう。

「王都は転移先として登録してあるから、無事にマリウッツ殿を救い出した暁には、早急に二人をこちらに送り届けると誓おう」

「ああ。それと、危険な状況に陥ったら、すぐにサチを送り返すんだ。身の安全確保が第一。そのことを決して忘れるな」

「はい。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。魔物の解体でしたらお役に立てると思いますので!」

キリッと表情を引き締め、気合を入れる。

ブライアン王子はパチパチと目を瞬いてから、ふはっ、と破顔した。

「ははっ、それは心強い。入港が許可されたのは五日後。それまでに海に出てドラグア王国を目指す必要がある。出発は予定通り明朝。夜明け前にギルドまで迎えにくるから、今日はしっかり休んでね」

「はい!」

こうして、私はマリウッツさん救出のため、ドラグア王国へと向かうこととなった。