軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 可愛い愛娘 ◆オーウェン視点

「ぐぬぬ……」

俺は今、柱の陰から可愛い可愛い可愛い可愛い愛娘のアンの様子を観察している。

アンは今日もとびきりの笑顔でギルドの顔である受付嬢の仕事に邁進している。

ああ、そんな可愛い笑顔を向けて……冒険者の男どもが勘違いしたらどうする!!!

アンを前に鼻の下を伸ばしている冒険者に殺気を向けると、彼らはビクンと肩を縮ませて殺気の出所を探るように辺りを見回した。

ここでバレてはまたアンに業務中接近禁止令を発令されてしまうので、瞬時に殺気と気配を消して物陰に隠れる。

どうしてギルドマスターである俺がこんなことをしているのかって?

最近どうやら、仲良しのサチ以外の誰かとよく遊んでいるようなのだ。それとなく誰だと聞いても「誰かしらねえ」とはぐらかされてしまう。

アンの交友関係は基本的にギルド関係であるはずなので、恐らくその相手は仕事中に接触する相手だと目星をつけているのだが……どいつもこいつも俺の可愛いアンちゃんに色目を使っているようにしか見えない。

アンに懸想する気持ちはよーーーーーく分かる。妻のアイリに似て器量が良くて優しくて聞き上手で声も鈴を転がすような愛らしい声で……うっ、娘が可愛すぎてつらい。

「はあ、姿が見えないと思ったらこんなところにいたのですね」

「おう、アル坊」

頭を抱えてギリギリ歯を食いしばっていると、頭上から重いため息が降ってきた。

見上げればそこには心底呆れた顔をしたギルドのサブマスター、アルフレッドの姿があった。

俺はスックと立ち上がり、パンパンと膝を払った。

時計を見ればちょうど昼時に差し掛かっていたため、受付カウンターから数人出てきて食堂へと向かっていく。

受付を空けるわけにはいかないため、基本的にギルド職員の昼休みは交代制だ。

ああ、アンと一緒に昼飯が食いたい……そう思って様子を窺っていると、どうやらアンも前半休憩のようで鼻歌を歌いながらカウンターから出てきた。その足の向かう先は、魔物解体カウンターらしい。

「ふむ、サチと食堂に行くのか」

規格外の解体スキルを持つ友人とは、とても良い関係を築いているようでパパとしても嬉しい。

夕飯時に語られる話題でも、圧倒的にサチの話が多い。嫉妬してしまうほどに。

「え? 今日はサチさんお休みだったはずですよ?」

娘が育んでいる友情に想いを馳せていると、アルフレッドからとんでもない爆弾が投下された。

「なにィ!? じゃあ一体誰と飯を食いにいったってんだ!!!」

「ええっ!? いや、それは知りませんけど……ドルドさんじゃないですかね?」

ガシッとアルフレッドの胸ぐらを掴むと、アルフレッドは困ったように眉を下げながら答えた。

ふむ、確かにドルドとは親子のように仲が良くて、たまに酒を飲み交わす仲なのは事実……パパの晩酌には付き合ってくれないのにズルくないか!?

ぐぬぬ、と肩を震わせていると、近くを通りかかった冒険者の話題が偶然耳に入ってきた。

というより、「アン」というワードを反射的に耳が拾いに行ったというのが正しいか。

「この間街でアンさんを見かけたんだけどさ」

「おう、お前アンさんのこといいなって言ってたもんな」

「そうなんだけどよー……男と二人で歩いてたんだよなあ……はあ、恋人できたのかな」

「おい!!! その話ちょっと詳しく聞かせろ!!!」

「えっ!? ギルドマスター!? うわああっ、ちょ、落ち着いて……!」

到底聞き流すことができない話題に、シュバッと物陰から飛び出し、これ以上開かないというほど目を見開いて冒険者の襟ぐりを掴んで持ち上げた。

「アンと歩いてたってのはどこのどいつだ!?」

「えええっ!? 遠目でよく見えなくて……ぐええ」

「男と二人きりで外出だとォ!? そんなの……そんなのパパは許しませんッッ!!」

怒り任せにギリギリ締め上げて冒険者を持ち上げる。アンに懸想していたという冒険者は目を白黒させて今にも気を失いそうだ。俺も我を失って暴れそうだ。

「いい加減にしてください!」

「ひょわっ!?」

怒りで視界が真っ赤に染まりそうになった時、アルフレッドが俺の両脇に手を滑り込ませて指を細やかに動かした。

こそばゆくて思わず飛び上がった俺は両手を離してしまい、その隙に持ち上げていた冒険者の男を床に落としてしまった。

「さあ、早く行ってください。ギルド内でのアンさんの話題には十分に気をつけてくださいね」

「は、はいいいっ!」

冒険者の男二人はそそくさと逃げるようにギルドを飛び出してしまった。

せっかくの情報源だったというのに……

俺は拳を握りしめながら地団駄を踏む。

「ぐぬぬ……よし! クエストを発注する! アンの相手を特定して――」

「アンさんに嫌われますよ」

「ガーン!」

こうなったら調査依頼を出すしかないと思い至ったのだが、アルフレッドに真顔で一刀両断されてしまった。名案だと思ったのだが。

「本当にあなたは娘のこととなると途端にポンコツになる」

「む、褒め言葉か?」

「そんなわけないでしょう」

疲れたというように肩を揉みながらため息をつくアルフレッド。

「どうかしたのかい?」

ちょうどその時、薬師のレイラが通りがかった。そして瞬時に状況を理解したのか、露骨に盛大なため息をついた。

「……あんたも苦労するねえ」

「はは……もう慣れましたよ」

レイラは冒険者服を着ていることから、また自分で素材の採取に出ていたことが窺える。

ギルドで使用している薬のほとんどがレイラの営む薬屋で仕入れており、先代からの長い付き合いでもある。かつて冒険者をしていたアルフレッドとも一緒のクエストに出た経験もあり、俺とも気の置けない仲である。

「どうせまた娘絡みだろう? いい加減子離れしないと嫌われちまうよ」

「お前まで……!」

がくりと肩を落としていると、レイラは何やら懐から取り出してアルフレッドの手に握らせた。

「鎮静効果のある煙玉さ。対魔物用に調合したものだけど、ギルドマスターを大人しくさせるにはそれぐらいの威力がないと効かないだろう。頭に血が上ってどうにもならないときは顔面狙って投げつけるといいよ」

「助かります」

おい、どうして心底ありがたそうに懐に仕舞う。

色々と解せないことばかりではあるが、アンに嫌われることは絶対に避けなければならない。ここは溜飲を下げるべきか。

「愚痴ならいつでも付き合うからね」

脳内で激しく葛藤を繰り広げている間に、レイラはポンっとアルフレッドの肩を叩いて帰っていった。解せぬ。

◇◇◇

「おかえりなさい。遅くまでお疲れ様でした。先にお風呂に入る?」

「アイリ〜〜〜〜〜〜〜」

すっかり夜も更けた頃、仕事を片付けた俺が我が家に帰宅すると、ひだまりのような笑顔を咲かせた愛しの妻が出迎えてくれた。アンはすでに帰宅して夕食を済ませ、自室で休んでいるようだ。

俺は愛しの妻を腕の中にすっぽり包み込むと、いつものようにただいまの口付けを落とす。アイリは「ふふっ」と可愛く微笑んでそれを受け止めてくれる。可愛い。疲れが吹き飛ぶ。

俺はサッと風呂を済ませ、アイリが用意してくれた料理に舌鼓を打ちながら、いつものように今日の出来事を包み隠さず全部語る。アイリはいつもニコニコと俺の話に耳を傾けてくれる。

「あなた……きっとその時が来たらアンから紹介してくれますよ。それまでは優しく見守ってあげましょう。ね?」

俺の話を聞いたアイリが朗らかな笑みで窘めてくる。可愛い。笑顔だけどちょっと怒っているのが分かる。笑顔の圧がすごい。

だがそんな怒った顔も可愛い。存在が可愛い。天使か?

「天使か?」

「ふふっ、あなたの妻ですよ」

声に出てしまった。可愛い。

「アンが選んだ人だったらきっと素敵な男性よ。私はアンを応援しているわ。アンを守るナイトが増えると思って、ゆっくりとでいいから受け入れる準備をしましょう?」

「ぐうう……」

そう言われると頭ごなしに否定ができない。

本当にアンが恋人を紹介してくれた時のことを考えると……ダメだ、暴れてしまうかもしれない。

だが、きっと俺の隣でアイリが優しく寄り添い諌めてくれるのだろう。

「はああ……一発殴るぐらいだったら許されるか?」

「ダメですよ」

「ぐう」

せめても、とお伺いを立てたもののバッサリと切り捨てられてしまい、肩を落とす。

どこのどいつかは知らないが、アンを悲しませるようなことがあれば地獄に落としてやる。

だが、アンの笑顔を共に守ると誓うのであれば……………………少しは歩み寄ってやろうじゃないか。

温かな料理を口に運びながら、そっと愛しの妻を見つめる。すぐに俺の視線に気づいたアイリがにこりと微笑んでくれる。

結局、俺はアイリに頭が上がらないのだ。